二十三話目 見えちゃった日
「あら、今日は雨なのね…」
お母さんは僕を抱きながら残念そうに呟いた。
窓から外を見ると、昨日皆で行った庭に、点々と水溜まりが出来ていた。
確かに、今日は朝からずーっと雨が降っているけどさ…。
それよりも気になる事があるんだよね。
あのさ、明らかに雨よりも大きな塊も一緒に降ってきてない…?
………やっぱりそうだよ!お母さん、雨以外の何かも一緒に降ってるよ!?
何で雨にしか食いついてないの?
いや、また皆でお外に行きたかったのにね~?じゃないよ!!
えっ?えっ?それとも、お母さんにはコレ見えてないの!?
1人恐怖に恐れおののく僕に、その何か達は話しかけてきた。
『あれ?もしかして、みえるひと?』
『みえるひと?』
『え~!めずらしいね~』
へ?
あ~?君達の事なら見えてますけど…。
何?やっぱり君達って見えちゃいけない類のナニカなの?
僕の視線に気づいたらしい塊が3つ程、僕に話しかけながら近づいてきた。
その姿は、どう見ても大きめの水滴に、顔がついてる様にしか見えない…。
あっ、何かこんなゆるキャラいそうだな…。
どうやら僕って、まだ大人程には視力がある訳じゃないらしくてさ、遠目で見たら人魂がガンガン降ってるように見えたんだよね。
だからガクブルしてたけど、何だ…、近くで見たら結構可愛いじゃん。
でもさ…。
外の様子を見る為に開け放たれた窓から、顔のついた雫が3つ、此方を覗いている。
うん、字面だけ見るとやっぱり恐怖体験だな(笑)
で、だ。
君ら誰?
って聞きたいところなんだけど。
まだ母親とさえ意思の疎通が出来ないってのに、こんな謎生物と会話何て出来る訳ないだろ!?
何故この世界は僕に、こんなにも次から次と試練を与えるんだ!!
『ぼくたち、アクア~』
『なぞせいぶつじゃないし~』
『みずのようせいさんだぞ~?』
へ?通じた…?
『へ?だって~、おもしろ~』
『ね~、しれんってな~に~?おいしいもの~?』
『わーるどわいどなようせいさんなんだぞ~』
僕があまりの衝撃に固まっていると、【アクア】と名乗った妖精(?)達はケラケラ笑いながら、部屋の中に入ってきた。
お母さんは、謎生物が部屋の中に3体も侵入して来たと言うのに、何の反応も示さない。
視線も明後日の方を向いてるし…。
んー、やっぱりお母さんには見えてないんだ…。
『ふつーのひとにはみえないよ~』
『だ~から、なぞせいぶつじゃないし~ようせいさんだし~』
『このおねえさん、みえないひとだね~』
あっ、やっぱり僕の考えてる事が分かるんだね。
『わかるよ~?』
『あたまのなかのことがみえるのな~』
『はじめましてなの~』
へ~、そうなんだ…。
じゃあ、僕が頭の中で考えた事はそのまま君達に伝わってるんだね?
『そ~だよ~』
『ぴーんぽーん』
『こんぐらっちゅれ~しょ~ん』
……、なぁ、何か1人可笑しいんだけど?
『このこ、べつのせかいからもどってきたばっかりだからね~』
えっ?別の世界?
『そうだよ~?ここじゃないとこたくさんあるの~』
へぇ~、ってあれ?
前にもこんな会話しなかったっけ?
んー?こいつ等に会ったのって本当に今日が初めて?
何か、大切な事を忘れている気がする。
『まだ、思い出さな、くていいまだ、早い…』
誰かの声が頭の中に響く…。
あれ?急に、目蓋が、重い。
『ごめんね…』
誰かの小さな謝罪の声を聞きながら、僕は意識を失った。




