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二百二十五話目 続々々・VS.ゾルフの日


5月22日の更新です。


本日も宜しくお願い致します。





「なっ、なんだこれ…」



 屋外に設置されていた保健室から最前線に戻った僕の目に、始めに飛び込んできたのは…。


 元ゾルフの攻撃を、長めの長剣ながら剣1本でいなし捌きながら戦っている宇美彦の後ろで、ボロ雑巾の様になったルドルフ達を必死に治療しているコローレの姿でした。


「コローレ、状況は!?」


 慌ててコローレの下に駆け寄り事情を訊ねれば、


「はい。シエロ様がシャーロットさんを保健室にお運びになった直後、宇美彦が到着致しました。が、彼が到着するほんの少し前にお3人が負傷。私は宇美彦に戦闘を任せ、お3人の治療を開始したところに御座います」


 ブロンデの治療をしながら淡々と、かつ冷静に答えてくれます。


「そうだったんだ…。ごめんねコローレ?ありがとう」


「有り難きお言葉に御座います」



 聞けばパッと答えてくれるコローレに感謝と謝罪の言葉をかけると、急にすっくと立ち上がりいつもの胸に手を当てながらお辞儀するポーズを取った。


 あっ、こんな状況でもそのポーズはするんだね?


「勿論で御座います」


「フフフ。流石コローレ」


 こんな時でも通常運転のコローレに癒やされ、そんな彼に再度心の中で感謝しつつ、この状況を整理してみます。


 僕が戦線を離脱してから宇美彦が来る迄の間、3人は元ゾルフの攻撃によって大怪我をして戦線離脱。


 3人倒れたからと言って、攻撃の手が緩む訳が無いから、宇美彦が来るまでは怪我をした3人を守りながらコローレが1人で戦ってくれてたって事だよね?


 チラリとコローレの方を見れば、いつもは傷どころか乱れすら感じさせない彼の制服に砂埃や小さな傷跡が沢山ついていました。


 クレアさんを安全な場所へ移す為だったとは言え、勝手に抜けた事を少し悔やみながら、僕も気を失っている3人の治療に加わります。


 え?宇美彦?何とかなるでしょ。宇美彦だし?




《ギンッ、ガガガン!》


「ぐぅっ!コロさん!まだか!!」


 そんな呑気な事を考えていると、一際大きな金属音が聞こえ、宇美彦が呻きながらこちらに向けて声をあげます。


 見れば、なかなかしとめられない宇美彦にじれたのか、元ゾルフが何本もの触手を束ねて宇美彦を攻撃しているところでした。


 スピードを殺した威力重視の攻撃に、宇美彦も必死で応戦していますが、何せ宇美彦の胴回りの4~5倍はあろうかと言う太さの触手が襲いかかってきている為、攻撃をしのぐだけでも大変そうです。



「あともう少しお待ち下さい!シエロ様が治療にご参加下さいましたから、すぐに終わります!」


「あ?ソラ帰ってきてたのかよ!?じゃあ、ソラ!治療が終わったら、【アレ】の準備してくれ、よ!!おらっ!」


《ガギィイン!!》


 気合い一閃、宇美彦が襲い来る触手とも言えない様な太さの触手を両手剣を使って跳ね返すと、元ゾルフの本体はバランスを崩して仰向けにひっくり返ります。


 そして、コローレからの返事で僕がこの場に居ることを知った宇美彦は、今の内にと僕に向かって、嘗てより準備していた作戦を決行する旨を指示してきました。


 因みに【アレ】とは、ランパートさんに清めてもらった布地や聖水を使ってゾルフの体に巻き付けて動きを封じたのち、僕とコローレが2人がかりでゾルフの魂と体を浄化すると言う、一見シンプルな作戦です。


 正に、言うは易く行うは難しと言った作戦方法なのですが、僕達が考えた作戦の中で最も実行し易かった作戦でもあるので、ここは一丁気合いを入れて取り組む必要がありますね?


「うっ…」


 とは言え宇美彦が抑えてくれている間に、先ずは3人の治療を優先させなくてはなりません。


 痛みに呻くブロンデの頭を軽く撫でてから、僕はコローレと2人がかりで3人の治療を始めました。


 本当なら一遍に治療したくとも、さっき使った範囲内回復では皆の傷を全て完治させる事は出来ません。


 役割を決めようと聞けば、コローレがブロンデを診てくれると言ってくれたので、僕は最も怪我の具合が重そうなルドルフの診断から始めます。


 ルドルフの状態を改めて診てみると、さっき治したはずの足がまたプラプラになっていて、繋がっているのが不思議な事になっていました。


 他にも左の耳が千切れかけていたり、わき腹に触手の痛烈な打撃が当たったのか、肋骨が2本粉々。


 これでまだ生きてるのだから、獣人族の神秘としか言いようがないくらいの重症具合です。


「むちゃくちゃだ!全くもう、君は後でお仕置きだからな!!《光回復:大》《情報解析:診察》」


《パァァ!》


 手早く呪文の詠唱にあたる言葉を紡げば、僕の手のひらから光が溢れ、ルドルフの体全体を包みます。


 後はいつもの様にシュルシュルと巻き戻し動画を見ている様に傷口が塞がって行きますが、やはりルドルフも血を流しすぎていた為血液が足らず、顔色は悪いままです。


 一応クレアさんと同じく増血剤を飲ませ、そっと体を地面に横たわらせました。


 とりあえず、ルドルフはこれで良し。増血剤も飲ませたし、暫くすれば薬が効いてくるでしょ!


 本当は地面じゃなくベッドに寝かせたいところだけど、今は先ず回復が優先って事で!!



 さて、そんな訳で続いてはマジョリンさんの治療に移ります。


「あれ?」


 見れば、マジョリンさんの体には制服の損傷が激しい割に、パッと見て分かる様な傷はありませんでした。


 だからこそルドルフの方を優先した訳なんですが、それにしても着ていた制服はボロ布同然になっているのに、体は無傷なんて有り得るのかな?


「コローレ、マジョリンさんの治療は終わっていたの?」


 不思議に思いコローレに治療済みかどうかを訊ねましたが、


「いえ。彼女は比較的傷が浅かったので、申し訳なく思いながらも治療は後回しにさせて頂いておりましたが?」


 との返事が返ってきただけでした。


 コローレは【傷が浅かった】って言ってたけど、見た感じも魔法を使って診察した感じも、マジョリンさんの体に異常は見つかりません。


「ん~?」


「んっ。……あたい気絶しちまってたかい?」


 不思議現象に首を傾げていると、マジョリンさんが目を覚ましました。


 すぐ起き上がろうとする彼女に手を貸しながら、前にルーメン姉さんにもらった水の魔石から水を作り出して飲ませます。


「こく。んくんく…」


 お椀みたいな器に注いで口に近づければ、マジョリンさんは勢いよく器の中の水を飲んでくれました。


 良かった。普通に水を飲む事が出来たみたいだ。



「はぁ、ありがとさん。人心地つけたわさ」


 水を飲み干してぷはっと息を吐いたマジョリンさんに満足した僕は、


「いえ。元はと言えば僕が戦線離脱したのが原因ですし…。それよりマジョリンさん、これで良ければ羽織っていてください」


 主に僕の心の安寧の為に。と僕の私服のチュニックを異空間リングから取り出しました。


 あっ!チュニックって言っても、女装してる訳じゃないですよ?魔道具作るのに幼稚園児とかが着るスモックみたいな服が欲しくて作ってみただけですからね?


 しかも作ったは良いけど、寸法間違えて大きく作りすぎたから封印してあった品なので、僕1回も着てませんからね!?


「そりゃ有り難いが…。こんなに綺麗な若草色のチュニックだ、妹さんのだろう?あたいが着ちまって良いのかい?」


「大丈夫ですよ?さぁ、いつまでもそんな格好している訳にはいかないじゃないですか。ね?」


「すまないねぇ」


 何か上手い具合に勘違いしてくれた事にホッとしながら、チュニックを着てもらう。


 とりあえず上から着てもらう形になったけど、彼女の着ていた制服はボロボロ過ぎてあちこち見えたら駄目なやつがこんにちはしていたから、これでひと安心です。


 あれじゃあ目のやり場に困って話しを聞くどころじゃありませんでしたからね?


「シエロ様、ブロンデ君の治療は終了致しました」


「ありがとうコローレ。あっ、マジョリンさんの手当てがまだ終わってないんだ。マジョリンさん、どこか痛むところはありませんか?」


 意識があるなら直接聞いた方が早いし、怪我がひとりで?に治った理由も聞きたいですからね?


 するとマジョリンさんは、若草色のチュニックの裾を直しながら、


「あぁ…。あたいの体を心配する事はないさね。ゾーイちゃんにもらった魔道具のお蔭で、完治してるハズだからね?」


 といつもの調子でニヤッと笑いました。


 そのままマジョリンさんはチュニックの袖を捲り、僕やコローレに見せつける様にドヤ顔でブレスレットを顔の前で掲げて見せます。


 それは、真ん中に小さな黄色い石が嵌まったリング状のブレスレットで、確かに僕達が作る回復専用の魔道具そのものでした。


 通常の物と違うのは、艶消しされた本体の色が光を吸い込む程の、真っ黒ボディだって事くらいですかね?


 うん、流石はスミスさんだ。いつも黒尽くめのマジョリンさんにはお似合いなブレスレットに仕上がっています。


「編み物の仕方を教えた礼に貰ったんだ。こいつを気絶する前に起動させて置いたから、あたいの体に傷は無かっただろ?」


 キシシシシと腰に手を当てて得意げに笑うマジョリンさん。


 そっか、魔道具を予め起動する事が出来たのか…。


 あの魔道具が研究会で使っている基本の物と同じであるのなら、骨折や内臓破裂と言った重度の怪我も治せるだけの力を備えてあります。


 それが起動出来たと言うのなら、確かに彼女の体に傷が無かったのも頷けますね?



「なるほど、魔道具の効果で御座いましたか。流石はゾーイさんの魔道具。効果が高い物で御座いますね?」


「だろう?ゾーイちゃんの魔道具作りの腕はピカいちだからね!……だから、ブロンデとルドルフが目覚めたら逃げられるし、この魔道具があればちょいとした怪我なら治せるさね」


 コローレの感心した様な讃辞に得意気に返したマジョリンさんでしたが、一瞬黙った後で今度は僕の方へ向き直ると、


「シエロとコローレはあたいらに構わずアイツをヤッちゃっておくれな?」


 と優しい微笑みを浮かべながら続けます。


 更に僕の胸の辺りを軽く握った拳でポスンッと叩いてくるから、レアなマジョリンさんの微笑みも相まって何だかドギマギしてしまいますね…。


 あっ!そうは言ってもいつもは見せない表情に驚いたってだけで、僕にそっちの気はありませんからね!?


 だって僕の精神年齢37歳だよ!?マジョリンさんにドキドキしたとか犯罪じゃない!??


「おぉ~い゛…。まっ、まだか~?」



 あっ、宇美彦の事忘れてた…。





ルーナスが勘違いしたシエロが取り出したチュニックは、妹のフルスターリが着るにはつんつるてんです(笑)


シエロ「身長差で泣けるorz」


本日もここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。



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