二百二十四話目 続々・VS.ゾルフの日
5月21日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
何かがぷつりと切れる音が聞こえたと思ったら、うなだれていたゾルフの様子が急におかしくなりました。
急に大きく体を揺らしながらガクガクと震えだしたかと思えば、次の瞬間には白目を剥いて天を仰ぎながらビクンビクンと小刻みに痙攣し出します。
「なっ、コローレ何したんだよ!?」
「私は何も。ただ、お話しをしていただけで…」
ただ暴れ出すよりもよっぽど恐ろしい光景に、普段は冷静なコローレも焦った様な声を出してルドルフに反論しています。
ただ、そうこうしている間にもゾルフの痙攣は激しさを増し、手や足が勝手にブルブルと動き出して、口からは泡を吹き出す始末。
「あ…。あぁ…。た、たすけ…」
白目を剥き泡を吹くゾルフの口から、微かな助けを呼ぶ声が聞こえた瞬間。
ゾルフの体が前触れも無く、突然パーンッと張り裂けました。
まるで膨らみ過ぎた風船の様に、本当に突然ゾルフの体が木っ端みじんに吹き飛んだんです。
《ズルッ》
余りに突然起きた出来事に、僕達全員が呆然としていると、コローレの張った障壁の中に飛び散ったゾルフだった破片の奥に、何か蠢く物体が確認出来ました。
口を抑えて青ざめてしまったクレアさんの前を塞ぐ様に立ちながら――誰だ!身長が足りないって言った奴!!足りたの!!バッチリだったのぉー!!!――、障壁の中を覗く様に伺ってみます。
中は、人が1人内側から破裂したと言うのに、そこにへばりついているのは【皮】とほんの少しの【肉片】だけの様で、血液の類はそれ程確認出来ませんでした。
でも、その皮のせいで中がどうなっているのか良く見えないな。
んー。それに、明らかにへばりついてる血液の量が少ないし……。
かと言って、今障壁を解除してもらう事が上策とも思えないし……駄目だ。
コレは、人が長い事直視したらいけないやつだ…。
ウプッ。
僕はせり上がってくる吐き気と戦いながら、コローレに相談しようと彼の方へと振り返りました。
すると………。
「シエロ君、危ない!」
えっ?
急に前が暗くなって驚いたのですが、よく見れば危ないと叫んだのはクレアさんで、暗くなっのは、彼女は僕を体をの上に覆い被さってきていたからでした。
一体何が?
《ドンッ》
そう考えた瞬間に感じる振動。
?
「くっ、クレアさん?」
《ズルッ》
本当にどうしたんだろうと軽く身じろぎしてみれば、途端にクレアさんの体は僕の体からずり落ちて、そのまま地面に顔から落ちていきました。
反射的に体を支えたから、本当にクレアさんが顔から落ちることはありませんでしたが、腕や手のひらに、何か温かい感触がジワジワつたってきます。
「クレアさん、どうし……」
【たんですか?】と続ける事が急に出来なくなる。
「え?」
不意に腕や手のひらに感じた、生暖かな感触に違和感を感じてそちらを見れば、真っ赤に染まった己の手のひらが映り、カタカタと勝手に手や体が震え出す。
「クレアさん?…クレアさん!クレアさん、しっかりしてください!!」
体の震えが声にまで混じり、震える声で彼女の体を揺さぶりますが、クレアさんはピクリとも動きません。
あぁ、こんなに揺さぶったら駄目だ!余計に彼女から血が流れてしまう!!
頭の中では冷静な自分がそんな風に警鐘を鳴らし続けているのに、クレアさんの体を揺さぶってしまう手が止められません。
クレアさん。クレアさんクレアさんクレアさん!どうして僕なんか庇ったんですか!?
「シエロ!シャーロット担いで一旦そこから離れろ!!直ぐに2波が来るぞ!!」
鈍った脳にルドルフの声がダイレクトに届き、ほぼ反射的に彼女を抱えてゾルフから離れる様に跳躍。
《ズガァアアアアン!》
すると、僕が飛び退いた正にその場所に、僕の胴体程の太さがある触手が深々と突き刺さり、地面を穿ちます。
《ズザーー》
飛び退いた衝撃で少し滑りながらも、2~3m程滑って止まった僕がゾルフの居た場所を見れば、まるで内側から爆発を起こしたかの様にバックリとえぐれた地面の中心部…。
そこに、クラゲと蛸を足して2で割ったかの様な、半透明のナニカが立って?いました。
「ごめんルドルフ、助かった!」
「ったく、しっかりしろよ?リーダー!!」
「うん、ありがとう」
ルドルフに感謝しながら奴の方を伺い見れば、クラゲのお化けはうじゅるうじゅると夥しい数の触手を動かし、自分の体を守る繭の様に丸くなっていきます。
あの蠢く触手の1本が、コローレの障壁をいとも簡単に引き裂き、その上でクレアさんの体をも簡単に貫いたと言うのですから、その威力を考えるとゾッとしますね?
僕は元ゾルフだったソレから目を離さない様にしながら、クレアさんの診察を開始。
すると、他の4人は僕らを庇う様に防御隊形を取ってくれます。
何も言わなくても、サッと動いてくれた彼らに再度感謝しながらクレアさんの体を診れば、彼女のお腹には、僕なんかを守ったせいで、直径10cm程の穴がポッカリと空いていました。
穴の他にも肋骨が折れ、内臓の一部が傷ついているのが分かります。
「《光回復:大》《情報解析:診察》……駄目だ!傷は塞がったけど、血が足りない…」
今僕が使った【光回復:大】は、【メガヒール】並みに体の組織から回復する事が出来ます。
これは、僕が使える回復魔法の中でも最高の回復量を誇る魔法ですが、それでも失ってしまった血液までは補えないんです。
僕から輸血が出来れば良いのに、と軽く舌打ちした僕は、元ゾルフの動きに注意しながら、未だ青白い顔のクレアさんのに液体状の増血剤を含ませました。
「こくっ」
湿らせる様に少しずつ含ませていくと、クレアさんの喉が微かに動き、どうにか増血剤を飲み下してくれます。
良かった、何とか飲んでくれた…。
ホッとしたところで、いつまでもクレアさんをこんな場所に放置も出来ないと言う事に気づく。
キョロキョロと周りを見回して見ますが、校庭はゾルフとゾルフが生み出した奴らのせいで荒れ放題になっていて、クレアさんを寝かせて置くような場所はありませんでした。
「皆、クレアさんを安全な場所に運びたい!5分離脱しても大丈夫?」
「当たり前だろ!!」
「お任せ下さい」
「がっ、頑張るよ!」
「キシシシシ、なんなら1時間くらいイチャついてきても良いよぉ~?」
「イチャ…うぇえ!?」
「シシシシシ、冗談さね!さっさと行ってきな!」
ニヤニヤしながら、シッシッと虫でも追い払う様な仕草をするマジョリンさんと、彼女の仕草をそっくり真似するふた…いやコローレもやってるから3人か…。
「ううう…。ごめん!すぐもどるから!」
そんな、頼もしくも僕をからかう事は忘れない皆の声に励まされながら、僕はそのまま、なるべく彼女の体に負担がかからない様に抱きかかえ直すと、アテナ先生が居る、屋外保健室へ転移しました。
《シュンッ》
瞬間現れた白い天幕を足で捲り、中へと体を滑り込ませます。
ここは、元々特大キャンプファイヤーの周りで【踊り】続ける予定だった為に設置されていた屋外保健室でしたが、今は最前基地の様な装いに変わっていました。
天幕のあちこちで怪我人の治療や、突如現れたゾルフの対策が練られている様ですが、今はそれどころではありません。
「先生!クレアさんがお腹を撃ち抜かれました!!回復魔法をかけて、増血剤は飲ませましたがまだ意識が戻りません!!」
「えぇ!?分かったわ!そこのベッドが開いています。シャーロットちゃんはそこに寝かせると良いわ!!」
「了解!ありがとうございます!!」
驚いた声を出しながらも指示をくれるアテナ先生に感謝の言葉を述べながら空いているベッドを探す。
あっ、あった!あそこだ…。
チラリとアテナ先生の方を見れば、先生は僕の方をチラチラと確認しながら、それと同時に3人の怪我の治療をしていました。
スッゲー…。
そんなアテナ先生の鮮やかな治療に感動さえ覚えますが、そんな治療のお蔭で、瞬時に怪我を治した男の人達は、ヨッシャ!と叫びながら天幕をくぐり、外へと走っていきます。
僕は彼らのそんな足音を聞きながらクレアさんを空いているベッドにそっと寝かせると、彼女のサラサラの黒い髪が顔にかからない様に掻き分けました。
未だ青白いクレアさんの顔ですが、さっきよりは呼吸が整って来た様にも感じられます。
「………。それでは先生、クレアさんをお願いします!」
ちょっと名残惜しい気もするけど、僕は早く戻ってゾルフを何とかしなくちゃね!?
「あっ、ちょっとシエロ君!貴方は此処で…」
アテナ先生が何か言っていた様子でしたが、僕はそれに構う事なく、ルドルフ達の待つ場所へ転移を実施。
転移した直後に元ゾルフに襲われるのも嫌だったので、ゾルフの気配から少し離れた場所に跳ぶことにしました。
《シュッ》
再び変わる景色。
と、そこは…。
地獄絵図の如くが景色に変わっていました。
こんな緊急時でも、彼らはシエロとシャーロットをくっつけ様と画策しています(笑)
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。