二百ニ十ニ話目 VS.ゾルフの日
5月18日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
イヤらしくキヒっと笑ったゾルフは、今正に【作り上げた】2人を他の化け物達と同じ列に加え、自分の後ろにズラッと整列させました。
ゾルフは手前がスライム、奥がゴリラの様な形状の化け物といった風に何故か分けて並ばせていて、どうやら誰かを【従えている】と言う事に酔っている様です。
そして、
「さぁお姫様、これから楽しいショーの始まりだ!精々俺を楽しませてくれよ?」
まるでサーカスか何かのショーが始まる時の様な口上を述べると、ゾルフはわざとらしいまでに大きく両手を広げました。
「何を言って…」
楽しそうに笑うゾルフに訝しんだ僕が返事を返すよりも早く、ゾルフは化け物達に命令を下します。
「殺せ」
短くも強烈な命令を聞いた肉色の化け物達は、先程までの緩慢な動きが嘘の様な素早い動きで獲物……招待客達に向かっていきました。
化け物達には知性の無さそうな濁った瞳で、そこにいる人達を女子供関係なく次々と襲って行きます。
「止めろー!」
ルドルフが叫びながら、小さな女の子に襲いかかった化け物に切りかかりますが、スライム状のそれの表面に剣の刃が滑りぬめって、なかなか倒すどころか傷をつける事も出来ずにいる様です。
何とか間に入って女の子を庇いながら魔法で攻撃しようと構えたルドルフでしたが…。
そうしようにも、今まで自分達を無視していた化け物達が急に襲いかかってきた事で、更なるパニックが起こした人達が右へ左へと逃げ惑う為、もし化け物が攻撃魔法を避けたらと、怖くて上手く魔法を放つ事も出来ません。
辺りには悲鳴や怒号が飛び交い、更には逃げ惑う人々がルドルフの体にまでぶつかってきて、僕達の邪魔をする形になってしまっているんです。
くっそ~。地味に厭らしい戦法を取りやがるな~。
「止めさせろ!お前の目的は僕だろう!?」
僕がゾルフを睨みつけながら叫ぶと、奴はニヤニヤと心底楽しそうに笑っているだけで何も答えません。
……まぁ、止めろと言われて止める訳がないからこれも一応、ダメ元で~てな感じで言ってみますたけど、やっぱり無理でしたね?
しっかし、雰囲気が少し変わるだけで此処まで悪人面になるもんかね?
ゾルフの撫でつけられた金髪も、やや眠そうな赤茶色の瞳もそのままなのに、少し口角が上がったニヤニヤ顔を作るだけで、ぱっと見ただけだったら整ってる様にも見える顔が台無しだもん。
え?あぁ、真面目にやれって?
《シュパッ、シュパ!》
ごめんごめん。
ちゃんとやってるよ?
「えっ?」
「あ?………はぁっ?」
ルドルフのキョトンとした様な声に反応して振り返ったゾルフが、間の抜けた声をあげます。
ルドルフまでポカンとさせちゃったのは誤算だったけど、遠隔操作も上手く行ったから良しとするよ!いい感じにゾルフも僕の悔しい顔に騙されてくれたしね?
《パシャ、ドシャシャ》
さて、間抜けな表情を浮かべたゾルフの目線の先では、ルドルフの近くに居た物も含めた数体の化け物達が、音もなく細切れとなって地面に落ちていきます。
本当は対ゾルフ用に考えた方法だったんだけど、【浄化魔法を付与させた風刃】は思ったよりも効果抜群でしたね…。
コローレから、
《「ゾルフの様な体になってしまった人は、もう二度と元の体には戻れないのです。ひと思いに天へお返しなさる事もお考え下さい」》
そんな話しを聞かされていたから、切った先から浄化していけば痛みを感じる間もなく空へ行けるかな?
と思って試した方法だったけど…。
どうか安らかに眠ってください。
元の姿に戻してあげられなくてすいません。
僕は、キラキラと輝く光の結晶が空へ上っていく様子を眺めながら、言い訳じみた祈りを捧げる事しか出来ませんでした。
「おっ、お前!一体なにしやがったんだ!?」
どこか沈んだ気持ちで空を見上げていた僕に、ゾルフが顔を悔しそうに歪めながら怒鳴りつける声が聞こえてきて、ハッと我に返ります。
そして、キーキーとみっともなくわめき散らすゾルフにウンザリしながら、顔を奴の方に戻せば、ゾルフはさっきまでのドヤ顔全開と言った下品なニヤニヤ顔を消して、まだ奴が学生だった頃によく見ていた様な、卑屈な表情に変わっていました。
昔と変わっていないのであれば、あの表情は心が折れかけてる証のハズ。
ならばゾルフを封印しちゃおう作戦の第二段階目、【ディスって更に心を折る】を決行だ!!
「フッフッフ、愉快愉快。あんたがニヤニヤ笑っている間に、形成逆転させてもらったよ?」
「だから、何をしやがったんだって聞いてんだよ!?糞が!!」
ゾルフは悔しさからか、こっちに唾をバカバカ飛ばしながら叫んできました。
鼻を膨らませて真っ赤に怒るその顔がウザかったので、ここは更に追い討ちをかけてやろうと思います。
「うわっ、顔だけじゃなくて使う言葉まで下品~」
わざとらしく体をくねらせながら言ってみる。
グッ?これ意外と自分にもダメージ来るなぁ…。ブリッ子気持ち悪っっ!?
「ふざけんな!馬鹿にすんじゃねぇよ!!」
《だんだん》
うわっ、良い年――16歳くらい――した奴が地団駄踏んでるよ。
よく見れば半泣きだし、今の動作は諸刃の剣だったのか…。
ふむ。意外とゾルフの方がダメージがデカそうだね?
何か地団駄踏んでるゾルフの姿見たらちょっと溜飲が下がったから、更にきっちりと心を折ってる為に、ここはちゃんと説明してやるかぁ。
「風の刃に光の浄化魔法を付与して飛ばしたんですよ」
今度は僕がドヤ顔をする番とばかりにわざとらしくニヤニヤ笑ってやれば、ゾルフは面白いぐらいに驚きながら悔しがります。
「なっ!?じゃあお前、複合魔法を無詠唱であんなに沢山飛ばしたって言うのかよ!?あり得ねぇだろうが!!」
あり得ねぇも何も事実だしなぁ。
さて。キーキー言ってるゾルフをいたぶり続けるってのは、スッッッゴい面倒くさいんだけど!
遠くへ行ってしまって僕の魔法が届かなかった奴らの方も、騒ぎを聞きつけて駆けつけてくれた先生方の手で大分数を減らしたみたいだし、トドメにもうひと押ししてやりますか!
「馬鹿になんてしてませんよぉ?だってそこまで興味ないし」
「それを馬鹿にしてるって言うんだよ!」
よしよし、周りの状況にも全く気がついていないみたいだね?
僕は、考えつく嫌がらせの言葉を紡ぎながら、魔導リングからゾルフにバレない様に布や水を取り出すと、着ていたいつものローブの影に隠しました。
本当はコローレと宇美彦と一緒に陣を組んでやる予定だったけど、こうなったら仕方無い、一か八かになるけど最悪1人でゾルフを封印して…。
「馬鹿にするな馬鹿にするな馬鹿にするなーーー!どいつもこいつも俺の事を馬鹿にしやがって!!」
「しまっ!?」
やりすぎた!!と思っても後の祭り。
ゾルフは苛立ち紛れに両手を僕の方へ向けると、両手の指全てから触手を生やしてそのまま勢いよく振り下ろしました。
当然その勢いを殺すことなく僕に向かって凄い速さで10本分の触手が迫ってきます。
思わず腕で頭を守りながら目を瞑って衝撃に耐えますが、いつまでたっても触手が僕の体を貫く事はありませんでした。
………あれ?
「全く。ちょっと目を離した隙に、自ら危険に首を突っ込みになるのは止めて頂けませんか?」
恐る恐る目を開けると、呆れ顔のコローレが、僕の前に無傷で立っていました。
慌ててゾルフを見れば、コローレが張ったと思われる障壁の中に閉じ込められていて、中で触手を使って暴れている姿が見えます。
「え?コローレ?何で?」
コローレに向き直り、何故此処に居るのかを訊ねると、
「お呼びになったでしょう?」
と不敵に笑っています。
僕は、そんなコローレの顔を見ながら安堵すると共に、いつ呼んだっけ?と頭の中をハテナマークで埋め尽くしていました。
地団駄からのドヤ顔コローレ(笑)
筆者は【お約束】が大好物です!
本日もここまでお読み頂き、ありがとうございました。