二百二十一話目 続・文化祭3日目の日
5月17日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
おやつをモリモリ食べて復活したルドルフに誘われて、僕が一緒に楽しく【踊って】いた時、それは突然現れました。
《ミリミリミリミリ》
《ズン》
《ズシン》
《キャーーー!!》
けたたましく奇妙な音をたてながら、一部の【招待客の体】がビリビリと【裂け】、中からテラテラとした気色の悪い肉色の何かが姿を現したのです。
肉色のスライムや肉色のゴリラにも見えるその十数体の生肉色の塊達は、周囲に巻き起こる悲鳴の中、おもむろにズルズルズシンズシンと地響きをたてながら動き出しました。
その異様な軍団は、中心にいる者を守るかの様な円形の陣形を取っていて、まるで厳しい訓練を受けた兵士が要人を守っているかの様な、そんな息の合った動きを見せています。
《ズルズル、ズシンズシン》
「キャーー!」
「うわっ!こっ、こっちに来るなぁ!?」
「落ち着いて下さい!落ち着いて!!」
対してお祭りモードで浮かれていた人達は、急に現れた異形の存在に一転パニックを起こすと、誘導する先生方を突き飛ばし押しのけて、広い校庭内を我先にと逃げ惑っています。
しかし肉達はそんな逃げ惑う人々には目もくれず、真っ直ぐ僕の方へと進んで来る様です。
非戦闘員達に紛れて逃げ出しても良いけど、そんな事したら被害が増えるだけか…。
だってアレの中心に居るのはアイツだろうからね?絶対周りを壊しながらでも探し回るよね?
「さてと、こうなったら仕方ないか…。フロル、怖かったら離れておいで?狙いは僕だけのはずだからさ。勿論ルドルフもだよ?ここは危ないよ?」
『だが断る!!』
「ふざけんな!お前1人にしてハイそうですか。何て行ける訳ねーだろ?」
「っっ!ちょっとフロル、そんな言葉どこで覚えてくるの?それにルドルフ、あんなのとどうやって戦うってのさ?」
腰に手をあてて仁王立ちしながらふんぞり返るフロルと、凄い勢いでまくし立てるルドルフに一瞬気圧された僕でしたが、すぐに気を取り直して改めて2人に向き直ります。
ゆっくりと、しかし確実に迫ってくる肉達からは異様な気が放たれています。
醜く盛り上がってビクビクと脈打つ体を持っているアレらがどんな攻撃を仕掛けてくるのかなんて見当もつきません。
だから、出来るなら早く2人には安全な場所に逃げて欲しいんですが……。
『ん?アスミさんから聞いたんだよ?それと僕、シエロ置いてどっか行くつもりは無いよ?』
「あん?どうにかなんだろ!?」
しかし2人から返ってきたのはあっけらかんとしたものでした。
そんなアッサリ…。僕結構勇気出して言ったんだよ?もう…。
あんまりアッサリ言われてしまったので、すっかり毒気を抜かれた僕は、彼らに返す上手い言葉が見つかりませんでした。
「………ありがとう」
『ん!』
「おうよ!!」
こんな緊迫した状況なのに、なんだかとても穏やかな気持ちになる。
《ズルズル、ズルズル》
《ズシン、ズシン、ズシン》
僕は頼もしい妖精さんとハーフ兎君に感謝の気持ちを伝えると、右肩の上(定位置)で仁王立ちしているフロルを庇う様にしながら、迫り来る肉達を睨みつけました。
《ザザッ》
ゆっくりとした動作で動いていた肉達は、僕達の前まで進んで来ると今度はサッと自分達の陣形を変え、中心部にいる人物から僕達の姿がよく見える様に、フェルマータの記号よろしく分かれます。
「あっ?アイツ、まさか…」
ルドルフの呟きが空気に溶ける。
肉達の中には、当たり前の様に、ニヤニヤと厭らしく笑うゾルフがふんぞり返っていました。
しかし奴の姿は、体は、前回森で会った時の様な肩から腕にかけての異様な肉の盛り上がりが無くなっていて、ぱっと見は普通のヒューマン族に見えます。
肉達を従えている時点でおかしいのですが、何も知らないゾルフの同級生が見たら、
《「身長伸びたんじゃないか?」》
《「体つきも良くなったな~?」》
くらいの感想しか出て来なさそうな程、本当に普通の平凡的なヒューマン族にしか見えない姿をしていたんです。
しかし奴から漏れ出てくる魔力はどす黒く、その狂気をはらんだオーラはかつて見たマドラさんの力よりも陰鬱で、平凡な見た目とのギャップが激しく、その量も凄まじい物でした。
「ゾルフ……」
「会いたかったぜ?お姫様、ご機嫌は如何かな?」
僕が絞り出した言葉に反応する様に、慇懃な態度で接して来るゾルフ。
片手を胸にあてて騎士の礼を取っていますが、見ていてもイラだちの感情しか湧いて来ません。
例えばこれがコローレなら画になったであろう仕草も、ゾルフがやるとどこか下品で、ムカムカして胸焼けを起こしそうです。
って言うかコローレも宇美彦もどこ行ったんだよ?もう!あれだけ作戦会議したって、今揃ってなきゃ意味ないだろうよ!!
「初めての文化祭でテンションも上がってて最高だったんですがね?たった今、最悪になりましたよ。で?先輩の周りにいらっしゃるのはお仲間ですか?随分ユニークな格好ですね?」
苛立ち紛れにイヤミを交えた言葉を返せば、僕のイヤミに対してゾルフはにちゃ~っと上歯を見せる様に口角をあげて笑いました。
何ともおぞましいゾルフの笑顔に、僕は胸焼けを通り越して吐き気がする程の嫌悪感を感じながら、負けてたまるかとまっすぐに奴を見据えます。
恐怖が無いと言えば嘘になりますが、少しでもゾルフから視線を逸らしたら負けな気がして、どうしても逸らしたくなかったんです。これは意地ですね。意地!
「あぁ、俺の忠実な部下達さ、格好良いだろう?【今】作ったんだ。材料はそこら中にあったからなぁ?」
僕が睨みつけている事などどこ吹く風と言った様子のゾルフは、ヘラヘラしながらそんな事を言い出しました。
は?
コイツは何て言った?
「今?」
「そうだよ?【今】この場にいた奴らの中から選んで、種を蒔いてやったのさ。こうやってな?」
「何をっ!……!?」
【するんだ】と続けたかった言葉は喉元で止まり、僕は今目の前で起こった現象を理解しようとするのだけで精一杯でした。
ゾルフが軽く振り上げた右腕の、人差し指から
《ゾルルル》
と赤紫色の触手の様なツルツルとしたなにかが勢いよく飛び出し、偶然ゾルフの横を通った一般の男性の首をそのままの勢いで貫いたからです。
ぐらりと体が揺れ、地面に倒れ伏す男性。
隣に居た女性が、悲鳴をあげながら駆け寄る姿がやけにゆっくりとして見えます。
男性を貫いた触手?は駆け寄った女性の腹部をも貫き、ゾルフの指の中へと戻っていきました。
「スティンガー!てんめぇ!!」
ルドルフがゾルフに噛み付く様に叫びますが、ゾルフに急所を貫かれたはずの2人は、すぐに何事も無かったかの様にスッと立ち上がります。
今にもゾルフに切りかかりそうなルドルフを抑え、2人の様子を窺っていると、
《ズルリ》
と音をたてて、それぞれ刺された箇所から体が裂けて行ったのです。
そして、【中】からはゾルフの周りに居るのと似た様な形の生肉色の化け物が出て来ました。
「なっ、人が化け物に!?」
ルドルフがたった今起きたこの現象を見ながら叫びます。
ゾルフはその言葉通り、学園の文化祭に遊びに来て下さっていたと言うだけの、全く関係の無い人達を化け物に変えて、自分の思い通りに動く魔物を作り出していたのです。
何ともおぞましい行為を平然と、しかも笑顔を浮かべながらやってのけた目の前の青年からは、かつての臆病で卑怯でキザったらしいだけのゾルフ・スティンガーと言う青年の面影はどこにもありませんでした。
「イかれてる…」
僕の口から漏れた言葉に反応して、またゾルフはニヤリと笑った。
しばらくシリアスが続きます。
シエロ「この空気感耐えられん!」
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。