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二百二十話目 文化祭3日目の日


5月16日の更新です。


本日も宜しくお願い致します。





 いや~、昨日は酷い目にあったなぁ…。


「はぁ~」


 僕は焼けた団子を網から下ろしてみたらし餡をかけながら、深々とため息をつきました。



「シエロ君、どこかお加減でも悪いのですか?」


《ドキッ!》


 思わず心臓が跳ねる。


 振り返ると不思議そうな、不安そうな顔をしたクレアさんの顔が目に入りました。


 クレアさんの透き通った水色の瞳には、目を見開いた様な不細工な顔の僕が写っています。


 何故こんなに僕が驚いているかと言えば、簡易調理場(ここ)はお世辞にも広いとは言えないくらい狭い場所ではあるものの、そこら中にお客様やスタッフがウロウロしていてそこそこ騒がしい為、まさか僕の吐いたため息に気づく人がいるとは思わなかったからです。


「あっ、いえいえ。何でもないですよ?ただ、今日で文化祭が終わっちゃうな~って思っただけですから」


「そうですわよね?準備期間はあんなに長く感じましたのに、始まってみたらあっという間でしたのも…」


 ふぅ。まさかクレアさんに気がつかれるなんて思ってもみなかったな…。


 なんとか誤魔化せたけど、クレアさんは心配症なんだから気をつけなくちゃね?


 慌てたせいで何ともお粗末で雑な誤魔化し方になってしまったけれど、優しいクレアさんは誤魔化されてくれたみたいです。



 僕は、基本のベイクドチーズケーキの上に、果物やホイップされた生クリームなんかで華やかに盛り付けられた皿を受け取り口まで鼻歌混じりで運びながら向かうクレアさんを目で追いかけながら、今度はクレアさんに気づかれない様にとソッと息を吐きました。


「ふぅ…」


 クレアさんに嘘を吐くのは忍びないけど………。


 まさか貴族の、それも顔にカーニバルで使うみたいな真っ白くて奇妙な仮面を被ったおばさまにお持ち帰りされかけましたなんて口が裂けても言えませんよね?


 コローレでさえ昨日フロルから報告を受けた後、終始笑顔を浮かべながら完全武装してどこかへ出かけかけちゃって…。


 勿論全力で阻止したけど、コローレを止める為に更に疲れたってのもため息の原因だなんて、全部ひっくるめてクレアさん始めクラスメイトの皆には言いたくありませんし、出来れば知られたくないなぁ……。


 もしかしたらスミスさんあたりから漏れそうな気もしますが、意外と彼女は口が固いから大丈夫…だと思いたい。



 僕は黄金色に輝く艶やかなみたらし餡がかかった焼き団子を、受け取り口から向こう側で品物を待っているワンダーに手渡しながら、そんな事を考えていました。




「まぁ、今はそんな事をグヂグヂ考えていても仕方ない、か…」


《じゅう~》


 僕はポツリとそう呟くと、続いて餡団子用に作ったヨモギ団子――これは最終日限定の品で、意外にも朝からひっきりなしに注文が入ります――をコンロに乗せた網の上で炙ります。


 あ~。草の良い匂い。


 こんなに人気になるなら初日から出せば良かったかなぁ?なんて思ったりもしましたが、これは最終日【限定】商品だから売れてるのかもしれませんね?


「限定、限定…。はぁ~あ。もう最終日か…。本当にあっという間だったよなぁ」


 誰にともなく1人ごちりますが、さっきクレアさんとも話していた通り今日で色々な事があった文化祭もお終いとなります。


 その為、今日はクラス毎のブースを午後1時までで閉店として、その後は日が暮れるまで校庭の中心焚かれた火の周りを踊りまくるんだとか…。


《じゅじゅう~》


 何か向こうの世界の文化祭がひねくれて伝わってしまった感が否めませんが、楽しけりゃいっか?何て宇美彦とそんな話しをしていました。


 その宇美彦はこの3日。木もれ(ここ)を手伝ってみたり、フラッと出かけては大量の布をどこからか持ってきたり――あっ、布はランパートさんから送られて来たやつか――、オークションに参加していくつかの魔道具を競り落としてみたりと中々満喫していたみたいです。


 今もランスロット先生と一緒に学園内の見回りをしているらしく、さっき先生に呼ばれた時は


《「俺に任せとけ☆」》


 と漫画みたいなサムズアップとウインクを披露しながら教室から出て行きました。



「ふふ…」


 思わず笑いが零れます。


 段々宇美彦のノリが亜栖実さんに似てきた気がするけど気のせいかな?


「シエロ~、ミタラシ2人前。後浅葱ー?ゼンザイは3人前お願い」


「あいよ」


「承知!」


 受け取り口から顔を出したブロンデでに了解の返事を返しながら、僕は団子が保存されている魔導袋から焼き目のついていない真っ白の団子を取り出し網の上に並べます。


 合計5本になったコンロの上で香ばしい匂いを放つ緑と白の団子を手早く返しながら、つまみ食いしたい気持ちを抑えた僕は、


「うっしゃ!焼くか!!」


 と気合いを入れ直すと、コンロに向き合いました。


《じゅう~》


 何でも祭りの最終日はどこか物悲しくなっちゃうものだけど、時間一杯まで上手に焼きまくってやるんだから!



――――――



 上手に焼け…ゴメン!ゴメンナサイ!謝りますから!お願いだから石ぶつけないで!?



 えーと、こほん。


 さっき鐘が鳴ったから、今は午後の3時かな?


 予定通り1時にブースの営業を終えてから2時間と少し。


 今僕の周り――僕は校庭の隅に設置されているベンチの1つに腰を下ろしています。――には、踊り疲れた生徒達の屍が点々と落ちていました。


 広々とした校庭の中心には樹齢何百年だよ!?と言いたくなる様な太さの立派な木々が幾本も四角く組まれ、バカでかいキャンプファイアーとして赤々と天を焦がしています。


 そして、その全長10mくらいあるかも?と思われる大きさの燃え盛る木組みの周りを、疲れ知らずの猛者達がグルグルと回りながら踊っています。


 この世界の奴らの体力ってどうなってんだろ?


 何て思いながら、チラリと周りに白目を剥いて倒れている人達とキャンプファイアーの周りにいる人達とを見比べますが、


「いやいや、中心部(あそこ)にいる人達がおかしいんだよ!」


 と、すぐさま首を横に振って、浮かべてしまった考えを振り払います。


 まっ、まぁ、この学園で言う【踊り】ってほぼ【演武】の事だから、僕的にこれはダンスじゃなくて空手か合気道かなんかの大会ですか?って言いたくもなるし、そんなほぼ実践的な動きを2時間以上続けられる方がおかしいんですよね!?


 これでも始めは真面目に付き合っていたんですが、底なし体力のバトルジャンキー達には付き合いきれなくて、早々にベンチ(お友達)の下へ戻って来てしまいました。


 でも僕の周りに転がっている生徒達を見ると、あの選択は正解だったって事がよく分かりますよね?ふっふっふ。勝った!!


『一体何と勝負してるのさ…』


 うっ、この頃フロルの可愛らしい顔が呆れ顔で固定されてしまってる気がする。


 半目のフロルは可愛いけど、怖いよぉ…。


「あ~、疲れた~。ちょっと休憩!」


 と、そこへヨロヨロしながら中心部付近から戻ってきたルドルフが、ドカッと僕の隣に腰を下ろしました。


「お疲れ様。ほい、飲み物」


「サンキュ!……っはぁ!生き返んな~。ってお前何食ってんの?」


 汗だくのルドルフに自分の飲みかけの冷たいお茶を渡すと、ルドルフは躊躇する事なく一気飲み。


 あ~。僕のお茶が~。全部飲むか?普通~?


 と、飲み干した空の入れ物を返してもらいながらコッソリ嘆いていると、更に今度は僕の右手に握られたおやつにまで目をつけられていました。


「売れ残った塩せんべかじってた。もう1枚あるけどく「食う!」う?………。はいよ…」


 くっ!?この欠食児童め!!


 僕に最後まで言わせる事なく返事を寄越した食いしん坊に、僕は魔導袋から取り出した塩煎餅と醤油煎餅を手渡します。


 調子にのって塩、醤油、味噌、ザラメの4種類の煎餅を作っていた僕でしたが、案外塩煎餅が余っちゃったんですよね?


 こんなに美味しいのに…。


 と在庫の量を見て軽く凹んだものの、よく考えたら塩以外の味って珍しいのかな?


 この醤油と味噌だって浅葱君の実家から譲って貰った物を使用していますし、隠れ里以外の場所でこれらの和風調味料は作っていない様ですから、珍しい小豆や醤油、味噌なんかに興味を持ってもらえただけめっけものだったのかもしれません。



「シエロ、このショウユ味ってのも美味いけど、塩味も美味いな?もっとある?」


「勿論!」


 うん。色々ウダウダ考察っぽい事してみたけど、やっぱり塩味気に入ってもらえるの嬉しい!!


 やっぱり煎餅は塩味か、中毒性のある魔法の粉がかかってる幸せなアレか、溶かした砂糖がかかってる雪国なアレが美味いと思うんだよね!


 僕はルドルフに10枚くらい塩煎餅を渡しながらニッコリ微笑みました。





塩煎餅、美味しいですよね?


本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。



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