二百十三話目 続々・文化祭の準備の日
5月8日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
「どう?浅葱君?」
「美味で御座る~♪シエロ殿は天才で御座るな!?拙者、里に居る時でもこの様に美味なぜんざいは食べたことが無いで御座る!」
浅葱君のキラキラした目が調理室の窓から差し込む西日に反射して、更に輝きを増しています。
「おっと浅葱君。ほっぺに小豆がついてるぜ?」
「むむ?シエロ殿、かたじけのう御座る」
最初の作戦会議から2週間が経ち、僕と浅葱君は和スイーツの試作品作りに精を出していました。
他のスイーツに関しては、他の女子3人組にも合格を頂いているんですが、どうにも食べ慣れない和スイーツ…和菓子に関しては難しくて…。
クレアさんはみたらし団子や煎餅などの醤油系菓子は喜んでいたもののあんこが苦手。
マジョリンさんは逆にあんこはボウル一杯食べられる程気に入ったけど、餅系の粘りが苦手。
そして、ミイラ族のパーニャさんは餅もあんこも醤油系も好んで食べてくれたけど、どうしても抹茶が苦手だと言う事が分かりました。
ん~。好みは人それぞれだから、なるべく多くのお菓子を用意しても良いんだけど、和菓子ばっかり増えてもなぁ…。
ランスロット先生は和菓子が大好きみたいで、他のエルフさんも結構好みの味だってお墨付きは貰えたけど、文化祭に招待されたお客さんは他の種族の人達も多いだろうから、和菓子にばっかり重点を置くわけにもいかない。
ん~。いっその事、洋菓子は女子に任せて男子2人は和菓子作りで攻めても良いのかな~?
「シエロ君、メニュー表の見本を作ってみましたの。ご覧になって頂けますか?」
僕が悩んでいると、クレアさんが調理室の扉を開けて入ってきました。
おぉ!何てナイスなタイミング!
「クレアさん、丁度良かった。お話ししたい事があったんですよ」
「あら?私にですの?」
ボリュームのある黒髪を揺らしながら調理室の中へと入って来たクレアさんに、僕は和菓子と洋菓子の分担について、今思いついた事をそのまま話してみました。
「まぁ!それは良い考えですわ?それならシエロ君にばかり負担がかかりませんもの」
すると、クレアさんは名案ですわ☆と言いながら手をポフッと叩きます。
何だろう。クレアさんって本当にイイコだよな~?
皆の負担になっちゃってるのは僕の方なのに、いっつも僕の事を気遣ってくれるし…。
もうさ?聖女様ってクレアさんの事なんじゃね?ってくらいイイコ過ぎて泣けるね。
◇◆◇◆◇◆
パンっと合わせた手を下ろしながら、私は持ってきたメニュー表の見本を調理台の上に置きました。
調理台の上には、お2人で試作していたと思われるゼンザイが入ったお鍋と、アンコが入った容器が置かれています。
アンコ…。どうにもこの独特な甘い匂いには慣れませんわね…。
あら?でも目の前に鍋がある割には匂いがしませんわ?一体何故……。
とシエロ君の方を見れば、うっすらど魔力の高まりが見て取れます。
この様な場所で魔法?と思って更に周りを見れば、風の流れが可笑しい事に気づかされました。
何てことですの!?シエロ君はアンコが苦手な私の為に、風魔法を使って、空気を散らして下さっていたのですわ!?
あぁ、シエロ君はいつもそうやって周りの事ばかりお考え下さるんですから!風もそうですが、それぞれ苦手なものがある私達に配慮して、担当するお菓子までご自分達で引き受けて下さるんですもの…。
いつもシエロ君は私達を甘やかし過ぎなのですわ?
と言いつつも結局私もシエロ君に甘えてしまっているので、何も言えなくなってしまうのですが…。
申し訳なくて俯いてしまっていた目線をシエロ君に戻すと、傾いてきた日の光に照らされて、シエロ君の髪の毛は金色に輝いていました。
はぅ。いつ見ても神秘的な光景ですわ~。
今は調理中だった為、肩口まである髪の毛を軽く後ろでまとめていらっしゃいますが、まとめ髪から零れた髪の毛までキラキラと輝いて、シエロ君の美しさを更に引き立てています。
陶磁の様に滑らかです艶やかな白い肌に宝石の様な瞳。まさに彼は女神様が作り出した芸術品ですわね…。
シエロ君は身長が低い事を悩んでいらっしゃいますが、それさえも計算されたかの様な完璧なバランスだと私は思うんですの。
「うわぁ~。可愛い!」
「確かにこれは素晴らしい品で御座る!わざわざ革張りになっていて…。う~む、たかがめにゅうに使うのは勿体無い気がするで御座るな?」
はっ?
夢うつつになってしまった私を、シエロ君とアサギ君のあげた歓声が現実へと引き戻してくれました。
私がシエロ君に見とれている間に、私が持参したメニュー表の見本を見ていらっしゃった様ですわね?
「うわ~。ウサギさんだ♪可愛いなぁ~」
んんんもう!可愛いのはシエロ君の方ですわ!!
◇◆◇◆◇◆
「ありがとうございます。周りの革はエレンさんが貼って下さいましたの。文字はルーナスさんが書いて、絵は恥ずかしながら私が…」
もじもじしながらメニューの見本の説明をしてくれるクレアさん。
いつも凛としているクレアさんが照れるのは珍しいなぁ…可愛い☆
改めてクレアさんが持ってきてくれたメニューに目を落とすと…。
紙のメニューがよれない様に木の板の上に置かれ、それを保護する為に木の板の周りに焦げ茶色の皮が貼られていて、
ちょっとした高級なファミレスのメニュー表を思い出させる仕上がりとなっていました。
中はと言うと、【メニュー】と書かれた文字の下に出されるお茶や菓子類の名前と、簡単な値段がセットになって書かれていて、それを縁取る様に描かれた葉っぱや花、そして動物達が色とりどりに描かれ、殺風景なメニューを華やかにしてくれています。
僕は絵が下手くそだから、こんな風に繊細な絵を描く事なんか出来ないけど、これが凄い丁寧に描かれた絵だって事くらいは分かる。
「へっ、下手くそですから、あんまり見ないで下さいましな!」
とクレアさんは顔を真っ赤にして抗議しているからメニューから目を離したけど、もう少し見ていたかったなぁ…。
「し、シエロ君?これで宜しかったでしょうか?」
閉じたメニューをあっという間にクレアさんに取り返されたのが不服だった事が顔に出ていたのか、クレアさんは真っ赤な顔でメニューを胸にしっかりと抱きしめながらメニューの是非を聞いてきました。
こんなに素晴らしい出来のメニュー表に否やなどあろうはずも無いので、僕はOKサインを出します。
「拙者も大賛成で御座る!まだ菓子類は増えるやも知れぬ故、多少の変更はあろうかと思うで御座るが、その装丁の素晴らしき事!某感激しもうした!」
浅葱君は、僕の隣で顔を真っ赤にしながら興奮しています。
うん、浅葱君も感激する程賛成してくれたし、メニュー表に関してはこれで完璧だね?
後は増えすぎたお菓子の候補をどれだけ削れるかと、カフェで出すお茶の選定だ!
よぉし、頑張るぞ~?
さり気なく浅葱の顔についた小豆を取ると言う描写を入れたかったが為に1話増えました(笑)
本日もここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。




