二百十二話目 続・文化祭の準備の日
5月7日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
「では、日持ちのする物を中心として進めていった方が宜しいですわね?」
クレアさんが、ノートに今まで出した案をまとめてくれながら僕達の顔を見回します。
「賛成!」
「異議、な~し。キヒヒ」
賛成多数でクレアさんが微笑めば、僕も自然と笑顔が零れます。
今、僕達調理担当スタッフ5名は、放課後の時間を利用してラウンジで作戦会議を開いていたところなんですが、文化祭の全日程は3日間あります。
その為【カフェ木もれ日】で出すメニューも、日持ちのしないケーキ類ばかりじゃなく、日持ちのする焼き菓子を中心としようと言う事で話しが進んでいました。
まぁ、全部最終的には時間経過の心配が無い魔導袋に入れて保存する事になるとは思うけど、日持ちの件以外にもテーブルまで運ぶ時なんかの持ち運びのし易すさも重視しなくちゃいけないから、結局焼き菓子が中心って事になる訳で…。
それは置いておくとしても、焼き菓子か。ん~色々あるけど…。
「え~と。クッキー、フィナンシェ、マドレーヌ…。あぁ、ビスケットもありかもね?」
僕が思いつく焼き菓子を軽く挙げてみます。すると、
「シエロ殿、煎餅は焼き菓子に入らないでござろうか?」
と浅葱君が提案してくれました。
浅葱君はこの国のどこかにあると言う隠れ里の出身で、一人称も【拙者】だし普段着は和服に似た感じの物を身に着けていたりと、何処か和を思わせる小鬼君なのです!
とまぁ、そんなどこか懐かしい雰囲気を醸し出す浅葱君からだから違和感はあまり無いけど、まさか煎餅なんて言葉が出て来るとは思わなかったな…。
浅葱君の赤い顔に金色の髪の毛を見てると、昔話に出て来る鬼を思い出すけど、浅葱君はどっちかって言うと【泣いた赤鬼】に出て来る赤鬼を思わせるくらい優しい性格をしています。
細い体の割りには力持ちだし、自分の身の丈よりも大きな金棒を振り回して戦うスタイルは、いくら優しいと言っても、もし森の中でバッタリ出会ったら泣き出すくらい怖い物があr…。
おっと話しがズレた。
ん~。この話しがすぐズレる癖、早く直さないとなぁ…。
ととと、煎餅の話しだよね?
僕は、気を抜くとすぐズレていく思考と戦いながら、浅葱君が出してくれた煎餅に対する感想と、更に提案を付け加えて返しました。
「カフェに和スイーツを出すなら煎餅もありかな?お抹茶たてて、ぜんざい出すのも良いかもね?」
何たってエルフ族愛飲のお茶が【緑茶】ですからね?合わない訳が無いよ!と心の中で付け加えながら返すと、浅葱君は
「おぉ!ぜんざいで御座るか?良いで御座るな~」
と赤い顔を更に赤らめて、ニコニコしながら喜んでくれました。
ぜんざい食べる浅葱君か~。
付け合わせのしば漬けなんかをポリポリ食べてほうっとしている姿が想像出来て、ちょっと和やかな気持ちになりますね。
しかし、ぜんざいを作ろう!和スイーツヤッホー!と張り切る男子2人に対し、女子3人はぜんざい?和スイーツ?と首を傾げています。
あ~、そう言えばこの街に来てから和スイーツを見た事無いかもしれないなぁ…。
と言うかこの世界に来てから、自分で作る以外に食べた事も無いかも?
ん~。これは今度試作も兼ねて、彼女達にはちょこちょこ試食してもらった方が良いかもしれませんね?
「ところで浅葱君。小豆って何処かに売ってないかな?」
「小豆で御座るか?」
浅葱君に小豆の事を訊ねると、露店街で時々見かけるとの事で、後で街に出た時についでに買ってきてもらえる事になりました。
小豆と抹茶は和スイーツを作るなら外せないからね?
本当だったら僕も一緒に行って食材の吟味とかしたいところではあるんだけど、ゾルフの事もあって、僕はまだ学園の外に出る許可が下りません。
はぁ、行きたくても行けないって辛いなぁ…。
他の皆にも負担をかけちゃう事になるし、すっごく申し訳ないんだけど、だからと言って抜け出したら外で襲われました。
じゃ、いくらその時に後悔しても遅いからね?今回はしょうがないと諦めるしかないかな?
と自分を納得させたところで、チラッと横を見る。
「あのさ…。コローレは接客担当じゃなかったっけ?」
今日の放課後はそれぞれの班に別れて計画を練ろうって事で解散したんだけど、何故か僕の横にはコローレが座っていました。
確か【調理】の他は【接客】【衣装】【内装】の合わせて4部門が作られ、それぞれの部門にクラスメイトが分配されたはず…。
中でもコローレは執事修行をしたと言う事もあって、【接客担当】スタッフ全員の指導もするって話しになってた気がしたけど、こんなところで油売ってて良いんだろうか?
僕が不思議に思ってそう聞いてみると、
「私が指導すると言いましても、教室の内装がどの様になるのか、ある程度でも決まっていないとお教えのしようがありませんからね?今日のところは担当スタッフ全員バラけて各担当の話しを聞きに行って頂いております」
と返ってきます。
それに対して、クレアさんも納得したとばかりに手をポフッと軽く合わせながら、
「そうですわね…。立ち居振る舞いを指導するにしても時間が足りませんもの。どうせ付け焼き刃になるのなら、内装が決まってからの方が皆さん動きやすいかもしれません」
と1人で納得していました。
なっ、なるほどなー。
結構コローレは完璧主義だからね?
皆にも完璧を求めるなら、確かに動く範囲やらの規格が決まってる方が教えやすいのかもしれません。
それなら今日は此処に居てもらって助かったかも。
給仕の動きが分かってる人が居た方が、接客しやすいお菓子とか教えてもらえるかもしれないしね?
「じゃあコローレ、居ても大丈夫なら聞きたい事があるんだけどさ?」
「はい、なんなりと」
いつもの様に恭しく礼の形を取るコローレに、僕は給仕しやすいお菓子や、何か他にコローレが出したいお菓子がないかどうかを聞いてみました。
「そうですね…。初心者の方ばかりだと言う事を考えますと、シエロ様のお好きなクリームたっぷりの柔らかなケーキなどは控えた方が宜しいかと思います」
「そっか…。まぁ今回は日持ちの良さ重視って事で考えていたから、クリームたっぷりって言うのは最初から除外してたから大丈夫かな?」
僕は頭の中でショートケーキやスフレ、半熟カステラなんかにも×印をつけながら、それ以外のケーキ類を思い浮かべます。
ん~。カカオがあればチョコレート系のお菓子も作れたんだけどなぁ…。
この世界に来て早11年経ちますが、僕は未だにチョコレートに出会えていません。
小豆やお米、形は少し記憶の物と違ったものの、バニラビーンズでさえあるこの世界に置いて、何故チョコレートがないのかは疑問でしかありませんが、無い物は無い!
以前も、無性にガトーショコラが食べたくて、コローレに聞いたり、ランスロット先生に訊ねてみたりしてはみたんですが、2人からは首を傾げられて終了。
もしかしたら他の大陸にならあるのかも?と裕翔さんにも訊ねてみましたが、結果は惨敗。
流石に女神達に訊ねる事も出来ず、その時は諦めたんですよね~。
あ~!ギブミーカカオ!!
チョコレートケーキ食べたいよぉ!!
結構な頻度で食べ物の話しをしている気がしてきました(笑)
本日もここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。