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二百九話目 呪い


5月4日の更新です。


本日少しいつもより短めとなっておりますが、宜しくお願い致します。





 双子月歴2820年。



 時の魔王の台頭により、世界は混乱と恐怖の渦に飲み込まれていた。


 いがみ合っていた小さな国々がまとまり、各国から勇者を選び出し、始まりの国を築いたのも今や遥か昔。


 世に勇者と呼ばれた者共はおらず、人々は混沌に満ちた世界に絶望しかけていた。


 そんなある時の事だった。絶望する人々を照らす様に一筋の光が天より舞い降りたのだ。


 女神の御技か天よりの使者か。その光は闇の住人達を光で包み込み癒すと、果ては魔王の魂をも浄化していった。


 こうして、たった一筋の光によって平和がもたらされた世界は、また笑顔と光溢れるきらやかな世界となったのだった…。


 そう、1人の娘を覗いて…。




 光が世界を照らし出すほんの少し前に時間は遡る。


 娘の悲劇は、娘の住む村を魔王軍が襲撃した事が発端となり起こった。


 襲撃自体は、その村の領主の采配により何とか魔王軍を退ける事には成功した。


 が、少なくない人数の者共が明日を迎えられぬ程の大怪我を追ってしまったのだ。


 娘が愛した者もその1人。


 娘は、娘の腕の中で冷たくなっていく男の手を掴みながら、禁術とされていた魔法を解放させてしまう。


 魔法の名は【リワインド】


 空間属性等と並ぶほどに稀少な【時間属性】の魔法属性を持つ者のみが使える魔法で、その名の通り【時戻し】の作用があった…。


 一度発動した魔法の効果は絶大で、死なないで、お願いだからと泣きわめきながら、娘は男と共に己が周りの時を戻し続けた。


 骨が、吹き出た血反吐が、砕かれた家や、踏み荒らされた畑や木々が、彼女の嘆き悲しむ声と共に巻き戻っていく。


 そして、娘の魔力が尽き、娘の泣き声と共に魔法が消滅する頃、奇跡は起きた。


 娘が戻した時間によって、傷付き絶えかけていた命が全て戻ったのだ。


 厚い雲の切れ間から差した光によって、荘厳な雰囲気に包まれた村は、家々まで元に戻した娘の魔力を【奇跡】だとして持て囃した。


 娘も愛する男の腕に抱かれながら立ち上がると、笑顔の村人達につられ弾けんばかりの笑顔を見せた。


 だが…。



《カチリッ》


 不意に娘の耳に、まるでネジを巻き忘れた時計が止まったかの様な不快な音が聞こえた。


「?」


 歓喜の声に包まれる村人達は気にもとめなかったが、確かに娘の耳には届いていた不穏な音。


「なんだったのかしら?」



 そして…、その代償は喜びに包まれていた娘に音もなく降りかかった。



 男の腕に抱かれた少女の艶やかな黒髪は、見る見るうちに白く不思議な光沢を放つ色へと変わっていったのだ。


 歓喜の声に包まれた村人達は娘の突然の変化に静まり返る。


 だが、娘の変化はこれだけでピタリと止まり、村人達は女神様の祝福か?と娘の髪の変化をも笑いで済ませ、それさえも祝いの宴を盛り上げる手段として大いに活用した。


 そしてその数日後、厚い雲に覆われていた世界が光溢れる世界へと姿を変えると、更に村人達の宴席は盛り上がりをみせたのだった。


 これからの村に訪れるであろう、平和な未来を祝って…。



 そうして月日が経ち、娘は男と結ばれると艶やかな黒髪の娘を産んだ。


 男と娘の間には、穏やかで平和な日々が流れたが、娘が産んだ子供が成熟し大人になり、また子供を産むようになっても、娘はうら若き娘の姿のまま、終ぞ年を取る事はなかった。


 次第に村人達もそんな彼女の変化に気づき始める。

 いや、娘の体が変化しない事に気づき始めたと言った方が良いのか…?



 そう、娘が受けたのは祝福ではなかったのだ。


 人の身で時間を巻き戻した罰は、罪は、娘の生の時間を止める事によって執行されたのだった。


 あの時止まった時計は、二度と動き出す事は無い。



 娘は、老いぬ体と死ねぬ体に苦しみながら、愛する男を看取った(のち)に、追い立てられる様に森の奥深くへと消えていった。


 娘は今も尚…。





内容が内容なので、【閑話】の形を取るか悩みましたが、シエロがアスタから聞かされた昔話と言う事で、通常通りのお話しとさせて頂きました。


呪われた娘とはアスタ本人です。


アスタは最後森へ行きましたが、村人から何かされた訳ではなく、老いていく友人達を見ていられなかった為、自分自身の判断で森へ籠もり、森の中で生活しています。


その事に触れるスペースが無かったので、あとがきにて触れさせて頂きました。


本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。


また明日も通常通り更新させて頂きますので、宜しくお願い致します。



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