百九十九話目 作戦会議の日
4月18日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
学園に帰ってきた日の夕方。
僕は皆と別れた後、早速修練場まで移動すると、ステータスカードの通信機能を使って裕翔さんに連絡を取りました。
どうしても今日のうちに、ゾルフの事を裕翔さん達に相談しておきたかったのです。
《じゃあ、その先輩は【か○うま】状態だったって事?》
裕翔さんは僕が話したゾルフの特徴を、某世界的ゾンビゲームに登場する化け物が化け物になる前に残した有名な日記?の一部分を抜粋して例えてくれました…真顔で。
しかし、ゾルフのあの状態を【かゆ○ま】と表現するとは…。
一概に間違いとも言えない見た目だっただけに、一瞬どう返したら正解なのか言葉に詰まりまってしまったじゃないか!
くそう!流石はゲーマー、そう言う単語を真顔でホイホイ言いおってぇ~!
「まっまぁ、そんな感じですかね?ただ、そいつから感じた魔力が…」
《魔力?》
言葉に詰まりながらも返事を返すと、裕翔さんはカードの向こう側で顔をしかめました。
いつもはヘタレな裕翔さんだけど、そういう顔すると意外と整った顔してるよな~この人…。
「はい、何と言うか…。僕の勘違いだったら良いんですが、マドラさんと同じ感じがしたんです」
《マドラってあの人形遣いのかい?》
更に顔をしかめた裕翔さんに向かい、僕は無言のまま頷いて返しました。
マドラさんとは僕のクラスメイトのアリス・ルイスさんのお姉さんで、魔族の女性です。
彼女は魔力も多く、魔法属性を3つも持っていました。
その事が原因で今代の魔王に目を付けられた彼女は、魔王軍に入る事を拒んだが為に殺されてしまいます。
そして、その骸と魂は魔王の能力により歪に繋ぎ止められて【人形兵】として己が妹の命を狙って学園に現れたんです。
結局マドラさんは亜栖実さんとアリスさん、そして僕に見守られる形で天へと登って行きましたが、魔王は他にも沢山の人形兵を抱えていて、今もこの世界の何処かで殺戮の道具に使われているのだとか…。
何で僕が今更こんな話しをしているのかと言うと、僕がマドラさんに感じた魔力と同じ様な魔力をゾルフから感じたから…。
あの粘っこくてこの世の負の感情を全て取り込んだかの様な、どす黒くて陰鬱な魔力。
コールタールか!ってくらい拭っても拭いきれないあの嫌悪感は、忘れたくても忘れられない代物だと断言したくなる程です。
ゾルフからは殆ど何も聞き出せませんでしたが、そんな曰く付きの魔力をゾルフから感じたと言う事は、やっぱり魔王の影がチラついている様に感じてしまうのも仕方の無い事だ、と思うんです。
だからこそ忙しい勇者様を捕まえてまでこうして相談にのってもらっている訳ですが、僕も必ず魔王が関わっているのだ!と言う確証があって話している訳ではないので、断言出来ないのが辛いところでもありますね…。
《う~ん…。シエロ君の推測はあながち間違ってはいないと思うよ?それで?相手の…えっとゾンビ君だっけ?どんな人だったの?》
ん?
えっと、今のは流石にワザとかな?
ゾンビとゾルフ、【ゾ】しか合ってねーわ!!ってツッコんだら良いんだろうか…?
裕翔さんってドが付く天然さんだから、素で言ってたりしたら目も当てられないぞ?
「ゾルフは、僕に…」
《シエロ君?どうかした?》
僕は聞こえなかったフリをして、ゾルフだと言い直しましたが、流石に【入学式初日にナンパされました。】なんて言いづらいぞぉ…。
うっ、しまった。思わず言葉に詰まっちゃった。
どうしようと考えていると、カード越しに裕翔さんの心配そうな顔が目に入りました。
あぁ、裕翔さんが心配そうな顔してこっちを見てる。早く何か返さないと…。
でも、同姓にナンパされたなんて言いづらいし…いやでも…。
《大方ソラの事だから、そいつにナンパでもされたんだろ?んで、頭キてボコっちまったのを根に持たれてたんじゃねーのか?》
ゾルフと僕の関係について、裕翔さんに【ナンパ】の実態を隠しつつ説明するにはどうしたら良いかと頭を悩ませていると、ステータスカードから裕翔さん【以外】の人物の声が聞こえてきました。
って言うか、この声って…。
「宇美彦ぉ!!何で裕翔さんに僕の重大な秘密を喋っちゃうのさ!?」
《何だよお前、図星かよ?ハハハハハ!》
僕が裕翔さんの後ろにいるであろう宇美彦に聞こえる様に大声で文句を言うと、まさかの笑い声で返されました。
宇美彦ェ…。
《シエロ君?顔が怖いよ?宇美彦も、人が嫌がる事は言ったら駄目だよ?》
思わぬ伏兵に僕の怒りゲージがMAXまで上がりきろうとした時、裕翔さんが後ろを振り返りながら注意している姿が見えました。
おぉ!言い方すげー優しいけど、年上(宇美彦)が年下(裕翔さん)に叱られとる!
って言うか、いつも裕翔さんってあんな言い方してるのかな?
そりゃあ亜栖実さんに…。よそう、せっかく裕翔さんが助けてくれたのに、僕が変な事考えたら駄目だよね?
《宇美彦もこっち来たら?シエロ君と俺が何話してるのか気になるんだろ?》
裕翔さんが、亜栖実さんの尻に敷かれた理由が分かったな~。なんてなんとなく考えていると、カード越しにニヤニヤしている裕翔さんが目に入りました。
《気にはならんが、心配は心配だな?》
《なんだ、意外と素直でつまらないな…》
此方からは裕翔さんの顔しか見えませんが、口調的に宇美彦は真顔だったのでしょう。
会心のからかいが通用せず、裕翔さんは心底つまらなさそうに唇を尖らせています。
《ソラの話しで変に強がっても仕方ないからな?今更取り繕う必要もねーし?》
《ははは、流石は幼なじみって?》
《うるせっ!》
どうやら僕の事を話している様ですが、僕1人だけカード越しに話している上にほったらかされているので、なんだか凄く疎外感…。
「あの~?続けても良いですか?」
《あぁ、ごめんね?で、その少年の事だけど、まだその山の中にいるのかな?》
恐る恐るカード越しに盛り上がる2人に話しかけると、裕翔さんが話しを戻しつつ答えてくれました。
「まだ山の中にいるのかは分かりませんが、先程ランスロット先生から連絡をもらいまして、明日大規模な山狩りを行うんだそうです」
裕翔さんに連絡を取る少し前にランスロット先生から知らされた話しを、僕はそっくりそのまま裕翔さんに伝えます。
《あぁ、行方不明者届けが出されてたって言ってたものね?そっか…。じゃあさ、山狩りの結果が分かったらまた連絡くれるかな?こっちでも少し調べてみるから》
「分かりました。スイマセン、ご面倒をおかけしてしまって…」
《大丈夫大丈夫、調べるのは宇美彦だからね☆《おいっ!俺がやんのかよ!?》アハハ、それじゃあまたね?》
「フフ、はい、また…」
《ぷっ》
騒がしかった部屋の中が一気に静かになる。
他のルームメイト達は風呂に行ったり、早めの夕飯を食べに行ったりしていて、意外とこの時間は誰もいない事が多い。
だから案外内緒話に向いていたりするのですが、いつ誰が戻ってくるか分からないので、ドキドキ感も常についてきます。
「ん…。うーん」
何か今日は色々あって疲れたなぁ…。
《ゴキゴキ》
僕は自分のベッドの縁に腰掛けたまま背伸びをすると、そのまま肩を回して首を鳴らした。
これ本当はやったらいけないらしいけど、やっぱり音が鳴ると少し肩とか首が楽になる気がするんだよね?
昔からの癖なんだけど、どうにもこれだけは治らなくて…。
あ~!もう!!明日の山狩りで、ゾルフなんてアッサリ捕まっちゃえば良いんだ!!
久しぶりの宇美彦(声のみ)登場回でした。
ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。