百九十八話目 重い空気と合同遠足の終わりの日
4月17日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
《「キシャシャシャシャ!そんなオッかナい顔スンなよ先生!!今日は挨拶に来ただけサ?まだまだ力が足りないカラなぁ?」》
《「キシシシ、待てと言われテ待つ馬鹿はいねェよ!オ姫さま?俺が迎えに行くマデくたばるンじゃねぇぞ!?キシャシャシャシャ」》
去り際に放ったゾルフの言葉が、僕の頭の中をグルグルと回り続けていました。
急に僕の前に姿を現したゾルフ。
今日はまだ挨拶に来ただけだって、すぐに姿を消したけど…【まだ】って事はその内何かするって事だよなぁ…?
どうやったのかは分からないまでも、己の姿を異形の者へと変貌させる程恨まれていたのかと思うと、やるせない気持ちになります。
生まれ変わってから、やりたい放題やって生きてきた自負はあるし、多少恨まれる様な事があるかもしれないな。とは思っていたけど、まさかこんな事になるなんて…。
それにしてもゾルフのあの気持ちの悪い魔力、前にどこかで…。
「シエロ様、貴方様がお気になさる事はありません。アレは、何かに取り憑かれております」
「あっ…。ありがとう、コローレ…」
駄目だ、コローレがせっかく慰めてくれてるのに、上手いこと返事も返せない…。
ほらっ!コローレがこっち見てるぞ?早くもっと気の利いた返事を返さないと!
ゾルフが消えてからこっち。僕は、ゾルフの言葉と自分の考えがゴチャゴチャに入り混じって、ちっとも頭の中を整理出来ずにいました。
コローレに生返事を返してしまう程、僕は頭の中がグチャグチャになっていたんです。
あぁ、今思えば、生まれ変わってから人型の何かにここまであからさまな殺意を見せられたのは、初めてかもしれない…。
だからこんなに混乱してるのかな?
いや、前世だって殺意をぶつけられたのなんて死んだ時の1回だけだけどさ…。
あぁ、もう!ちっとも頭が纏まってくれやしない!
「シエロ君?大丈夫ですか?」
「あっ!はいっ、すいません!!」
弾かれた様に顔を上げる。
いけない、こんな非常時にボーッとするなんて!
ランスロット先生の声で我に返った僕は、慌てて先生の方を見ました。
「フフ、そんなに慌てる事はありませんよ?ゾルフ君の捜索は、明日にでも人を派遣してもらってからにしますので、今日のところは帰りましょう…」
流石に疲れましたね?と力無く笑うランスロット先生は、本当に疲れきった顔をしていて、ただ先生に守ってもらっていただけの僕は、更に心のモヤモヤを募らせて行きました。
――――――
「あっ、お帰り~。シエロ、大丈夫だった?怪我は無い?」
野営地に僕達が着くなり、僕を見つけたブロンデが飛び付いて来ました。
慌てて転ばない様に足に力を入れつつ、クルンと何度かターンしてブロンデの突進力を逃がします。
全く、僕より身長高いくせして、すぐ抱きついてくるんだから…。まぁ、6年間も一緒にいるんだから、慣れたけどね…。
ムフフ。しかし!抱きついてくる時は、どさくさ紛れでいつもは嫌がられる猫耳に触る絶好のチャンスでもあるんだよ!?
あ~、癒される~☆
「ただいま、ブロンデ。ご覧のとおり、僕はピンピンしてるよ?」
「フフフ、少し調査に行っただけですからね?それよりブロンデ君達も無事、脱出出来たのですね?お怪我は?」
「僕達は比較的すぐ抜け出せたんだ!怪我も無いよ?あっ、体が固かったアース君が肩を脱臼しちゃったけど、すぐシャーロットさんが治してたから、そっちも大丈夫!」
コローレが上手いこと話しを逸らしてくれたお蔭で、ブロンデもそれ以上突っ込んでくる事はありませんでした。
流石に、今ブロンデに【どうかしたの?大丈夫?】なんて言われたら涙腺が決壊する自信があるぜぇ!
ブロンデ(猫耳)の放つ癒やしの波動には、それくらいのパワーがある!そんな気がする!!
僕が心の中でそんなアホみたいな事を考えているとも知らないブロンデは、アース君が脱臼した時の話しに花を咲かせ、ケラケラと笑いながら僕を皆の下へと案内してくれました。
あっ、猫耳もうちょっと…。
名残惜しくて、わきわきと手を動かしていたら、ブロンデが急に振り返って来たので、慌てて後ろ手にして隠します。
「クレアさん、ゴキンって凄い音立てながらアース君の腕はめちゃったんだよ?それから、回復魔法かけたの!」
多少僕の行動に不思議そうな顔をしていたけれど、気を取り直したのかブロンデは、クレアさんの武勇伝を身振り手振りを付け加えながら楽しそうに話していました。
一生懸命話してるブロンデも可愛い…はっ!イカンイカン!!クラスメイト(男子)を可愛いだなんて、どんだけ疲れてるんだろう!?
話を変えるよ!!
案の定と言うのか何と言うのか分からないけれど…。
アース君の肩を外したのはやっぱりゴンザ先生だったんだそうですよ!?
――――――
「それでは!学園に戻るぞー?忘れ物をしない様に、もう一度確認してから出発する様になー?」
その後、遅い昼食をとった僕達は、学園に戻る事になりました。
大きな声で号令をかけているのは、今回ゴンザ先生の強烈キャラにおされて空気気味だった、6年B組担任のダリウス先生です。
実はこの2人、昔は同じパーティーを組んでいた仲間だったんだそうですが、仲間の魔法使いが寿退会した事で、以前から知り合いに誘われていた教員としての道を進む事になったのだそうですよ?
まぁ、その知り合いの人もゴンザ先生まで教員になったのは予想外だった様で、良く酒の席でその話題になっては盛り上がっているんだそうな…。
まぁ、そんな話しは今しなくてもいっか…。
あー!本当に頭の中がグチャグチャだ!!
「はぁ…。じゃあ僕達も帰りましょう。今日はお疲れ様でした…」
D組の子から順に進んで行くそうなので――因みに行きはA組からでした――、順番待ちしながらお疲れ様~だとか、節々がまだ軋んでる気がする…。
等々、今日あった事を話し合っては笑いに変えて行きました。
途中、シエロ達は何やってたんだ?とか、結果はどうだったんですの?とか聞かれたりもしたけど、全部コローレが上手いこと誤魔化して説明してくれて…。
やっぱり僕は何も出来ない奴なんだな…と心の中のモヤモヤを募らせるだけとなりました。
その後列は着々と進み、僕達は揃って学園に辿り着きましたが、すぐさまランスロット先生はゾルフの事を理事長に伝えに走ってくれたらしく、臨時の職員会議が急遽開かれたのだそうです。
そして次の日には本当に捜査隊が組まれ、大規模な山狩りが行われたのですが、それでもゾルフを発見するにはいたらなかったと、後にランスロット先生から教えてもらいました。
行方不明届けが出されたまま、ゾルフは再び消息を絶ち、どこへ行ってしまったのだろう?
僕のモヤモヤはどんどんと蓄積されていくばかりです…。
猫耳を触ろうと奮闘するシエロと、それを阻止すべく動くブロンデの攻防戦は、ちょっとしたA組の名物になっています(笑)
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。