百九十五話目 続・違和感の日
4月14日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
《ゴロゴロゴロ、ズシャー!》
「せっ、先生ー!」
野営地に設置された焚き火の前で、のんびりとお茶をしていたランスロット先生以下数人の教員達の前に、僕達が凄い音を立てて転がり込んで行きました。
あっ、焚き火からは充分離れてましたよ?念のため…。
「えぇっ!?さっ【桜餅】の皆さん?一体どうしたのですか!?」
もの凄い勢いで森の中から、しかも先生達が座っている場所に、文字通り転がり出てきた僕達の有り得ない姿を見て、ランスロット先生が血相を変えながらこちらへ近付いてくるのが見えます。
「いてててて…。だっ、大丈夫じゃないけど大丈夫です」
「いや、どう見ても大丈夫じゃないじゃないですか!うわ~…」
僕達の姿を見て絶句するランスロット先生に、大丈夫だと伝えたかったけど、駄目だ。
腕の片方すら動かせないや…。
せめてもの救いは僕が皆の下敷きにならなかったって事くらいかな?
何せ、13人分の人間が【一塊】になってるんだから…。
「イタッ!そこ踏まないで下さい!ルドルフ先輩!?」
「キャッ!?ちょっと!何処触ってんのよアース!!」
「いだだだだだだだだだ…中身が出る~」
「グフッ」
『あんた達、何だってこんなにグッチャグチャなのよ?』
ランスロット先生の肩に居たアイレさんが、呆れた顔で僕の鼻先に降りてくる。
「うぅ、すいません」
今のアイレさんの物言いがちょっとブリーズっぽくて、僕は彼女に会えた気がして嬉しくなりながら、何故僕達13人が【一塊の大玉】になってしまったのかをアイレさんに話して聞かせました。
「実は、アース君が…」
発端は、僕の前の前を歩いていたアース君が、木の根に足を引っ掛けた事でした。
【全速力での行軍】と言う事で、山道に慣れていない彼らはどうしても足下が疎かになっていた様です。
そして、ぐらりと揺れるアース君を見て、
《「危ない!」》
と叫びながら僕の前を歩いていたフルスターリが彼の首根っこを掴みましたが、勢いのついたアース君を止めることが出来ず、自分も体制を崩しました。
《「きゃっ!?」》
《「うわわ!?フルスターリ!」》
意外にも可愛い悲鳴を上げたフルスターリに慌てた僕は、彼女の左手を掴み引っ張ろうとしましたが、フルスターリよりも身長も体重も軽い僕では勢いのついた2人の体重を支える事は出来ず…。
《「あー…」》
後はもう道を転がる雪玉の如く、前を歩く皆を次々と巻き込みながら山道をゴロゴロと下って行ったと言う訳なんです。
まぁ、結果としては歩くよりもずーっと早く下山出来たんですが、その代償として僕達は体の自由を失いました…。
『バカねぇ』
うぅ、面目次第も御座いません…。
「よいしょっと。はい、シエロ君の救出成功でーす☆」
アイレさんにイタいところを突かれて程よく力が抜けた僕の体を、ランスロット先生が優しく抱き上げて助け出してくれました。
こんな時に何言ってんだ?って話しだけど、ランスロット先生と目線が同じなんて何だかくすぐったい…。
「あっ、ありがとうございます。あっ、皆は…」
僕は首だけでお辞儀をすると、ランスロット先生に抱き上げられたまま振り返ります。
すると、そこにはいつの間にか他の先生方も集まって来ていて、絡まりに絡まった皆の体をどうにか解こうと奮闘して下さっているのが見えました。
うわぁ、何かこれは見ていて申し訳なくなる光景だなぁ…。
何たって13人――あっ、僕が抜けたから12人か――の体が絡まってるんだもんね?
「ん?これは誰の腕だ?」
「いだだだだだ!!ゴンザ先生!俺の腕はそっちの方向には曲がりません!!」
「おっ!これはアルトの腕だったか?いや~、どうなってんだ?こりゃ」
「ギャー!先生!それは僕の足なのだー!?」
凄い良い笑顔でアルト君の腕を折ろうとしたゴンザ先生は、謝りながらも更に他の子の足をあらぬ方向に折り曲げて悲鳴を上げられています。
良かった、僕を助けてくれたのがランスロット先生で本当に良かった…。
「さて、シエロ君?今の間に報告をお願いしたいのですが、宜しいですか?」
「えっ?あっ、皆は…?」
「大丈夫ですよ。ここにいる先生方総出でやっていますから、きっと直ぐにでも助け出されますよ。さぁっ、君は此方へどうぞ?」
「はっ、はぁ…」
相変わらず変なところでマイペースな人だなぁ…。
とか思いつつ、焚き火の前に設置されていた簡易テントの中へ、僕はランスロット先生に続いて入りました。
テントの中は意外と広く、8~10畳程。そして、その中央に置かれた大きめのテーブルの上に地図が広げられています。
ランスロット先生と僕は、その地図を見ながら早速とばかりに報告を始めました。
「僕達のパーティーはこの尾根の辺りから採取を始め、下に下りながら進んで行きました」
「ふむ。此処は日当たりが良さそうですからね、沢山自生していたのではありませんか?」
「はい、予想よりも多く自生していました。それで――」
僕は地図を見ながら、自分達がアルファベット大文字の【J】を描く様に上から下に進んで行った事を報告した後、【J】の真ん中辺りで動物達の気配が何もしなくなった事を伝えました。
「えっ!?それは小動物や鳥の気配すら、ですか?」
「はい、採取と倒した魔物の解体中は鳥の鳴き声が近くで聞こえていたのですが、気が付いたら何の気配もしなくなっていまして…」
「私の記憶では、シエロ様が最後のホーンベナードを解体なさっている途中から気配がなくなった。と記憶しております」
僕が最後に採取していた場所の辺りを地図で指差していると、僕のすぐ後ろからにょきっと腕が伸びてきました。
「あれ?コローレ、脱出成功?」
「えぇ、ゴンザ先生に腕を引きちぎられそうになりましたが、何とか生還致しました」
振り返ると、いつもの様に制服をピシッと着こなしたコローレが立っていました。
あれだけ揉みくちゃにされた挙げ句、腕を引きちぎられそうになったと言う割には、コローレの服には皺一つありません。
うーん。ミステリー…。
「執事として、当然で御座います。」
「何だかなぁ…」
この頃コローレは何かって言うと【執事だから当然】だって言いたがるんですけど、どっからそんな言葉を仕入れてきたんだか…。
「コローレ君。今の話しを詳しくお願い出来ますか?」
「かしこまりました」
おっと、今はコローレの事よりも森の中で感じた事を報告しなくてはいけませんよね?
森の異変の方が重大性は高いんですから。
と言う訳で、ランスロット先生に先を促されたコローレは、地図上にマーカーで印をつけながら説明していきました。
曰わく、動物達の気配がしなくなったのは僕が最後の獲物を解体している最中だった事。
曰わく、僕らが団子状に一塊になる少し前から、鳥の鳴き声が聞こえ始めた事。
曰わく、その間、どこか遠い場所で自分達を見ていた者がいるかもしれないと言う事…。
「コローレ、それはどう言う事?」
「シエロ様もお気づきの事とは思いますが、どこからか視線を感じたのです。ですが、近くにその様な視線を発する事の出来るモノはおりませんでした。と、言う事は…?」
「なるほど。君やシエロ君の探索能力外から覗いていた、と言う事になるのか…」
「ご名答♪」
コローレはそう言って呻くランスロット先生を見ながら薄く笑っていたけれど、僕はまだしも、コローレの探索能力外から覗いていたって…。
僕の探索能力が半径500mだとしたら、コローレの探索能力は半径1~2kmくらいあります。
そんなにも膨大な距離をリカバー出来るコローレの能力でも引っかからない場所に居た相手か…。
う~ん。果たしてそんな事が可能な奴はいるんだろうか?
そもそも、そんな離れた場所でこっちを見ていた奴なんて、どうやって見つけたら良いんだろう?
その場にいったら逃げられてました☆なんて普通に有り得るよね!?
お約束ながら、よく誰も死ななかったですよね(笑)
本日もお読み頂き、ありがとうございました。