百九十四話目 違和感の日
4月13日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
ん?
何か今、誰かに見られてた気がする?
えっ?自意識過剰だって?酷いなぁ、そこまでナルシストじゃないですよ?
「シエロ君。撤収の準備が出来ましたわ?」
おっと、遊んでる場合じゃないや…。
「クレアさんありがとうございます。じゃあ最後に軽く確認だけして、撤収しましょうか?」
「えぇ、分かりましたわ?」
じゃあ、えーと…。クレアさんが見てくれたから大丈夫だとは思うけど、僕も帰る前に忘れ物が無いかだけチェックしておくとしますか。
一応リーダーだしね?
んじゃあ、先ずはフロルが大量生産した【よく眠れ草】――冗談抜きでこの名前なんだよ!?――の種の残りだけど…。
これはランスロット先生に押し付け…ゲフン。栽培用にお渡ししようと思って魔導袋(小)の中にキッチリ閉まったから大丈夫だし…。
捌かなかったホーンベナードはそのまま起きるまで放置しておく事になったから良いとして、命を貰った個体達は血の一滴、毛の一本も残さないくらい綺麗に回収したから、後は僕達がこの場からいなくなれば完璧だね☆
それに皆も…特に薬草の採取をしていたフルスターリと愉快な仲間達はクタクタみたいだから、早いとこ先生方がいる場所まで連れて行って休ませてあげなくちゃ。
「よし。忘れ物無し☆じゃあ皆、先生方がいらっしゃる場所まで下山しましょう!えっと、どうやって下って行こうかな…」
僕は、僕の周りをぐるりと取り囲む様にして並んでいるフルスターリ達の人数を改めて数えてみる事にした。
え~っと、僕、クレアさん、コローレが2人ずつ、ルドルフとブロンデはそれぞれ1人ずつの後輩達を担当していて、合わせると後輩達だけでも8人いる訳だから…。
僕達5人を合わせると全部で13人か…。
「うん。じゃあ帰りは2列になって歩いてみてくれるかな?」
2列?と首を傾げるブロンデを見つつ、僕は話しを続けます。
「前衛はルドルフとブロンデ。中衛はコローレとクレアさんって事でお願いします。往きはグダグダになっちゃったけど、帰りは護衛の陣形を練習してみましょう。僕は最後尾を守りながら、列の具合を観察しつつ行きますから」
」
「何だか分かんねーけど、分かった」
「そっか、これ護衛の訓練も兼ねてたんだっけね?」
「了解ですわ☆」
「かしこまりました」
「「「「「はいっ!」」」」」
んじゃあ、皆からの返事ももらえた事だし、早速下山しますかね?
それにしても……。
ブロンデはまぁともかくとして、ルドルフはもうちょっと陣形とかの【護る】戦術にも興味を持ってもらえないものだろうか…?
【攻めるが勝つ!】の戦法も良いんだけど、何かいつかやらかしそうで怖いんだよなぁ…。
《ザクザク、ザクザク》
そんな事を考えながら、先頭のルドルフとブロンデが山道を下って行くのを見届けた後、一度、変な気配を感じた方を振り返ってみた。
ん~。さっきは確かに、僕に纏わりついて来るような粘っこい視線を感じたんだけどなぁ?
今はそんな気配も感じなくなり、近くには魔物どころか野生動物の気配すらしない…。
ん?野生動物の気配もない?
おかしいな?さっきまでは魔物はまだしも、小さな野生動物達の気配くらいは普通にしてたハズなのに?
「兄様?」
おっと、少し歩くのが遅れちゃったね?
僕のすぐ前を歩いていたフルスターリが、ついて来ない僕に気が付いて話しかけて来ました。
「ごめんごめん。野生動物の気配が無くなったのが気になってさ?鳥の気配もしないんだ」
慌てて列に戻りながら、僕のウッカリで心配させてしまったフルスターリに言い訳をしていると、
「鳥の気配が?それはおかしいですわね?ルドルフさん、ブロンデさん、ちょっと止まって下さいましな」
僕らの会話を聞いていたクレアさんが、まだ進み始めたばかりだと言うのに、ルドルフ達にストップをかけた。
「どうした?また魔物か?」
うん、クレアさんの声に反応してすぐさま戦闘態勢に入れたのは、良く出来ました☆と賞賛されるべきところではあるんだけどね?
ルドルフ君は取り敢えず一回落ち着こうか?
いくら剣を抜いて周囲を警戒出来たとしても、顔がニヤケてちゃしょうがないでしょ?
まぁ、今回戦闘らしい戦闘をしてないから気持ちは分からなくもないけどさ…。
「いえ、魔物ではありませんが、シエロ君が野生動物の気配をお感じになれないとおっしゃったのが気になりましたの」
そんなルドルフにクレアさんも苦笑いを浮かべながら、今僕が話していた事を2人にも伝えてくれました。
「えっ?鳥もいないの?」
すぐさまその意味を理解したブロンデが、慌てた様に僕に問いかけます。
ルドルフは…。うん、頑張って考えてくれたまへ。
「うん。僕の【気配・魔力探知】出来る範囲に、野生動物は鳥を含めて誰もいないんだ…。こんな事初めてだから気になってさ」
「兄様、野生動物がいない事の、何がおかしいんですか?」
僕達の会話を黙って聞いていたフルスターリ始め、約半数の後輩達は揃って首を傾げていました。
何気に皆同じ方向に首が曲がっているのが面白いな…。
「うん。僕達が来たからだって言うなら、逃げたにしろ隠れたにしろ動いた時に分かるはずなんだよね?現に、僕達がホーンベナードの処置をしている時だって鳥はさえずってたでしょ?」
「たっ、確かに…」
あれだけ僕達が何をしようと鳴き止まなかった鳥達が、あの嫌な気配を感じた途端に僕らの周囲から一斉に姿を消してしまったんだ。
いや。きっと鳥だけじゃなく、他の野生動物達も根こそぎいなくなってしまったんだと思う。
それが何かに驚いて逃げ出したのか、はたまた僕らが気が付かないうちに皆殺しにされてしまったのかによっても、また変わってくるところではあるけれど、どっちにしろ普通の状態ではないよね?
「では兄様、早くこの事を先生方にお伝えせねば!」
それがどう言う事なのか、と言う考えに至ったのか、フルスターリは焦りながら早く早くと僕をせっつきます。
「分かってるよ、でも落ち着いて?僕達が先生にお伝えする前に倒れてしまっては意味がないでしょ?と言う訳なので!周囲への警戒を怠らない様に、なるべく全速力で先生方がいらっしゃる野営地まで向かうよ!?」
「「「「「はいっ!」」」」」
と言う訳で、僕達はフロルの力も借りながら全速力で山を下って行ったのでした。
あ~もう!何で毎回毎回僕達ばっかりこんな目に合わなきゃいけないんだ!
山道での全速力行軍…。
それはフラグでしかない気がするんですよねぇ…(ニヤリ)
本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。