百九十三話目 続々々・合同遠足の日
4月12日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
あー!止めるのが間に合わなかったー!?
フロルが投げた種は、僕の気持ちとは裏腹に日の光に反射してキラキラと輝くと、弧を描きながらホーンベナードの頭ら辺へと吸い込まれて行きました。
《カツン、ボフンッ!!》
《ブモッ!?》
そしてホーンベナードの角の根元のところで起こる小爆発。
ホーンベナードの1m近くある顔は、爆発した衝撃でまき散らされた黄色い粉に、すっぽりと覆われてしまいました。
《モッ!ンモ~!?》
ホーンベナードは粉塗れの頭を振ってどうにか纏わりつく粉を払おうとしますが、なかなか上手くいかない様です。
あわわわわ、あのまま暴れられたらこっちにも被害が及ぶよね?
僕の張る【障壁】で、あんな馬鹿でかいヤツに体当たりでもされたら、持ちこたえられるか自信ないよ?
『あれ?意外としぶといな?んじゃあもう1個…』
目の前でブンブンと頭を振り回して暴れるホーンベナードを見て、思わず唾を飲み込んでしまった僕達を余所に、フロルは軽い感じで追加の種をホーンベナードに向かって投げつけました。
「あっ!」
しまった、また止め損なった…。
そう思ったものの時すでに遅く、無情にもフロルが投げた小さな種は、またもやホーンベナードの顔の前で爆発を起こします。
《ボンッ》
《ブモォー!》
更に粉塗れになった状況に、流石のホーンベナードも堪らないと言った様子で、悲痛な叫び声をあげました。
あぁ、もう。オワタ…。
これで怒ったホーンベナードが僕達に突っ込んできて、あのデカい顔の横から生えてる長い角をブンブン振られたりなんかしたら、僕達のヒョロッこい体なんか木っ端みじんになってお終いだぁ。
と、自分達の体がバラッバラになるところまで想像した時でした。
ホーンベナードの体が不意にグラリと揺れ、片方の膝をガックリと地面に叩きつけたのです。
《ズン》
体が大きく傾いだ事で、ホーンベナードに纏わりついていた粉煙が晴れ、その顔がよく見える様になりました。
「あっ、見て!ホーンベナードが、ホーンベナードが!?」
その表情を見たブロンデが、ホーンベナードを指差しながら叫びます。
ブロンデが指差す先のホーンベナードの顔は…。
白目を剥いて、口から泡を吹いた姿でした。
《ズズーン…》
白目を剥いたホーンベナードは、巨体を揺らしながら地面に強烈なダイブ。
そのダイブした反動で、ホーンベナードの巨体は1~2度バウンドしたものの、そのまま起き上がる事はありませんでした…。
倒れたホーンベナードは、その長い口から、これまた長い舌をダラリと垂れ下げさせたまま、ピクリとも動きませ…あぁ、息は辛うじてしてるから、全く動いてない訳じゃないか…。
いや、でもまさかこの巨体がこんなになる程の威力があるとは思いもしなかったなぁ。
「「「「「………(えぇ~!?)」」」」」
『やった~☆大、成、功~!!』
絶句する僕達を余所に、フロルだけは1人ガッツポーズを決めながらハシャいでいたのでした…。
――――――
そんなこんながありまして、僕達の目の前には大量のホーンベナードが睡眠…昏睡?して転がっている惨状に繋がるって訳なんですよ。
まぁここまでの惨状になったのは、襲ってくるホーンベナード達に向けて、片っ端から嬉々として種を投げつけまくるクレアさんの存在があったればこそでもあるのですが、それはまぁ、置いておきます。
「クレアさん。今回の標的の【痺れな草】ですが、目標数には達しましたか?」
「えぇ。今、リフール・ポリエさんとイスト・ルロンさんが採取していらっしゃる痺れな草で、目標達成となりますわ?ですがシエロ君。このホーンベナードはどうなさいますの?」
採取した薬草の管理をお願いしていたクレアさんに確認すると、【目標達成】と言う知らせと共に、眠らせたホーンベナードの処理をどうするかを聞いてきました。
ぶっちゃけ、眠っているホーンベナードの約半数は貴方が喜んで眠らせたヤツですが…?
まさか逃げ出した個体にまで、嬉しそうに種を投げつける鬼畜っぷりを発揮するとは思ってなかったッスよ…クレアさん。
ストレス?ストレスですか?
「そっ、そうですね…。僕はこのまま放置でも良いとは思いますが、どうします?数十頭くらいは狩って学園に納めますか?」
嬉々として種を投げつけまくるクレアさんの姿を思い出してやや顔をひきつらせながら、僕は他のメンバー達にも意見を求めました。
此処にいる全頭全てを刈り取るのは、流石に生態系が崩れそうなので勿論却下ですが、僕達の所に来た個体だけでも数百頭はいるのですから、多少は間引きしないと危ないですからね?
自分勝手な物言いなんですが、この山の麓には小さな集落もあるそうなので、少し間引いた方がそこに住む人間のタメにはなるでしょう。
「良いんじゃね~か?ホーンベナードが増えて困るって話しは出てるみたいだし、持って帰れるだけ持って帰ろうぜ?」
ルドルフの意見も尤もだと言う事で、眠っているホーンベナードの中から、子持ちのメスや子供を抜いた、体格の良さそうなところをピックアップして仕留める事になりました。
なるべく一撃で、苦しまない様にと皆に指示を出しながら、僕の異空間リング内に収納出来るギリギリの20頭に、トドメを刺していきます。
寝首かかれて殺されていくホーンベナード達には申し訳ない事ですが、その分僕は君達の血肉、骨の髄に至るまでをなるべく無駄にしないと心の中で誓いながら作業を続けました。
……無駄にしないと誓ったばかりで何なんだけど、取り敢えずと魔石用の水晶に入れたホーンベナードの血はどうしようかな?
ん~、これやると血抜きはスッゴい楽なんだけど、真っ赤な水晶も増えちゃうんだよなぁ…。
あっ!いっその事、ブラッディーアクセとして売り出しちゃおうかな?
久しぶりにあの露天の兄さんとこ行って、話してみようかな?
◇◆◇◆◇◆
ヒヒ、ヒヒヒヒヒ。相変わらズ呑気そうな顔してやがるナァ…。
アいつは、図体ばかりデカいだけノ雑魚を穫っテ、だらしなくニヤケてヤがる。
今ナラ殺れるカ?
いや、まだダ。
まだあいつヲ殺すには、足りなイ…。
もっとダ。
もっと、力を蓄えなくテハ…。
ヒヒヒヒヒ。でも、もうすぐだ。
力が蓄えられたラ、あいつノやたら綺麗ナ顔ヲ、グチャグチャにして殺してやる。
もうすぐダ。
もうスグだ。
ヒヒヒヒヒ、楽しみだ。
シエロ達から数キロ離れた木の陰に隠れていた男は、どす黒いオーラを隠そうともせずにヒヒヒと笑いながら、また森の中へと消えていった。
あと少し、もうすぐだと、ブツブツ唱えながら…。
森に入ると現れる、妖しい奴の再登場回でした。
さて、いよいよ学生編も終わりに向けてのカウントダウンが近づいて参りました。
どうなるかは筆者も分かっていません(←おいっ)が、もうしばしお付き合い願えれば幸いです。
本日もお読み頂き、ありがとうございました。