百八十六話目 続・謎の石の正体の日
4月5日の更新です。
本日も宜しくお願い致します。
氷属性の魔石?に魔力を充填してもらう為に、僕はクレアさんに水色の石を渡しました。
コローレ謹製のお守り袋はちゃんと石を渡す前にクレアさんに渡したので、もしこの石が呪われていても御守りが跳ねのけてくれる事でしょう。
コローレ、信じてるからね?
「では、クレアさん。宜しくお願い致します」
クレアさんはニッコリと微笑みながら、僕から石を受け取ってくれた。
◇◆◇◆◇◆
フフ、承りましたわ♪
シエロ様に促され、コクリと一度頷いた私は、彼からお借りしたお守りを左手に握り締め、目の前の水色をした不思議な石に魔力を注ぎ込み始めました。
シエロ様の魔力は弾かれてしまっていた様ですが、どうやら私の魔力は大丈夫な様ですわね…。
注ぎ込んだ魔力は弾かれる事無く、光揺らめく石の中に吸い込まれて行きます。
「クレアさん。無理だけはしないで下さいね?」
かけられた声に、瞳だけ動かして見ると、シエロ様の不安げな顔が目に入ります。
もう!シエロ様は自分がお辛い目にあっても「大丈夫大丈夫」だなんて笑っていらっしゃるくせに、人の事となると心配性でいらっしゃるんですから…。
「【大丈夫】ですわ?私の魔力は弾かれない様ですか…あら?」
シエロ様を心配させない為に、一度キチンと石から目を離して微笑んでみました。
シエロ様のお顔の強張りが少し緩んだ様に見えて、私もホッとしたのですが…。
私が数瞬目を離した途端に、魔石が自ら私の魔力を自ら吸い込み始めましたの!
そこまで急激に吸われている訳ではありませんが、自分の体から魔力が徐々に吸い取られていくのを感じます。
慌てて魔力の放出を止めてみましたが、驚いた事に、石は意志を持っているかの様にそのまま私の魔力を吸い込み続けました。
私もこれまで何度か魔石に魔力を充填した事がありましたが、自ら魔力を吸い込むだなんて初めてで、つい驚いて声が出てしまいましたわ?
「クレアさん!?」
「いえ、大丈夫でしてよ?ご心配なさらないで下さいまし。ただ、魔石が放出を止めても魔力を吸い込んで来たので驚いただけですの…」
慌てて石を触っているのとは別の、お守り袋を持った方の手を振り私は無事だと言う事を示しますが、シエロ様の顔は硬く強張ったままです。
あぁ、私は本当に大丈夫ですから、そんなに心配そうな顔をしないで下さいましな…。
◇◆◇◆◇◆
魔石が自分から魔力を吸う?
慌てて魔力の流れを確認すると、確かにクレアさんの体から魔力が吸い取られていくのが分かります。
そこまで急激に吸い取られていっている訳でもない様だからクレアさんも冷静に話せているんだろうけど、普通の魔石が魔力を自分から吸収しようとするなんて有り得ない事だった。
そりゃあこっちが魔力を放出すれば、魔石は力を補充する為に魔力の吸収を開始するけれど、放出を止めたのにそのまま魔力を吸い続けるなんて…。
僕は何とか原因を探ろうと、そのまま魔力の流れを見ていたのですが、魔力の終着点は石の中。それもやや中心から下の辺りに集まり膨れ上がっていくのが分かりました。
そして、膨れ上がった魔力は何かの輪郭を型どりながら、徐々に大きくなっていきます。
あれは、もしかして…。
「シエロ!石が大きくなってるよぉ!?」
ブロンデが徐々に大きくなっていく石に怯えたように叫びますが、僕は石から目を離す事が出来なくて、ブロンデに返事を返す余裕すらありませんでした。
今やウズラの卵程だった石はアヒルの卵くらいの大きさになっています。
そして、その中に膝を抱え込んで丸くなっている様な人の影が見えていました。
これは僕が魔力の流れをおっているから見えている訳で、他の皆にはただ石が大きくなっている様にしか見えていない事でしょう。
「シャーロット、お前は平気なのか?」
「私は魔力を少しずつ吸い取られているだけですから平気ですわ。それよりシエロ君、この石の中はどうなっていますの?」
徐々にとは言うものの、魔力を石に吸われ続けているクレアさんが落ち着いた声で僕に問いかけてきました。
いくらなんでも、魔力を絶えず吸われていて辛くない筈はないのに、気丈に振る舞うクレアさんの姿を見て、年上も年上の僕が狼狽えている事が酷く恥ずかしく感じ、返って冷静になる事が出来ました。
「どうやら、この中には何かが封じられていた様です。悪しき物の気配は感じられないので、クレアさんに危害を加える事はないと思いますが…。クレアさん、本当に体調に変化はありませんか?」
すっかり頭が冷えた僕は、石の中の状況を簡単に伝えながら、クレアさんの体内の魔力の流れを観察しています。
未だ魔力を吸われ続けているクレアさんの残り魔力は最大値の三分の一程。
彼女も今日は朝から魔法を何度も使っていた筈だから、このくらいの魔力残量でもおかしくはない。
ただ、このまま吸われ続けているのは体への影響もある為、見過ごしてはおけないな…。
かと言って、僕が昔みたいに魔力をクレアさんの体内に送り込んでも良いけど、さっきの弾かれ方を考えるとクレアさんに何か影響があったらマズいので実行は出来ないし…。
「あら?石の様子が…」
「えっ?」
クレアさんがポロッと漏らした呟きを聞いて、僕は慌てて顔をあげました。
すると、アヒルの卵程にまで大きくなっていた水色の石にピシリと小さな罅が入り始めているのが見えました。
《ピシリ》
他の皆も、罅が入り始めた石を固唾を飲んで見守っています。
《ピシッ、ミシミシ》
次第に石に入った罅は石全体にまで広がり、中から脈動する様に動いているのが分かる程になっていきました。
「なぁ、これ卵だったのか?」
中から不思議な光を発し始めた石を見つめながら、ルドルフが呟きますが、誰も答えを持っていない為、皆無言のまま石を見つめるしかありませんでした。
《ピシリ、パキパキ》
「あっ、割れる…」
ブロンデが「割れる」と言った時でした。
《パキャッ》
何とも軽い緊張感の無い音を立てて、石の一部が砕けたのです。
「おぉっ…」
ルドルフの感嘆の声に呼応するかの様に石は更に砕けて行って―――。
《メリ、ミシ、パキパキ、パキン!》
石から小さな腕と膝から下あたりの足がニョキっと出て来ました。
えっ、片方の腕と足から出て来るの?
と一瞬思いましたが、どうやら変なところから割れてしまった為、本人?もどうしたら良いのか分かっていない様です。
《?な!g?あ$!7-、せっかく3Hk出られると思4g5kー!》
くぐもって聞こえる為、所々しか聞き取る事が出来ませんでしたが、どうやら「何で出られないんだー!」って怒っているみたいですね?
「しょうがないな…」
これが普通の卵で、いよいよ産まれるぞ!ってんならそのまま見守っていますけど、何でこんな事されているのかまでは知りませんが、流石に封じられていた子がこの状態では可哀想な気がしますよね?
僕は誰にともなく心の中で言い訳をさんざっぱらした後、石の中でもがいている【何か】を引っ張り出しました。
『何で足なのよ!!せめて腕を掴みなさいよ!この変態!!』
ちょっと持つところを間違えたせいで、【彼女】は宙ぶらりん状態になってしまいましたが、何だろ、この子口悪くない?
『いつまで掴んでんのよ!?確かに助けてもらったけど、私は誰かに助けてもらおうなんて、これっぽっちも考えてなかったんだから~!』
水色の不思議な石から出て来たのは、口が恐ろしく悪い【妖精】さんでした…。
おぉう、何だって僕の周りには妖精が集まってくるんだろう…?
僕は、僕の手の中で宙ぶらりんのままキーキーと暴れる妖精を見つめながらため息を吐いたのでした。
あぁ、またブリーズに怒られる…。
と言うわけで、何回目か分かりませんが(笑)新しい妖精さんの登場でございます。
ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。




