閑話 その頃のシュトアネール
200話記念?と言う事で続けて更新しております。
この話しは本日2話目となっておりますのでご注意下さい。
春の穏やかな日差しが氷で覆われたうちの庭にも差し込む様になりました。
庭に出ていても寒くなって、暖かな風が頬を撫でる感覚はとても穏やかで気持ちの良い物ですね…。
あぁっ、これはどうもご無沙汰しております、失礼致しました。
いつも弟と妹がお世話になっております。プロクス・コルトです。
ぼ…私は今、父スワードの下で領地経営の勉強をしています。
これがなかなかに難しく苦労も多い為、今までの父の功績が苦労の積み重ねなのだと漸く思い知る事が出来た次第です。
まだ僕には経営を手伝ってくれる妹と親友がいますが、父は執事のバトラーとたった2人でこの領地を今の様に【温泉】を活用した静養地として繁栄させたのですから、本当に頭が下がります。
「兄様、此方にいらしたのですか?」
ふと可愛らしくも落ち着いた声が聞こえ、そちらを見ると彼女お気に入りの若草色のドレスを着たルーメンが屋敷の扉から出て来るのが見えました。
彼女はルーメン・コルト。ご存知の通り、私の自慢の妹です。
彼女と私は年が1つしか違わず、あまり顔も似ていない為、近隣のお偉方にこの地に戻った事をご挨拶に伺った際には、皆が皆口を揃えて僕のお嫁さんかと勘違いされた程でした。
ふふ、私とルーメンでは釣り合わなさ過ぎるでしょうにね?
僕…私は平凡な顔立ちですし、ただ背が高いと言う他は取り柄等無いのですが、ルーメンは見目麗しい女性へと成長し、その歌声は小鳥たちも適わぬ程美しく、そして光魔法のエキスパートとも歌声が高い女性です。
更に領地経営についても、下手をしたら私なんかよりよっぽど優秀で、今では欠かせない私の右腕となっています。
「兄様、そろそろお時間ですわよ?」
「おや?もうそんな時間かい?」
柔らかな笑みを浮かべながら此方へ駆け寄って来るルーメンにそう声をかけながら、私はジャケットの裏ポケットから丸い金属製の魔道具を取り出しました。
この鎖に繋がれた鈍い黄金色の物体は【懐中時計】と言う名前の魔道具だそうで、文字通り懐の中に忍ばせられる程小さな時計です。
これは弟のシエロが私の卒業祝いにと贈ってくれた代物で、中に小さな雷属性の魔石が入っているそうで、うちの暖炉の間にある柱時計の様に毎日ネジ巻きをする必要も無いのだそうです。
ふふ、ズボラな私にはピッタリですよね?
おっと時間、時間…。
「あぁ、本当だ。もうこんな時間か…。ありがとう、助かったよルーメン」
「いいえ?私とカグツチはこんな時の為にいるんですもの。さぁ、参りましょう?」
感謝と謝罪の言葉を込めた言葉を彼女に伝えると、ルーメンは柔らかな微笑みを浮かべながら、早く行こうと急かします。
【こんな時の為にいる】などと嘯く彼女でしたが、ルーメンがそう言うなら、私など妹と親友が居なければ生きて行けないでしょうね?
ふふふ。
「ルーメン、プロクス居た?」
おや?
「あっ、居たね?プロクス!早くー!」
見れば扉から親友のカグツチが顔だけ出して催促しています。
文字通り天に向かって燃え上がる真っ赤な髪の毛を風にさらわれながら、手と顔だけ出して私を呼んでいますね?
彼はご存知の通り炎の精霊様で、私は彼のお蔭で【シュトアネールの守護神】などと言う大変名誉な名前を付けて頂きました。
まだこの名前に似合う人間にはなれていない私ですが、彼らに釣り合う為にも頑張らなくてはいけませんね?
「兄様、早く早く!」
「プロクス~?」
「ふふふ、分かった分かった」
早く早くと急かす妹の背中と、親友の笑顔を見ながら、私も笑顔を浮かべながら屋敷へ向かって歩いて行くのでした。
と言うわけで、プロクス君たちのその後のお話しをちょっとだけご紹介させて頂きました。
此処までお読み頂き、ありがとうございました。