百八十二話目 続々・まだまだ続く合同授業の日
教壇に立ち、堂々と授業を続けるランスロット先生の偽者の正体を暴こうと、僕はコローレに促されるままに目を凝らして観察しています。
目の前のランスロット先生?は魔力波形が一定せず、ゆらゆらと揺れていますが、時々全く違う魔力波形が見え隠れして…。
あれ?この波形どこかで見たことあるぞ…?
「あっ!」
「シエロ・コルト君?どうかなさいましたか?」
いきなり授業中に大きな声を出した僕に、目の前の偽者は訝しげに話しかけてきました。
しまった、思ったよりも声が大きかったか…。
僕の声と、授業を中断してまで先生が話しかけてきた事で、教室中の耳目が僕に集中します。
あれ~?何か前もこんな事があった気がする~?
「シエロ・コルト君?」
あっ、イカンイカン。現実逃避してる場合じゃないや!
呼びかけても何も応えない僕に、表情だけは困惑とも取れる顔を作って再度話しかけて来た偽者先生でしたが、魔力波形はユラユラと楽しげに揺れています。
明らかにこの状況を楽しんでるな…、この人…。
って言うか。僕からしたら何やってんの?はコッチの台詞だかんね?
「授業のお邪魔をしてしまって、申し訳ありません。【亜栖実】先生」
ムッとした僕はちょっとした意趣返しの意味も込めて、敢えてニコッと笑顔を作ると、教室中に聞こえるくらいの大きな声で偽者先生の正体を告げてあげました。
すると、目の前の偽者ランスロット先生は、僕の言葉に反応してニッコリ…いや、ニヤリと意地悪そうに笑います。
うわ~。ランスロット先生の顔でその表情は見たくなかったな…。
《ざわっ》
僕の言葉と偽者先生の表情が引き金となったのか、またザワザワと騒ぎ出した生徒達を尻目に、未だランスロット先生の格好を続けている亜栖実さんは、大袈裟に両方の腕を広げると、やれやれという仕草をしながらこう言いました。
「どうしてシエロ・コルト君は私がアスミ・ウエサカ先生だと思ったのでしょうか?」
「どうしてもへったくれもないでしょうに…。故意に魔力を揺らすにしても揺らしすぎですよ。それに、わざとらしく素の魔力波形まで漏らして…」
わざとらしく舞台役者チックにして喋る亜栖実さんに、僕は呆れた顔を作りながら返します。
騒がしい教室の中で、僕の右隣にいるコローレはニヤニヤと、そして僕の左隣に座ったルドルフはポカンと口を開けながらアスミ・ランスロット(笑)先生を見つめていました。
僕の後ろに座るブロンデとクレアさんの顔は見えなかったけど、全然動く様子もないからルドルフと同じ様にポカンとしていたんだと思います。
「フフフ、それだけですか?」
何だろう。これ程までに強気なランスロット先生がイラつくとは思ってもみなかったな…。
美形だからか?整ってるからか?
とにかく、いつまでもしらばっくれる亜栖実さんに業を煮やした僕は、【もう1人】の正体を空かすことで対抗する事にしました。
「因みに、後ろのスクルド先生は裕翔さんでしょ?」
「さぁ、何の事で…」
ドヤ顔を続ける亜栖実さんに向けて、親指で後ろの座席の方を指差しながらそう質問してみると、亜栖実さんはランスロット先生の顔のまま笑って誤魔化そうとしました。
だけど…。
《ガタッ》
「うぇっ!?俺もバレてたの?」
だけど裕翔さんが自分からあっさりバラしちゃったものだから、笑顔のまま顔が引きつっちゃってます。
しかし、椅子から転げ落ちそうになるくらい慌てるって…。
裕翔さん、分かり易すぎるよ…。
「あ~、もう!ちょっと裕翔!君が言い出しっぺのくせに自分からバラすってどゆこと?シエロ君にバレちゃったじゃんか~」
そんな裕翔さんの反応を見た亜栖実さんは、頭をかきむしりながらランスロット先生の顔のまま、裕翔さんに向けて抗議の声をあげました。
何かランスロット先生の顔のまま、そんな口調で話されると違和感しかないんだけど…。
「えぇ?俺のせい?亜栖実が最初に魔力揺らすからシエロ君にバレたんだろ?」
こっちはこっちでスクルド先生のまま喚かないで欲しい…。
「何さ、僕のせいだって言うの?」
あ~、もう!2人のイメージが壊れちゃうから止めたげて!?
――――――
「はい、ゴメンね?改めて挨拶するよ?僕はアスミ・ウエサカ。パーティー・きなこもちのメンバーしてます」
暫く教壇の上と後列の出口側の席とで揉めていた2人だったけど、結局亜栖実さんに言い負かされる形で決着が着いた様です。
今はいつもの全身黒尽くめの格好をした亜栖実さんは、大人の口げんかに文字通り挟まれグッタリしている僕達に、明るく元気に自己紹介を兼ねた挨拶をしてきました。
うぅ、今の僕達には亜栖実さんの高音ボイスがエラくキツい…。
「俺はユウト・シライシ。きなこもちのリーダーしてます。驚かせてしまってゴメンナサイです。宜しく…」
一方、亜栖実さんにさんざん言い負かされて僕達と同じくらい。いや、寧ろそれ以上にグッタリしている裕翔さんは、心なしか顔を土気色にしながら、教壇にもたれ掛かる形で僕達に謝罪を込めた挨拶をしてくれています。
それでも勇者と国が認めたパーティーから2人も来て下さった!?と、3年A組のよい子達は興奮気味に口々に声をあげていました。
この何年かで2人に慣れきった僕達は疲れた事もあり、ほぼ無反応だったので、3年生との対比が恐ろしい事になっていますね?
あ~。それにしても、裕翔さんはこの数分で少し老けた様な気がするな…。
「じゃあ、授業に戻るね?」
《ざわっ》
えっ?この状況でまだ授業続ける気!?と教室中の意見は一致していましたが、そんな事お構いなしな亜栖実さんは、サクサク進めていきます。
「え~とどこまで話したんだっけ?あ~…まぁ、いっか!実はさ、さっきまで話してたのの半分はデタラメでした。ごめんなさい!」
《ざわわっ!?》
そして、本日2度目の爆弾発言で教室中がサトウキビ畑になったところで、やっと少し復活した裕翔さんから補足が入りました。
「あ~。亜栖実が言ったデタラメって言うのは、【魔力雲】ってやつの説明の後半部分全部。魔力雲を使えば今まで把握出来ていなかったレベル0の魔力属性を知る事が出来るって言うのは本当だから、そこだけ覚えておいてくれれば大丈夫です…」
裕翔さんが言うには、この授業でやりたかったのは僕がやってみせた様に魔力波形を見て、味方の中にいる敵を発見させる実験で、誰か1人でも正体を見破る事が出来れば合格だったんだそうです。
魔力波形は【妖精視】みたいなちょっと特殊なタイプとは違って、適正を持っている人は結構いるんだって。
で。この適正を持っている人は、レベルを上げていけば将来冒険者とかになった時や、その他の職業についた時に重宝される能力になりうるんだそうで、毎年変身能力を持った先生が何かしらの行事の時に偽者として潜り込んで適正を持った生徒達を探すんだそうです。
じゃあ何で、超多忙な勇者2人をわざわざ呼び寄せてこんな事させたのかと言えば、亜栖実さんがこの学校にいる間に、来年――つまり今年ね?――の担当を引き受けちゃってたから。
亜栖実さん自体はすっかり忘れていたそうだけど、学園側から裕翔さんのところに手紙が来て発覚。
慌てて亜栖実さんに連絡を取ると、何故か裕翔さんを巻き込む形で話しが進んでしまったんだそうです。
最初は全然ノリ気じゃなかった裕翔さんも、段々学園側の口車に乗せられて行く内にノって来ちゃったと…。
まんまと丸め込まれてんじゃん!?
勇者様、しっかりしてよ!!
いつの間にか200話達成していて驚いたのですが、良く考えたらキャラクター紹介が4話分くらいあったので(笑)、204話になったら200話になるのか…。
と何やらシミジミ考えておりました。
約半年間、ここまで続けてこられたのも、いつもお読み下さる皆様方のお蔭でございます。
本当にありがとうございました。
そして、本編学生編?はもう少し続きます。
またお付き合い頂ければ幸いです。