百八十一話目 続・まだまだ続く合同授業の日
騒々しかったランチタイムが終わり、僕達は次の授業を受ける為に特別教室棟までやってきました。
教室に入ると、黒板になにやら紙が張り出されていて、どうやら席順が決まっている様です。
じゃあと、その通りに席に座った僕達は、バラバラに……あんまりならなかった。
「前列に俺らがパーティーごとに座って、後列に…ん?これはどんな順番なんだ?」
「僕が担当したフルスターリとアース君が並んで座ってるし、その隣も後ろもブロンデやルドルフが担当した子達みたいだから…。さっき組んだ特別パーティーごとに並んで座ってるんじゃないかな?」
この教室は元々2クラスから3クラス分の生徒が並んで授業を受けられるくらい広い教室で、大学の講堂か小さめのホールみたいに2段になっています。
僕達6年A組は前方下の段、教壇前側に。後方上の段、出入り口側に3年A組の子達が座っていました。
そして、さっきまで一緒にお昼を食べていた面々が一塊になって座っていたので、たぶんルドルフに言った推測で合っていると思うんですけど…。
《カララララ~ン、カララララ~ン》
「席について下さ~い」
「じゃあ授業再開するぞ~?」
2度目の鐘と共に、うちの担任と3年A組の担任が教壇脇の小さな扉から入ってきました。
そこに3年A組の副担任のマリア先生の姿はありませんでしたが、後ろから物音がしたので振り返ると、一番後ろの席にマリア先生とうちの副担任のスクルド先生が仲良く座るところでした。
どうやら、お2人は後ろの大きな方の出入り口――後ろは両開きの扉になっている――から入ってきた様ですね。
「それでは3時間目、魔法学の座学の授業を始めたいと思います」
「今日1日、お前達には合同で授業を受けてもらった訳だが――」
さて、教壇に立った担任2人による本日3時間目の授業が始まりましたが、どうも変な感じが…。
あぁ、ランスロット先生が眼鏡をかけていないのか…。
え?
あれ?さっきダンジョンで一緒だった時はかけてたよね?
僕の混乱を余所に、ゴンザ先生から話しを引き継ぐ形でランスロット先生が話し始めます。
「実は今回。皆さんには来る遠足の予行演習だという風にお伝えしていましたが、あれは嘘です」
《ざわっ!?》
ランスロット先生の言葉に、にわかに騒がしくなった教室内で、僕は1人、その意味を考えていました。
ランスロット先生以下6学年と3学年の全ての教師が僕達にそんな嘘をついて、何のメリットがあるんだろうか?
もしあったのだとしても、このまま突き通せば良かったのに、それをせず、わざわざ話した目的は?
「ふむ…。もしや、勇者絡みですか?」
コローレがポツリと漏らした発言に、騒がしかった教室中が更に騒がしくなります。
教室の後ろの方に座ったマリア先生や教壇脇のゴンザ先生は「静かに!」と騒がしい生徒達をたしなめようとしていたけれど、ランスロット先生、スクルド先生は微動だにしないまま、僕達の表情や挙動の一挙手一投足に至るまでを観察する様な目で見つめていました。
さっきまでは、ただ楽しいばかりの合同授業といった感じだったのに、これは一体どういう事なのでしょうか?
いつも柔和な微笑を浮かべているランスロット先生が、まるで作り物の人形の様に表情を動かさない事も気にはなりましたが、それよりもさっきのコローレの発言の真意は何処に…?
騒がしい教室と、それを静めようと奮闘する教師の声を聞きながら、僕は1人笑顔を崩さないコローレの顔を見つめる事しか出来ませんでした…。
――――――
「では、皆さんが落ち着いて下さった様なので、詳しくお伝え致します。先程、此方のコローレ・シュバルツ君が仰った事は大体の的を射た発言でした」
《ざわざわ…》
「はいお静かに。勇者様に関係があるのは確かですが、何も魔王軍との戦争が【すぐ】に始まるわけではありません」
ランスロット先生の言葉にまたざわつき始めた僕達でしたが、その後の【戦争が始まるわけではない】と言う言葉で少し落ち着きを取り戻したのか、騒いでいた生徒達も静かに話しを聞く体制に戻りました。
しかし、ランスロット先生は【すぐに始まるわけではない】っておっしゃったんですよね。
これは【すぐ】ではないにしろ戦争が【いつかは】起こる事を示しているわけで…。
現に、ランスロット先生の言葉を理解した生徒達は、他の生徒達よりも深刻そうな顔で、教壇のランスロット先生を見つめています。
「では続けますよ?今回行った【魔力雲】と【急なダンジョン攻略】は、皆さんの今の実力を見させていただく為でした。先程皆さんにも見ていただいた様に、【魔力雲】を見れば潜在的な【魔力属性】を確認する事が出来るわけです。そして、【ダンジョン攻略】ではそのまま【戦闘力】の確認をする事が出来るわけですね?」
そう言いながら、ランスロット先生は黒板に
【魔力雲】→新たな魔力属性の発露
【ダンジョン攻略】→現在の戦闘力の確認
と書き出しました。
確かに今回の合同授業中に、まだステータスカードにも記載されない、言うなればレベル0の魔力属性がいくつも発見されました。
それも、2~3人ではなく数十人単位で、です。
まだ魔力雲を見ただけでは詳しい魔力属性を知る事は出来ません――雲の色を見て判断するしかないからね?――が、それでもステータスカードにも記載されなかった魔力属性を知る事は出来た。
僕は知らなかったけれど、ランスロット先生は魔力雲のその効果の事を知っていたのでしょう。
だって、ランスロット先生は魔力雲の【出し方】を知らなかったのに、やたらとその【歴史】や魔力雲の【読み方】には詳しかったのですから…。
だから、僕が魔力雲を出して見せた時。すぐに授業に取り入れたい!だなんておっしゃったのかもしれません。
「特に魔力雲は―――」
先生は魔力雲の文字を丸で囲みながら、授業を続けていきます。
ん?先生ってあんなに丸っこい文字を書いたっけ?
ランスロット先生は確か、やや角張った文字を書いていた様に思います。
ここで使われている文字や言葉は英語っぽい綴りが多いので、板書される文字も筆記体っぽく流れる様に書く人が多いのですが、ランスロット先生はその文字がやや硬いと言うか、その見た目に反して大味な字をお書きになるんですよね。
まぁ、ぶっちゃけると字が汚い。って事になるのですが、今黒板に書かれた文字はそんな事も無く、読みやすくて綺麗な字でした。
「そして、今回――」
本当にこの人はランスロット先生?
そう思い出したら、僕は授業の内容も頭からすり抜けて、ランスロット先生の動きや話し方を観察する方に一所懸命になっていました。
見た目は確かにランスロット先生その人で、所作や独特の雰囲気もそのままでしたが、やっぱり眼鏡はかけていないし、それにまだ、何か違和感が…?
「あ…」
思わず声が漏れてしまいましたが、漏れ出た声は小さかった為、誰にも気付かれなかった様です。
いや、コローレだけは気が付いたかな?
いやいや、それより今はこっちの方が問題だ…。
何でこのランスロット先生の肩には【アイレ】さんがいないんでしょうか?
ランスロット先生の肩に必ずいるはずのアイレさんがいないなんて、明らかにおかしいのに、何で誰も騒がな…。
あぁ、アイレさんは精霊なのにランスロット先生が妖精の姿のままで過ごしているんだから、【妖精視】を持った人にしか見えないんだった!
じゃあ僕以外分からないじゃ……いや?コローレは精霊だから気が付いていても可笑しくはないか…。
あれ?じゃあ何でコローレは騒がないんだろう?
「フフフ…。シエロ様、良くご覧になって見て下さい。貴方様なら、お分かりになるはずです…」
不思議に思った僕がコローレの方を向くと、彼は先生方に気付かれないように口の横に手を添えながら、小さな声でそう呟いた。
その目は心底楽しそうに弧を描いていて、彼にとってこの出来事はさして騒ぐ程の事では無いのだと言う事をありありと物語っていました。
よく見ろって?
楽しそうによく見て見る様にと言うコローレに促され、僕は改めてランスロット先生?の方を向くと、目を凝らして…。
んん?
偽者の正体は誰でしょうね?(シレッ)
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。