十八話目 誰かを忘れてしまった日
「木土宙太、くん。無事に産…まれてき、てくれて…、本、当に良かった…。」
誰だろう?
何時もの声にとても似ているのに、あの2人とは違う人だと何故か分かる声が響く。
その声がする方へ振り返ると、1人の女性が寂し気な笑顔で立っていた。
「今は、シエロ・コルト、くん、として、新しい、人生を生きると良い…。私達、に、過去に、縛られないで…、欲しい……」
……………。
おはようございます。
何か、今日も誰かに会った気がするんだけどなぁ…。
しかも、いつもとは違う人だった様な気がする…。
あれは、誰だった?
夢の中での出来事を思い出そうとする度、記憶がポロポロ零れて、無くなっていく様な感じがした。
『忘れな、さい…。思い…出さなくて…良い』
頭に霞がかかっていく。
目蓋が…、重い……。
――――――
……………。
おはようございます。
今日も良い朝だね~。
うっ、朝日が目にクル…。
えっ?何か忘れてないかって?
んー?昨日【巾着袋】を出したやつでしょ?
本当に僕の体ん中どうなってんだろうね?
今日は緑色の番だから、今から武者震いが止まらないよ!
HAHAHAHAHA…。
蛇とか、虫とか出てきたらどうしよう…。
ガクガクガクガクガク。
「わーー!?お母さま!シエロがふるえています!!」
「キャーッ!?シエロちゃん!!ジュリア!ジュリア!!すぐにベアード医師をお呼びしてーー!!!」
――――――
ゴメンネ…。
熊の爺ちゃん、僕は元気なんだ。
ちょっと昔のトラウマが刺激されただけなんだよ?
だからさ、洋服返して?
僕は今、何時もより暖かくした部屋で、スッポンポンに剥かれている。
今が何月かは分からないけど、さっき急に部屋の温度が上がった気がするから、この世界でも空調システムとかあるんだね?
意外と文明が進んでるんだなぁと思う。
「ふむっ、何処も悪い所はないようじゃ。震えとったというのは見間違いではないかの?」
「いえっ、そんな事はありませんわベアード医師。確かに先程までシエロは震えておりました」
「せんせい、ぼくも見ました!!」
「成る程のう。しかし、何処も悪いところはなかったしのう…。フム、シエロ坊は何か悪い夢でも見ていたのかもしれんぞい?」
「悪い、夢ですか?」
「うむ。近頃夢貘共が騒がしいそうだからのう」
「まぁ?夢貘が?」
ゴメンネ、お母さん、爺ちゃん、蛇と虫が悪いんだ。
夢は、何か見た気はするけど忘れちゃったから、悪い夢だったのか判別ができないしね。
ん…?
っていうか夢貘って何?
こっちでも貘は夢を食べる生き物なの?
えっ!?マジで?何それ!
めっちゃ見たいんだけど!?
何色してんだろ?やっぱりピンクとか?
「シエロ?こわいゆめを見たの?」
おっと、お兄さん、そんな恐ろしい…、ゲフンゲフン。
悲しそうな顔しないで?
ありがとう、頭撫でてくれて、暖かい手が気持ち良いよ。
大丈夫、蛇や虫くらいじゃ、悪夢まではいかないから。
見かけたら少し叫ぶくらいだから(笑)。
「ふむ、何にせよちょうど良かったわい。これだけ発育も良く、首もしっかり据わっておる。外も春めいて良い陽気になっておるし、少しずつなら外に出ても大丈夫じゃろう」
熊爺は、ご自慢の髭を撫でつけながら、ニコニコと笑った。
そうか、今は春だったのか…。
「シエロ坊や?外は花が沢山咲いて、それは綺麗じゃぞ?母様や兄姉に外に出して貰うと良い」
おう、そうするぜ!爺ちゃん!!
「うー、おっおっー!!」
ここぞとばかりに手足をばたつかせてアピールしてみる。
「おぉ、そうかそうか、シエロ坊は外に行きたいのか」
爺ちゃん先生はまるで、自分の孫を愛でるかの様に、優しい顔をして笑った。
爺ちゃん先生は孫が出来たら立派な孫バカ爺になるな(笑)
それはさておき。
僕は、お外に行きたいぞー!!