一話目 始まりの日
ーーーーー…1番最初の記憶は、柔らかい布団の中の物だった。
肌触りの良い滑らかなシーツに身を委ね、更にフワフワの毛布にくるまれて眠っている。
辺りは薄暗く、何も見えないのでまだ朝も早い時間なのだろう。
正直もう少し寝ていたい。
昨日まで職場が修羅場っていたせいもあって、今日は待ちに待ったひと月半ぶりの休みだった。
今回、僕がいる部署に回ってきた仕事量が、普段じゃ考えられないくらいの量で、皆、目を回しながら仕事をこなしていた。
まだ、仕事に慣れていなかった後輩は、汚い話、何度か戻してしまったくらいだ…。
徹夜仕事も何回かやったし…。
っていうか正に昨日がそれだったわけで…。
昨日を思い出し、大きな欠伸が出る…。
うん、僕頑張った。
珍しく目茶苦茶頑張った。
こんなに頑張ったのに、トドメを刺す様にまたナンパされたし。
しかも、相手は男だ…。
まぁ、ナンパされるなんて哀しいかな珍しくはないのだけれど、出来れば僕がする方になりたい。
勿論可愛い女の人にだよ?
僕はれっきとした成人男性だからね!
だからさ、
「やぁ、そこの君。これから予定はあるかな?なかったら俺と食事でもどうだい?オシャレなバーにでも行かないかい?」
じゃ、ねーよ!!
平日の真っ昼間っからオシャレなバーとやらに連れて行ってどうすんだよ!?まだ開いてすらいねーだろうが!?馬鹿過ぎるだろ!?
それがまた、あんまりにもしつこい奴でさ、あんまりイライラしたから撃退してやったよ。
何とか言いくるめて逃げようとしたのに、それでもしつこく話しかけてきてさ、そいつに肩を捕まれそうになったから、その腕を取って思いっきり投げ飛ばしてやった。
相手が目を回したところで、ダッシュで逃げてきたけど…。
はぁ、今思い出してもイライラすんなぁ。
まぁ、そんなことがあったもんだから仕事の疲れに+α(ぷらすあるふぁ)で、精神的にもキタ訳で…。
だから、まだ目を開けたくない!
ぶっちゃけ寝てたい。
まだ寝てても良いよね?
と、自分に散々言い訳をしてから、嬉し楽しな二度寝と決め込もうとして…。
ふと気がついた。
あれ?えっ?身体が動かない……。
完全に動かない訳ではないけれど、寝返りすら打てない状態にパニックになる。
あれ?
うっ、嘘だろ!?声もでない?
「あ~、う~?」
何とか絞り出した声も、うなり声の様なものに終わった。
あれ?
っていうか、声高くね?
何とか絞り出した声は、生まれたての赤ん坊の様に高くて可愛らしい声で…。
いくら僕が女顔で、背も低くて、よく男にナンパされるからと言って、声は男のそれな訳で、女の子みたいな高い声なんて出ないし、まして赤ん坊の様な声が出るはずがない。
何がどうなって…。
と、薄暗かった部屋に日が差し始め、辺りが明るくなってきた。
当然何とか動こうともがく自分の手足何かも見える様になった訳で…。
「あぅあぅあーー!!?(なんじゃこりゃー!!?)」
そこに見えたのは、所謂ゴムをはめたかの様な、赤ん坊特有のぷくぷくとした手。
いや、手というよりはおててと言いたくなるそれで……。
開いていた手を握ると、目の前のおててもグーの形に握られた。
何度か握ったり、開いたりを繰り返すが、その度に目の前の小さなおてても同じ動作をする。
「……………。」
信じたくはないけれど、僕はいつの間にか赤ん坊になっていたみたいだ。
あまりのショックさに、僕は意識を手放した。