百八十話目 まだまだ続く、合同授業の日
「無事ならすぐに答えてくれよな?」
「ごめんごめん。意外と植物の壁が分厚くてさ?耳を澄ませないと聞こえなかったんだ」
あの後、僕はフロルにお願いして蔓の壁を解除してもらい、無事に皆と合流する事が出来ました。
それで、今は後輩君達の疲労度を見越して地上まで戻っている最中。
合流してからずーっと止まらないルドルフの愚痴を延々聞きながら、僕達は来た道を戻っています。
「でも、シエロが無事で良かったよ」
「全くです!兄様に何かあっては、プロクス兄様やルーメンお姉様に顔向け出来ません!!」
そんな洞窟エリア内に響き渡るルドルフの愚痴をBGMに、ブロンデがシミジミと僕の無事を喜んでくれました。
フルスターリは…。うん、まぁいいや…。
ともかく、パーティーメンバー全員に心配をかけてしまったのは事実なので、そこは僕も反省してます。
なので、ルドルフの止まらない愚痴もクレアさんの「手をつないで歩いて下さいまし…」と言う超絶可愛らしいお願いも全部受け止めながら歩いている訳で…。
因みにクレアさんは僕の右側にいて、顔を真っ赤にしながらも手は離さないぞ!とばかりに僕の手をシッカリ握りしめています。
恥ずかしがり屋なクレアさんがそこまでして手を離さないなんて、本当に心配させてしまったんだなぁ~と、僕の胸は罪悪感でチクチクと痛んで仕方がありません。
ごめんね?これからは心配かけさせない様に頑張るから!
との思いを込めて、僕はしっかりと握られたクレアさんの可愛らしい手を握り返します。
まぁ、身長差は全然可愛くないんだけどね…。
「シエロ、君?」
急に手を握り返してきた僕に、クレアさんが顔を赤らめながらも不思議そうにこちらを見てきたので、僕はにっこりと微笑んでみました。
これは、なるべく僕の思いが伝わると良いな~と思っての笑顔だったんだけど…。
「きゅう…」
「あっ、あれ?クレアさん!?」
クレアさんは顔を茹で蛸みたいに真っ赤に染めると、そのまま白目をむいて倒れてしまいました!??
「シエロ、お前何やったんだよ!?」
「僕も何が何だか分からないんだよ?」
僕は、気絶してしまったクレアさんの体を抱きかかえながら、あらぬ疑いをかけてきたルドルフに半泣き状態で返します。
ハミングバードに何かされてたとか?
いや、そんなはずは…。
だってクレアさん側にいたのはカワードウルフだけだったし…。
「シエロ兄様の可愛らしさは何とも罪深いものだ…」
何かフルスターリが素晴らしい笑顔を此方に向けながら何か言ってるけど、意味が分からないからとりあえず無視!
それよりクレアさんだよ~!?
あわわわわわわ。
――――――
「次は昼休みを挟んで【魔法学の座学】となる!場所は特別教室棟の3階、一番奥の部屋で行うので、鐘が2回鳴るまでに集まっておく様に!では、それまで解散!!」
3年A組の担任教師。ゴンザ先生からの号令で、僕達はお昼ご飯の時間となった。
授業とは言え、朝から魔法を使いっぱなしだったから、もうお腹と背中がくっつきそう…。
そうそう。原因不明の気絶をしてしまったクレアさんだったけれど、今は普段通りスミスさん達と、さっきまで一緒だった後輩2人を引き連れて、食堂・購買棟へ楽しそうに向かっていきました。
丸めたティッシュらしき物が鼻に差し込まれていたのが少し気になったけど、まぁ元気そうだったから良しとするかな?
「シエロ、昼飯何食う?」
「そうだな~。僕は…」
「兄様、僕もお昼にご一緒させて頂いても宜しいですか?」
「おっ、俺も!」
「あっ、私達も宜しいでしょうか…?」
「「「是非っ!」」」
さぁ、ご飯だ!と、僕達4人もクレアさんに習って食堂・購買棟に向かって歩きだそうとしていたら、フルスターリ、アース君、それとコローレやルドルフ達が担当していた4人の生徒達が声をかけて来てくれました。
って言うか、進行方向に割り込んできたと言う方が正しいのかな?
僕達4人に対して6人の後輩君達が進路妨害している訳だけど、内アース君とルドルフが担当していた男の子の身長が高くて圧迫感が酷い!?
くっ、3学年も違うのに、身長差は既に逆転されてる上に壁の様に立ちはだかるとは…。
ちょっと攻撃魔法でも使って2人の身長を物理的に縮めたくなったけど、そこは自重しておこう。
「僕は良いよ?皆は?」
その代わり、そんなあくどい事を考えてしまったお詫びとして、僕はにっこりと笑いながら許可を出しておきました。
続いて他の3人にも聞いてみる。
すると、
「俺も良いぜ?」
「僕も!」
「シエロ様のお望みのままに…」
といったテンポの良い会話が返って来たので、僕達は声をかけてきてくれた後輩達――命名、フルスターリと愉快な仲間達(笑)――と並んで食堂・購買棟へ行く事になりました。
食堂・購買棟までの道中、ただゾロゾロ歩くだけではつまらないので、ダンジョンに行ってみた感想を聞いてみる事に。
「初めて行ったダンジョンで、まさかカワードウルフに会うとは思ってもいませんでしたよ」
とはアース君の感想。
勢いよく真っ二つにしていたアース君だったけど、初めてカワードウルフに遭遇した時は目を白黒させて驚いていたものね?
「自分は上手く連携を取れず悔しかったです」
続いてルドルフが担当していたアルト・ローマン君。
でも連携云々で言うと、普段組むことはない組み合わせをわざわざ先生方が選んでいるんだから仕方ないと思うんですけど?
パーティーだって僕らに合わせてるからバラバラな訳だし…。
さて、そんなアルト君はこの国では珍しい丸刈りで、背筋もピンと伸びているから、口調も仕草もどこかスポーツマンみたい。
きっと前の世界にいたら野球部に入っていたんだろうな…。
まぁ、それ以前に頭がショッキングピンク色の球児なんていないでしょうけどね…。
って言うかいたらイヤだ!どんな世紀末だよ!?
「僕ももう少しスマートに動けるかと思っていたけど、いざ実践となると体が思う様に動かなくて悔しかったですね」
フルスターリもアルト君の言葉に共感した様で、うんうんと腕を組みながら何度も頷いています。
兄さんは君がドンドン女の子じゃなくなっていくのがツラいです…。
「まぁ、反省も良いけど、次上手くやりゃあ良いんじゃね?ほら、まずは飯食って落ち着けよ?なっ?」
僕の少し前を歩いていたルドルフが、同じく並んで歩いていたアルト君の背中をバシバシ叩きながら笑っています。
当のアルト君は痛がっていましたが、ルドルフはルドルフなりに後輩達を慰めたかった様ですね。
ルドルフはそのままアルト君の肩を抱いたまま、食堂・購買棟の中に入っていきました。
おっと、悠長に実況している場合じゃないや!僕もご飯ご飯!
――――――
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
僕達はいつもの様に、おばちゃんから日替わりランチを受け取って席に着きました。
いつもと違うのは、フルスターリと愉快な仲間達の人数分席が増えた事。
だから、いつもなら絶対座らない様な長いテーブルを1つ陣取って、いつもとはひと味違った雰囲気を楽しみながらランチタイムを過ごしています。
因みに、今日の日替わりランチはAがブレードシープって言う、毛の一本一本がカッターの刃みたいになっている羊に良く似た魔物のステーキと芋のサラダのセット。
Bは体長が200mくらいある巨大鮫のキング・シャークのソテーと同じく芋のサラダのセット。
僕は鮫を食べたい気分だったので、Bランチをセレクト…ってどうでも良いですね。
「次は何をやるんだろうな?」
ルドルフがブレードシープの肉を頬張りながら次の授業について聞いてきました。
うさぎが羊を食べて…ゲフンゲフン。
「何だろうね?僕達の時とは全然違うから、予想もたてられないけど…」
聞かれたブロンデも、ブレードシープの肉を切りながらそう答えます。
確かにブロンデの言うとおり、僕達が3年生の時に受けた合同授業とはかけ離れた内容になっていました。
1時間目が魔法学だったのは同じでしたが、途中から魔力雲一色になってしまったし、いきなりダンジョンへ潜らせる。何て事もありませんでした。
精々が寮の裏山での薬草摘みくらいなもので、魔物に遭遇する事もなかったし…。
「では、戦闘訓練も…?」
フルスターリが芋のサラダをフォークで突き刺しながら聞いてきましたが、勿論実践的な戦闘訓練などありません。
「体育の授業の中で、武器を振るう時のフォームの確認くらいはしたけど、それくらいだったかな?」
「えぇ、それくらいでしたね。シエロ様、あーん」
いや、この流れでなんでそうなるんだよ!?
余りに流れる様に差し出された為、そう思った時にはコローレのフォークに刺さったブレードシープの肉を口に頬張っていました。
あっ、ブレードシープの肉から脂がじゅわ~って零れて来た…うま~…。
ん?フルスターリどうしたの?
「兄様、僕はいつでも兄様の味方ですからね?」
何か僕を見るフルスターリの目が妙に熱っぽいと言うか、ウットリしてる気がしたけど、僕は敢えて見ないフリをしたのでした。
☆オマケ☆
シエロ「ブレードシープの肉でジンギスカンしたいなぁ…」
ルドルフ「チンギス・ハン?」
シエロ「何か色々アウト!」
本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。




