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百七十九話目 続々・まだ続く合同授業の日



《グルルルル》


 薄暗い洞窟の中で睨み合う僕とホワイトファング。


 僕の背後にはフロルに張り巡らせてもらった蔓の壁と、そこから微かに聞こえる金属を打ち合うような戦闘音。


《ピュル、ルルル、ルルルルル♪》


 そして、そんな僕とホワイトファングの頭上を、5羽のハミングバードがこの場には似つかわしくない、軽やかなメロディーを奏でながら飛び回っています。


 ハミングバードが歌っているのは、どうやらホワイトファングを興奮させる類いの効果のある歌の様で、段々とホワイトファングの目に妖しい光が灯り始めました。


 次第に呼吸も荒くなり、口からはだらしなく涎までダラダラと垂れ流されて、いつ此方に飛びかかって来てもおかしくはなさそうな状態です。



「まぁ、こっちに飛び出して来れたら、の話しだけどね?」


『そうだね。今のうちにやっちゃえシエロ!』


 僕の漏らした独り言にも律儀に返してくれるフロルに、戦闘中ながらちょっと和ませてもらいつつ、僕は杖を構え直します。


 一見ピンチ!なこの状況で僕が何故こんなに冷静でいられているかと言うと、ハミングバードの曲の効果が出るのは魔物だけな上に、効果が出るまでにはとても時間がかかるから。


 しかも、ハミングバードが歌っている間は、聞かされている側はどうしても隙だらけになるんです。


 この欠点のお蔭で、強力な催眠能力を持っているにもかかわらず野生のハミングバードは絶滅寸前だって言うんだから、余りにも滑稽と言うか、何というか…。


 悠長に歌ってないでさっさと逃げれば良いのにね?



 まぁ、どちらにせよホワイトファングなんて大物が出て来てしまった以上、こんな絶好の隙を突かない手はないんですが…。



「《光操作:光の(ライト・アロー)》!」


 僕は徐々に精神を侵されていくホワイトファングから目を離さない様にしながら、宙に矢の形を模した光の刃を30数個浮かせると、そのままホワイトファングに向けて連続射出していきました。


《ガガガガガガガ》


《グオォ!?》


 普通の状態のホワイトファングなら、余裕で交わされてしまうくらいの速さでしかないこの魔法も、今のホワイトファング相手では良い的でしかありません。


 僕が放った光の矢達は、ホワイトファングの強靭な体を簡単に傷だらけにして行きます。



《ガガガガガ》


《グォォオォ!》


 次々に己に襲い来る光の矢に、得意な素早さもせっかくの氷結魔法も活かせず、手も足も出せないまま、傷だらけのホワイトファングは自慢の真っ白な毛並みを鮮血で赤く染めていきました。


《グゥ…》


《ピュルル!?》


 ホワイトファングが痛みに苦しみ唸り声をあげる中、流れ弾に当たったハミングバードも悲鳴をあげながら2羽、3羽と落下してその数を減らしていきます。


 ハミングバードの催眠にかかっていなければ、もっと圧倒されいたであろう僕も、どこか作業の様に感じながら哀れなホワイトファングの体を光の矢で貫き続けていきました。


「《光操作:光の矢》!」


《ガガガ》


 僕はそんな魔物達の様子を見ながら、弾数が無くなってくるとすぐさま矢を補充し、なるべく攻撃をきらさない様にして矢を飛ばし続けます。


 作業なんて言っているくらいなら、さっさとホワイトファングにトドメをさせば良い!と思われるかもしれませんが、それだとハミングバードを倒せないんですよね?


 ハミングバードは攻撃力は皆無ながら、機動力…つまりスピード特化型なので、本体をただ狙っても自分が狙われているのを察知して、すぐに回避されてしまうんです。


 なので多少のロスは気にせず、ホワイトファングを狙っているのだとハミングバードに認識させた上で、わざわざ【流れ弾】に当てる、と言う面倒くさい方法をとらざるを得ないと言う訳で…。


《ザシュ!》


《ピュル、ルル…》


 お?そんな説明をしている間に、最後の1羽を倒すことが出来た様ですね?



 では…。


 僕は力無く地面に叩きつけられたハミングバードをチラ見した後で、改めてホワイトファングに向き直りました。


《グルル…》


 ハミングバードが全て倒された事で催眠が解けたのでしょう。


 彼、もしくは彼女は体中を血だらけにし、力が上手く入らないながらも、未だその強い目の力だけは失わないままに、こちらを睨みつけています。


 あんなに綺麗だった真っ白な毛並みも、今はその面影をうっすらと残すのみで、殆どの部位が赤黒い色に醜く染まっていました…。


「今、楽にしてあげるよ」

《ぐおぉー》


 こちらを睨みつけたまま、最後の虚勢でもって鳴き声をあげるホワイトファングの瞳を見つめながら、僕は杖を持った腕を振り上げました。


《ドゴッ》



◇◆◇◆◇◆


 此方の戦闘が終わって暫く経ちましたが、シエロ様の妖精フロルちゃんが張って下さった障壁は未だに解除されません。


 先程からルドルフさんとブロンデさんが向こうに呼びかけていますが、それにも答えて下さらない様で…。


「シエロ!」


「シエロー!」


 此方側にお残りになったランスロット先生も、その様子を心配そうに見つめていらっしゃいます。


 唯一、コローレさんだけは慌てずに不安そうな後輩達を優しく宥めて下さっていますが、私はコローレさんの様に平常心ではいられません。


 シエロ様の事は信じています。信じていますが…。


 私は、シエロ様から頂いた四つ葉のクローバーの形を模したペンダントを握りしめながら、彼の無事を祈るしか出来ませんでした。



◇◆◇◆◇◆


「…い…」


 ん?今、何か言った?


「……エロ…」


 あっ、ほら。フロルかい?


《ううん。僕じゃないよ?壁の向こうから聞こえたみたい》


 壁の向こう側?


「……い!…エ…ー!」


 あぁ、本当だ。


 えっと、これはルドルフかな?


 どうやら向こうも戦闘が終わったみたいだね?


 僕はズボンやローブについた砂埃何かの汚れを軽く払いながら立ち上がりました。


 さて、じゃあ皆と合流しなくちゃね?


 あぁ、何で服が汚れたかって言うと、せっかくのホワイトファングやハミングバードからのドロップアイテムを見逃す訳にはいかないな~と思って拾ってたから何ですけどね?


 でも、おかげで【お喋りな羽根】と【氷の結晶】をゲット出来た訳で…。


 あっ、この2つのアイテムはですね?


「シエロー!」


「無事なら返事してー!?」



 あっ、今はそんな場合じゃないですよね?



 ハイハイ、今開けま~す。





ハーモニーバードの防御力は紙レベルです(笑)


本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。



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