百七十八話目 続・まだ続く合同授業の日
引き続き、僕達は学園内にあるダンジョンを散策しています。
初めてのダンジョン攻略に興奮気味の後輩君達を宥めながら、とりあえず地下10階を目指そうと、僕達は現在、9階に降りる為の階段を捜索しているところ。
そして―――
「たぁっ!」
《ザシュッ》
《クォーン…》
鮮やかな緑色の髪をなびかせながら、一頭のくすんだ灰色の狼を切り捨てる少年、ことアース・キンチョナー君。
そんな彼の見事な剣裁きによって、秋田犬くらいの大きさのカワードウルフが、本日5個目のドロップアイテムへと姿を変えました。
他に敵がいない事をサクッと確認した僕は、早速カワードウルフが落としたアイテムを拾いに向かいます。
おっ、ラッキー☆【臆病者の涙】だ。
ほほほ、これは中々なレア素材をゲットしたぞ―――。
あっ、えーとこほん…。
このくらいの階層だと大体一発で戦闘が終了してしまうので、今はアース君やフルスターリ他後輩君達に戦闘を任せていました。
勿論危ないと判断したら僕達も手を出しますし、本当に危なかい時にはランスロット先生もいて下さいますからね?
「今ので戦闘終了みたいです。お疲れ様でした…」
クレアさんが指導していたリフール・ポリエさんによって、戦闘終了が告げられました。
後輩達の周りには、あからさまにホッとした様な空気が流れます。
本当は、いくら戦闘が終わったからと言ってもダンジョン内で此処まで気を抜いたら駄目なんですけど、僕達も彼らくらいの頃に同じ事をした覚えがあるので、微笑ましく彼らを見つめていました。
因みにリフールさんは蝙蝠族の女の子だそうで、クラスメートのデイビッド君と同じく背中に小さな黒い羽が生えています。
デイビッド君程では無いにしろ彼女も目が悪く、もっぱら超音波が跳ね返ってくる時の感覚で物を把握しているのだそうです。
そう聞くと、本当に蝙蝠みたいで面白いなぁ…。
後で目の具合を診察させてもらおっと。
ん?魔力?
ふと、洞窟の壁の一部から魔力が微かに噴き出し始めたのを見つけ―――。
あっ、ちょっとこれはまずいかもな…。
「急速な魔力の高まりを感知!出現場所は前方20m!総員、戦闘準備!」
僕の言葉を聞き、サッと戦闘体制に入るチーム桜餅のメンバーに対し、慌てた様に武器を抜く後輩達。
ダンジョンでは、時折こうして魔物が【湧いて】くるので、本当に気が抜けないんですよね。
《カラン》
あっ、誰か武器落とした。
《ガチャガチャ》
「うわわわわ」
あ~、これは後で反省会だな…。
そうこうしている間にも、僕達の前方に集まってきていた魔力はどんどんとその輪郭をハッキリとさせていきます。
一方僕の真後ろでは、落とした剣を拾おうとガチャガチャやっている音が未だ聞こえてきますね…。
どうやら、焦って中々掴めない様ですが、目の前の魔物はそんな事待ってくれません。
《クォン!グルルルルル》
姿を現したのは8頭のカワードウルフの群れ。
単体なら臆病者の性格が災いして比較的簡単に隙を見せる魔物ですが、群れになると途端に凶暴になって襲ってくる、ちょっと厄介な魔物です。
ランク的には低いけど、この数をいなすのはまだこの子達には早いかな?
「ルドルフ!奴らは火に弱い。先ずはファイアーアローで撹乱!」
「了解!」
「コローレは眼鏡起動!相手の体力に注意して!群れになったカワードウルフは厄介だから、動向に注視」
「かしこまりました」
「続けてクレアさんは僕と一緒に障壁を張ります!ブロンデはルドルフのファイアーアローに怯んだカワードウルフを各個撃破!一体撃破毎に一度引くを繰り返して!」
「分かりましたわ!」
「了解!」
無理だと判断した僕は、さっさと主導権を奪還してルドルフ達に指示を出していきます。
さて、総勢8人の後輩達を守りながらの戦闘だ、気は抜けないぞぉ~?
「クレアさんは前方に障壁を頼みます。僕は―――」
そこまで指示を出し終えた時でした。
今度は、僕達の後方。約30mの辺りの壁から魔力が噴き出すのを感じて……。
あっ、ヤバい…。
予感は的中。見る見るうちに噴き出した魔力から魔物が形作られ、次々と生まれ様としています。
此処に来て、まさかの挟み撃ちとはね?ここが低階層だと思ってちょっと油断してたかな?
「ちっ、後方からも魔物出現!コローレ、そっちの指示は君に任せる!他のメンバーはさっきの指示通り、もしくはコローレに従って下さい!後方の魔物は僕が倒します!!フロル!」
「「「了解!」」」
「かしこまりました」
『はいは~い』
「僕の援護をお願い!出来れば障壁を張って後輩達を守って!」
僕は桜餅のメンバーに手早く新たな指示を出すと、フロルに頼んで僕の代わりに障壁を張ってくれる様に頼みました。
これはクレアさんにも頼んであった事でしたが、クレアさんの張る障壁では一方向しか守ることが出来ないので、他の3方向部分をフロルにお願いしたかったんです。
『うん。任せて?』
フロルはそう軽い口調で答えると、シュルシュルと後輩達の周りを蔓の様な植物で覆い始めました。
急にワサワサと自分達の周りを取り囲み始めた植物に一瞬怯んだ後輩達でしたが、下手に動かれても困るので、これは僕の魔法だから問題ないとだけ伝えて、今は待機の指示だけを出しておきます。
おや?どうやら不服そうな顔と、やたら安心しきった顔とでバッチリ半分に別れたみたいですね?
不服そうなのも困るけど、この状況で安心しきられても困るから、これは本当に後で作戦会議だな!
それはそうとして、後輩達を覆っているこの植物はフロルお得意の魔法で、植物なのに炎にも寒さにも強い特殊な物なんだそうです。
その密度の高さから、天然の牢獄にもなる植物なんですが、この場合は頼もしい壁の変わりにもなってくれます。
《ピュルルルル!》
向こう側が見えなくなる程の密度で洞窟の壁一面に植物が生い茂ったのとほぼ同時に、新たに噴き出した魔力から魔物が出現しました。
鳴き声をあげながら出現した魔物の数は5。
此方はカワードウルフではなく、ハミングバードの様ですね?
ハミングバードは雀くらいの体躯で体の色も地味ながら、常に群れで動き、その名の通り鳴き声で美しいメロディーを奏でる様に攻撃してきます。
今回は5羽だったので比較的少ない方でしたが、この魔物が厄介なのは、その歌声で強い魔物を使役しながら戦わせる事。
当然此処では使役される魔物もセットで出現してきます。
今回の魔物は…。
《グルルルル》
おぅ、マジか…。
何で低階層のはずのこの場所に、ホワイトファングが出て来るんだよぉ。
ホワイトファングとは言うなれば白い狼です。
とは言えカワードウルフとはレベルが桁違いな上に倍の大きさがあり、更には氷系の魔法も使ってくるわ、素早いわで、本当なら1人で対峙したくない魔物のトップ10に入るのは間違いなしな魔物なんです。
フロルが付いてくれているとは言え、僕1人でこれら全部を相手するのは骨が折れますね…。
まぁ、負けませんけどね!
カワードウルフはス○夫タイプ(笑)の魔物で、一頭だとビクビクしているくせに頭数が増えると狂暴性が上がる厄介な魔物です。
助けてジャ○アン!
本日もこんなところまでお読み頂き、ありがとうございました。