百七十六話目 続々・合同授業の日
ランスロット先生の熱を帯びた魔力雲講座は、その歴史や残っている伝承の話しにまで及ぶ――前に、他の先生方から止められる形で幕を閉じた。
今も喋り足りないと顔にはハッキリと書かれていたけれど、
「先ずは実際にやらせてみましょう?」
と言う他の先生方の提案で、ランスロット先生は生徒達の魔力が暴走する等の危険がないかを後ろからチェックしてもらう事になりました。
とは言え他の先生方、つまりは3年A組の担任と副担任の先生方も【魔力雲】何て方法は知らないやり方だったそうで、そんな方法をいきなり生徒達にやらせる訳にもいかないと、先にお2人が実際にやってみる事に…。
さっきから3年A組のよい子達が、「先生出来るの~?」何てからかっている事からも、担任の男性教諭の人気度が伺えますね?
対する副担任の女性教諭の方の人気もなかなかの様で、「マリア先生頑張って~!」なんて女子達から応援されていたから、期待に応えようと2人とも凄く張り切っているみたい。
なんせ僕の前に立ったお2人からは、薄くだけど魔力が漏れ出してるくらいですからね?その本気度が伺い知れるって~もんです。
「先ずは、お腹辺りでご自分の魔力を感じてみて下さい」
「こうかな?うん。大丈夫、分かった」
「えぇ。私も感じられました」
シエロ君。つまり僕の方が魔力雲の扱いに慣れているからとランスロット先生が言いやがったせい…コホン。
おっしゃった為、何故か僕が3年A組の担任と副担任に魔力雲の出し方をお教えする事になりました。
生徒が先生に教えるとか、あべこべじゃんか…。
とか、最初はちょっと内心不服爆発で先生方を見ていた僕でしたが、お2人の魔力感知の早さと正確さに、そんな事も忘れて楽しくなっていました。
ンフフ。流石は学園で教師をやっているだけありますよね?
これならすぐ次に移行出来そうです。
「では次は、そのままお感じになった魔力を回転させてみて下さい」
「うむ。こう、かな?」
「回転…。出来ました」
うん。思った通り魔力を回転させる事も、お2人は危なげなく出来た様ですね。
お2人のお腹の辺りで、魔力が勢いよく渦を巻いているのがよく見えます。
実はさっきから、フロルにも手伝ってもらって魔力の流れを追って見ていたのですが、ここまではお2人とも順調過ぎる程、何の問題もなく進んでいます。
「では回転数がいい感じになって来ましたので、回転させたままお腹から腕を通して、手のひらから体の外へ放出してみましょう」
「腹から腕…」
「腕から、手のひらを通して外へ…」
お腹で渦を巻く魔力の頃合いを見て次の指示を出しましたが、お2人とも【お腹→腕】に移行するのに少し手間取っている様です。
あれ?回転させすぎたかな?
『回転数は許容範囲内に収まってるよ?単に慣れてないからじゃないかな?』
首を傾げる僕に、肩にとまったフロルがそう言って慰めてくれましたが、魔法の扱いが得意なハズの先生2人が、魔力の操作に慣れてない?
そんな事有り得るのかなぁ…?
『シエロは気付いてないみたいだけど、魔力を回転させるのって魔力を【圧縮】してるのと一緒なんだよ?普通、魔法を使う時に一々圧縮なんかしないんだよ?』
えっ?圧縮?
未だ魔力の渦がわきの下辺りで停滞したままになっている先生お2人の様子を見ながら、僕はフロルに問い掛けました。
あの行為が【圧縮】させる行為だなんて知りませんでしたし、【回転】させる行為も皆やっているものだとばかり思っていたけど…。
『やってないよ?僕が生まれてからまだあんまり経ってないけど、少なくとも学園内で魔法を放つ時に回転をかけているのはシエロくらいなものだよ?』
マジで?
『マジで』
僕の肩に止まっている為幾分分かりづらかったものの、フロルは頷きながら返事をしてくれた様です。
そっか…。
今まで当たり前にやっていたけど、まさか誰もやってないなんて、思ってもみなかった…。
ん?
あっ、動いた!
僕が悩んでいる間に、文字通り動きがありました。
暫く言うことをきかない自身の魔力に四苦八苦していた副担任の【マリア】先生でしたが、フと何かに閃いた様で、今まで難航していたのが嘘の様にスルスルと腕から手のひらまで魔力の渦を移動させる事に成功した様です。
「コルト君。つっ、次は…?」
しかし動いたとは言え、何とか動かせた!と言う感じで、生まれたての小鹿みたいにプルプルしていた先生の様子を見て、僕は慌てて次の指示を出します。
「はっ、はい。手のひらまで動きましたら―――」
この時、まだ担任教師の方が追い付いてはいませんでしたが、プルプルしている先生を放置する事も出来なかった為、先に手のひらから外へ集めた魔力を出してもらう事にしました。
僕も人様に教えるのは初めての事でしたし、もし先生がここで失敗して、手のひらのすぐ真下まで動かした魔力の渦が暴発でもしたら大変ですからね?
「手のひらから外へ出して頂くんですが…。そうですね、手のひらから、こう押し出す様にやってみると、やりやすいかもしれません」
「押し、出す様に、ですわね?」
ぐぐぐっと上肢に力を込めたのが傍目からも感じられる様になると、更に先生の体のプルプルも最高潮に達して、明日は筋肉痛間違いなし!と全僕が思った、その時でした。
《シュポンッ!》
と、コルク栓が抜けた様な軽い音と共に、手のひらから集めた魔力が勢いよく抜け出したのです。
僕のものよりやや小柄ながら、6~70cmくらいの雲――と言うよりはやっぱり綿飴みたいだな――が、シュルルルと軽やかに回りながらマリア先生の手のひらの上に…。
《わっ!》
そして、その様子を固唾を飲んで見守っていたよい子達からは喝采が上がり、あちらこちらから「先生やった!」とか「おめでとう!」等の祝福の声があがりました。
そんなよい子達にマリア先生が片手をあげてにこやかに応えている内に、丁度よく回転も収まり、先生の魔力雲が黄緑7:白3で構成されているのが分かる様になってきました。
するとよい子達の意識もそちらに移り、口々に隣の子達と感想を話し合い始めます。
こうなると、遅れている担任教師が少し可哀想に…。
《ボンッ!》
「っしゃ!出た!!」
お?どうやらこちらも上手く出来た様ですね?
此方はマリア先生よりも荒々しい感じで、担任教師――名前はゴンザ先生だそうです――の手のひらから飛び出しました。
大きさもマリア先生の物より少し大きく、8~90cmくらいで、夕陽に染まった雲よりも赤く、まるで本当に燃えているかの様な赤さです…。
「よっしゃ!俺も出たぜ!!」
《わっ!》
ゴンザ先生が魔力雲を高々と掲げる様に持ち上げると、屋外実習棟の中は割れんばかりの喝采に包まれました。
やがて喝采が静まってくると、今度は生徒達――勿論我らが6年A組の生徒も混ざっています――が口々に自分達もやってみたいと騒ぎ始めます。
その様子を見かねたランスロット先生は、先ずは落ち着く様にと生徒達を諭すと、僕、ランスロット先生、そして何故かコローレにも手伝わせながら、魔力雲の作り方・出し方のレクチャーをさせていきました。
そして――――
《カラララ~ン、カラララ~ン》
授業終了の鐘が鳴り響く頃には、屋外実習棟の中を色とりどりの魔力雲達が埋め尽くしていたのでした…。
「綺麗だなぁ…」
「そうだな…。でもよ?俺に風の素養があったのには驚いたよな?」
「本当にね?ブロンデも雷だけじゃなくて樹属性も持ってたって分かったし…」
僕もやってみるまで分からなかったのですが、この授業のお蔭でまだ発現していない、潜在的な魔法属性に気が付く事が出来たんです。
普通なら魔法属性はステータスカードに記載されるくらいまでレベルが上がらなければ分からないものだったのですが、【魔力雲】には、そのステータスカードに載らないレベルの魔法属性がハッキリと確認出来た。
これは今まで誰も発見していない様な画期的な魔法属性の確認方法だ!と、先生方――特に魔法オタクのランスロット先生が――狂喜乱舞して…今もしていますね…。
とにかく、今の僕が言える事は…。
またやらかしたな…orz
と言う事だけなのでした…。
久しぶりにやらかした~!
と思っているのは本人だけで、実はしょっちゅうやらかしているので、クラスメートは誰も動じていません(笑)
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。