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百七十三話目 続々々・コローレの眼鏡の日



「よしっ。型枠が出来上がったぞ?早速眼鏡用のガラス板をはめてみてくれ」


 師匠の手に掛かり、あっと言う間に理想通りのフレームが出来上がりました。


 出来上がったばかりの白銀色の綺麗なフレームに、僕はまだ何も手を加えていない、まっさらなガラス板をはめ込んで行きます。


 と言うのも、コローレは別に視力が悪い訳ではないので、とりあえずガラス板をはめてみて、形と顔のバランスを見たかったんです。


 それならフレームだけの状態でかけてもらっても良かったんですけど、何となく気分が出ないので…ねぇ?


「はい、はまったよ?コローレ、ちょっとかけてみて?」


「かしこまりました」


 コローレは僕の手から眼鏡を受け取ると、キチンとしたかけ方で眼鏡を着けてくれました。


 まぁ、コローレはクラレンス神父時代に眼鏡かけた事があるんですから、当たり前っちゃあ当たり前なんですがね…?



 それはまぁ置いておくとして、コローレが眼鏡をかけてくれたので、僕と師匠は不具合が無いかどうかのチェックをしていきます。


「うん。鼻あての部分は大丈夫だね…。あっ、師匠、右側の弦の部分が少し浮いているので直して頂けますか?」


「どら?おぉ、ここじゃな……。これでどうじゃ?」


「バッチリです!」


 2人がかりで調整を終えると、いよいよ眼鏡は(・)完成です。


「のう、シエロや?このガラス板には【度】っちゅーもんが入っとらん様に見えるが良いのか?」



 じゃあ次の段階に…。と思っていると、調整中に何度もレンズ部分にはめこまれたガラス板を覗き込んでいた師匠が、不思議そうに訊ねてきました。


 流石は師匠、視力や目の状態に応じてレンズの形を変える、と言う話しを覚えて居て下さった様ですね。


「はい。コローレは別に目が悪くて眼鏡を作って欲しいと言ってきた訳ではないので、これで良いんです」


「むぅ?では何の為に眼鏡なんぞ…?」


 心底不思議で、意味が分からないとガッツリ顔に書かれている師匠に、僕はコローレと食堂で話していた事を掻い摘んで説明する事にしました。


「竜の鱗で作られたこの眼鏡は、とても魔力の通りが良いですよね?」


「勿論じゃ。今の状態でも、そこいらに売られている下手な杖よりよっぽど効率良く魔力を通すわい。何なら通した魔力が倍増するぞ?」


 師匠が頷いてくれたのを確認し、僕は更に続けます。


 何か市販されてる杖<コローレの眼鏡みたいな事まで言ってますけど、ここはとりあえずスルーしておきましょう。


「その効果を使って、レンズの部分に魔道具を仕込めないかな?と、2人で話していたんです。」


「例えるならば、出現した魔物や調べたい植物の情報等を視覚化するですとか、肖像画撮影機をここに組み込むですとか、そう言った事は可能でしょうか?」


 僕とコローレがそう師匠に確認してみると、師匠はふむふむと時折声を洩らすだけで答えてはくれませんでした。


 どうやら、僕達の案が本当に実現可能なのかを考えて下さっている様です。



 あっ、そうそう。コローレと食堂で話していたのは、所謂ス○ウター的な魔道具を眼鏡の中に組み込めないかどうかと言うこと。


 スカ○ターが壊れただと!?


 は全少年の憧れ…。


 あっ、壊れたら駄目か…。


 まぁ、それは良いとして。


 もう一つは、クラレンス神父の時も使っていたカメラ付き眼鏡について。


 因みにカメラ付き眼鏡の方はコローレのアイデアで、よっぽど教会に置いてきてしまったのが悔しかったみたいなんです。


 そこまで気に入ってもらえると制作者冥利に尽きるけど、クラレンス神父が撮っていた写真の事を考えると、ちょっと複雑…。


「ふむん。お前さんらはまだ頭が柔らかいんじゃなぁ~?よくもまぁ、そう次から次に面白い事を思い付くもんじゃわい」


 もうランパートさんにもバレてるんだから、返してもらってくれば良いのに…。


 何て事を思い返していると、考えがまとまったのか、師匠が呆れた顔を此方に向けながら答えてくれました。


「して、可能なのでしょうか?」


 コローレが珍しく身を乗り出しながら師匠に問いかけると、師匠はニカッ!と自慢の白い歯を見せながらこう返します。


「あたぼうよ!ワシにかかれば朝飯前じゃわい!!」



 と。



――――――


「ルドルフさん。そちら右手側にレベル25のポイズンスネーク。続いてブロンデさんの正面、レベル30のロックヘッドリザード。ポイズンスネークは溶解毒に、ロックヘッドリザードは鋼の様に堅い頭にご注意を!」


「「了解!」」


 コローレの声がダンジョンの地下30階、密林エリアに響き渡ります。


 この階層にはジャングルの奥地に生えている様な、葉っぱの大きな植物や南国原産の果物のなる木等が数多く生い茂り、更にはここ特有の変わった能力を持つ魔物達が出現するエリアです。


 ルドルフとブロンデが戦っている2頭もその中の一部ですが、もっと面白いのは食虫植物が魔物化していたり、透明な体の山羊【スケープゴート】がいたりと、多彩な魔物が多い事。


「ルドルフさん。あと一撃で倒せますが、喉の辺りに魔力を感知しています。溶解毒にご注意を!」


「分かった!!」



 え?【スケープゴート】って身代わりとか生け贄って意味だろって?


 僕も詳しい事は分からないのですが、どうやら最初は【スケルトンゴート】って名前だったらしいんですよ。


 ただ、それだと骸骨の魔物のスケルトンの山羊バージョンとモロ被りするので、いつしか【スケープゴート】何て名前に変わったらしいんです。


「たぁっ!」


《ザシュッ》


《グォーン》


「ブロンデさん。お見事!ドロップアイテムは【石頭の盾】で御座います。これは丸くて軽く、そこそこ防御力の高い盾ですので、非力な女性かシエロ様にピッタリの防具ですね」



 そうそう、何で僕らがダンジョンにいるかと言うと…。


 もうお分かりかもしれませんが、コローレの新しい眼鏡の性能をチェックしに来たんです。


 で、2人がコローレの指示で一生懸命に戦っているのに、何故僕が戦闘に混ざらなかったのかと言うと…。



《メェ…。メェェ》


《ベェェ》


《メッ。メェ。メェ》


《メェェェ~》


《メッベェェ》


 さっきから、10数頭くらいのスケープゴートに囲まれていて、全く身動きが取れないからです。


 密林に山羊が大量発生しているのも可笑しな話しですが、唯一の救いはスケープゴートが大人しい種類の魔物だという事でしょうか…。


 あっ、因みにクレアさんは用事があるとかで最初から不参加の為、この場にはいません。


 でも良かった。ここにクレアさんがいたら巻き込んでしまう…。


《メェェェ。メェェ》


 あぁー!!


 姿が見えないからって、空間魔法を使って何処にどの個体がいるのかだけは何とか把握出来てるけど、姿も獣臭もないのにただ山羊の鳴き声だけ聞いてるのって地味に辛い~。


 山羊は僕の周りにみっしりと密集しているから、割とガチで動けないし、誰か助けて…。


「シエロ様、この眼鏡は素晴らしゅう御座います。この度は、私の為にご尽力頂き、誠に感謝申し上げます」


「あっ、そう?それは良かった…でさ?」


「シエロ、まだ透明山羊に囲まれてんの?アハハ、モテモテだな?」


 胸に手を当てながら恭しく礼のポーズを取るコローレの隣で、僕の姿を見てゲラゲラと笑うルドルフ…。


 ブロンデはそんな2人と僕を交互に見ながらオロオロしてくれているけど、何度山羊を散らそうとしてもすぐにワラワラと群がって来てしまうからキリがありません。


 しかも透明だから、ブロンデに一発雷属性魔法でドーンと倒してもらおうとしたら僕だけ感電して終わりな気がするし…。


 ん?


 あっ!そうじゃん!


 こんな時の為の眼鏡でしょ!?


 真面目な顔して礼を取ってるつもりかもしれないけど、肩が小刻みに揺れてるから笑ってるのはお見通しだからな!?


「ぷっ。失礼…」


「失礼だと思うなら、早く助けてよ!」


 僕の魂の叫びが、ジャングルエリアに虚しく木霊していた…。



 あっ、あの【石】の事、師匠に聞くの忘れてた…。






何気にスケープゴートは触っている感触だけはあるので、シエロはもふもふした透明の何かに圧迫されている、と言う実感だけは感じています(笑)


本日もここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。



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