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百七十二話目 続々・コローレの眼鏡の日



 庭で花の様子を観察していたと言う師匠に、僕とコローレは【飛竜の鱗】を見てもらいました。



「ほう。竜の鱗か…。こりゃまた珍しい物を持ってきたのう?」


 流石は師匠。関心している様子ではあったけれど、竜の鱗を持ち込まれても大して驚きもしていませんね?



 さて、飛竜さんからコローレが貰ったと言う鱗は、横が5cm、縦10cmの物が2枚。


 とても薄く、厚さはどちらも1mmあるかないかという代物です。


 こんなに薄い鱗でも、鉄の剣でいくら切りつけても傷1つつける事すら出来ないのですから、竜の鱗の丈夫さと言うのが良く分かって頂けると思います…。



「ふむぅ…」


 (ここ)では何だと言う事で、師匠の工房に場所を移した僕達は、感心した様に鱗の具合を見る師匠の様子を見つめていました。


「こんだけ状態が良ければ何にでも加工出来るわい。で?これは誰の持ち物なんじゃ?」



「私です。ゴードン様は、【何にでも加工出来る】とおっしゃいましたが、眼鏡の型枠に加工する事も可能でしょうか?」


 コローレが師匠にそう訊ねると、師匠はビックリした様な顔で返事を返しました。


「何?そんな物で良いのか?竜の鱗にしてはチト小さいが、これを粉にして金属と混ぜれば、武器や防具にしても最高品質の物が出来るんじゃぞ?」


 どうやら師匠の驚きとは【出来ない】加工方法と言う訳ではなく、【勿体無い】加工方法と言う意味だった様です。


 しかし、竜の鱗は粉にしても使い道があるのか…。


 まぁ、僕では粉にする事すら出来ないんですがね?


「私の戦闘スタイルは身軽さが信条ですので、金属鎧は身に着けたくありませんでした。ですので、鎧ではなくアクセサリー扱いの眼鏡で加工して頂きたく思いまして」


「なる程のう?じゃが、それなら何も眼鏡にこだわる必要は無い様にも感じられるんじゃが?」


「それは…」


 師匠に問いかけられたコローレは、少し考える素振りを見せた後でこう答えました。


「先程も申し上げましたが、私の一番の武器は身軽さに御座います。ですので、重心が変わってしまうアクセサリーも本来ならば身に着けたくは無いので御座います。その点、眼鏡ならば左右で重さが変わることは無いのでは?と思った次第です」


「ふむ。確かに身軽さが売りであれば、少しの重心の狂いが命取りになる事を恐れるのも分かるかのぅ…。相分かった、では、チト惜しいが眼鏡の型枠に加工してやろう。シエロは横で見学じゃ」


「はいっ!」


 暫く勿体無い、勿体無い、とブツブツ言っていた師匠でしたが、いざ加工作業が始まるとピタリと無駄口を叩く事を止め、凄い集中力で素材に向き合い始めます。


 師匠が口を開くのは僕に作業工程を教えてくれる時のみで、その後もほぼ無言で黙々と作業を続けていきました。


 竜種の鱗と言うのは、堅く強固なイメージしか持っていませんでしたが、その本質は【変幻自在に変化する】事にあるんだそうです。


 現に、僕の目の前でも飛竜さんの銀色の鱗は、まるで柔らかい練り飴の様にぐねぐねとこねくり回され、いつの間にか艶やかな乳白色の塊になっていました。


「まぁ、いくら素人が同じ様に加工しようとしたところで竜の鱗は答えてはくれんがな?」


 と言って豪快に師匠は笑い飛ばしていましたが、どうやら魔力の流れすら読み取れない様な者には加工すら出来ないと言いたい様です。


「次は、こうじゃ。良く見て覚えるんじゃぞ?」


「はいっ!」


 全ての素材には、木目などと同様に流れがあります。


 そして、流れとは木目以外に【魔力】の流れも含まれており、その魔力の流れに逆らわずに素材を加工する術を身に付けられた者の事をこの世界では【職人】と呼ぶのだと、師匠から教えられました。


 最近では、その魔力の流れを読む事の出来る職人さんが減っており、その事を師匠はいつも嘆いておられます…。


「シエロ、いよいよ眼鏡の型枠作りをしていくぞ?」


「はいっ!」


 そうこうしている間に、乳白色の練り飴の様だった元飛竜さんの鱗は、白銀色の光沢を放つ一枚の板状の形になっていました。


 鱗→練り飴→板…。


 これほど元の形が想像出来なくなる物を、僕は生まれてこの方見たことが無い気がするなぁ…。


「して、コローレや?作る眼鏡はどの様な形にしたいんじゃ?確か…ほれ、片眼鏡とか言うのもあるんじゃろう?」


「そうですねぇ…。シエロ様、私は眼鏡の型枠にどの様な種類があるのか存じ上げないのですが、私に合う型枠を選んで頂けないでしょうか?」


 元鱗の一枚板をツンツンつついて居たら、コローレから眼鏡のコーディネートを頼まれてしまいました、まる。


 って言うか、遊んでんなって話しですよね?



「ん~と…。そうだなぁ…」


 クラレンス神父だった頃はちょい丸顔だったから、四角く角張ってる黒縁のフレームにしたんだけど…。


 コローレはどっちかって言えば丸みを帯びた顔ではあるものの、小顔でややシャープな印象だからなぁ…。


「ん~。縁は細めで、天地幅も短めにして…。せっかく鱗の色が出て綺麗だから色もこのままにして…」


 口頭で新しい眼鏡の形を伝えるのは無理があった為、僕は鞄からノートを取り出してフレームの形を簡単にイラスト化する事で師匠に伝える事にしました。


 あっ、皆は少し丸みを帯びた金属製の細めの全フレーム眼鏡を想像してもらえば分かりやすいかな?


 色はそれこそ勿体無いから、素材の色そのままの白銀色で作ってもらえば、コローレの淡いスミレ色の髪の毛とも喧嘩しないと思うんですよね。


 白銀色って字面だけ見ると何だかギラギラしてそうだけど、そこまで下品な感じじゃなくて、どっちかって言うと灰色に近い白色。


 だから、そこまで縁の幅を太くしなければ浮かないとおもうんだけど…。


「どう?嫌だったらちゃんと言ってよね?」


 僕が書いた下手くそなイラストを見つめたまま、黙り込んでしまった2人の沈黙が怖くて、色々つらつらと考えてしまったけれど、いい加減何とか言って欲しいんですけど…。



「うん。良いんじゃねぇか?」


「えぇ。私、眼鏡と言うと、縁の太い物ばかりなのかと思っておりましたが、これは斬新で素晴らしいと思います」


 師匠がポツリと感想をこぼすと、それに追随する様にコローレも褒めてくれました。


 ちょっと褒め過ぎな気もするけど、確かに今まで僕が作ってきた眼鏡って言うと、縁が広めの物ばかりだったから斬新なデザインに感じるのかも…。


 縁が狭い眼鏡って言ったら、片眼鏡くらいしか作っていませんでしたしね?


「よしっ、コローレも気に入ったみたいだし、この形の型枠をちゃちゃっと作っちまうぞい?」


 そう言うと、師匠は板から半量くらいを千切り取って、僕の描いたイラスト通りの形に成形していきました。





練り飴みたいにこねてはいますが、食べられません(笑)


お読み頂き、ありがとうございました。



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