百六十九話目 続々々・遠足に浮かれた男が酷い目にあった日
「どうする?テレポートで戻る?」
これから律儀に歩いて戻っていてはお昼に間に合わない(切実)と思った僕は、僕のテレポートで集合場所の巨木のまで戻る?と皆に提案していました。
「獲物も無しに戻るのか?戻りながらちゃちゃっと何か狩ってこうぜ~?」
と渋るルドルフをさっくりと無視しつつ、じゃあそうするか。と話しがまとまりかけた時、僕の背中をクンクンと引っ張るものがありました。
「ん?」
感じた違和感に振り返ってみると、僕のローブの裾を口にくわえている飛竜さんの姿が…。
僕の身長の何倍もある――誰だ!何十倍の間違いだって笑ったのは!!ほっといてよ!?――飛竜さんが器用に長い首を折り曲げてまで僕の裾をクイクイ引っ張っている!?
本当に何なの?デッカい図体してるくせに、この可愛らしい生き物は!?
そんなつぶらな瞳で見つめられたら帰りたくなくなっちゃ「駄目ですよ。シエロ様」
だから、皆の前で僕の心読むの止めて!?
「シエロ様の場合、全部顔に出ていらっしゃるから大丈夫ですよ。それより、彼女は何か言いたい事があるようですよ?」
懇願する僕にシレッと返事を返したコローレは、続けて飛竜さんの話しを聞く様にと促してきました。
顔に出てるて…。
お前は僕を敬ってんだか貶してんだか…ブツブツ。
「ん~…。聞きたいのは山々だけどさ、僕竜語分からないよ?」
《クル…。ワタし、ちょとダケならはな、せるぉ?》
僕が飛竜さんの首を撫でてササクレた心を癒やしながらそう言うと、何処か凄く近い場所から可愛らしい声が聞こえてきました。
いや。これは聞こえたと言うより【頭の中に響いて来た】と言った方が正しいですかね?
それで?これは一体どこから…。
《クルル?》
ふと、僕のローブの裾を引っ張っている飛竜さんと目が合います。
良く見たらこの子睫毛長いな~…きゃわわ☆
じゃなくて!
「今のはもしかして飛竜さん、ですか?」
《クルル♪ソぉだぉ?わタしだぉ?》
僕が飛竜さんに問いかけると、可愛らしい声を響かせながら、彼女はそうだと答えてくれました。
「すげーな!?飛竜と話しが出来るなんて俺、思ってもみなかったぜ!」
《クル。おねぃチゃん達はモット上手ク話せるぉ?ワタシはまだちいちゃいからヘタクソだぉ?》
へぇ~、飛竜さんにはお姉さん達がいるんだねぇ~?じゃなくて!
「それでも素晴らしい事ですわ?だって、こんなにお上手なんですもの♪」
「うん、凄い!凄い!」
うん、凄いエラいよねぇ~?でもなくて!
《クルクル♪ほめらぇたぉ~!ウレしぃぉ☆》
「あの~、楽しそうなとこゴメンね?飛竜さんが僕達に何を言いたかったのか聞いても良いかな?」
僕は、皆と楽しそうに話している飛竜さんをいつまでもホッコリ見ていたいと言う気持ちをグッと抑え、僕達に何を話したかったのかを聞いてみる事にしました。
だって、このままだとお昼に間に合わなくなっちゃうでしょ!?
《クルル!ソうだったぉ!?みんなワたシの背中に乗っテ行けば早イぉ?って言いたかったにょ!》
思い出した!とばかりに大きく翼を広げながらそう提案してくれる飛竜さんでしたが…。
凄く有り難い申し出ではあるけど、いきなり飛竜が現れたら皆パニック起こしちゃいますよねぇ?
「マジで?すげーじゃん!シエロ!せっかくなんだしよ、送ってもらおうぜ?」
「お前は少し黙ってなさい!飛竜さん。スッゴく有り難いんだけどね?いきなり飛竜さんが現れたら、僕の他の仲間達がビックリしちゃうと思うんだ。だからね?今回は…」
《やっ!みんなせなかにのってくの!!》
考え無しなルドルフを一喝し、僕の思いをどうにか飛竜さんに伝えようとしますが、飛竜さんはそっぽを向いてしまって僕の話しを聞こうとしてくれません。
くっ、そんな仕草も可愛い…。
じゃなくて、せめて話しだけでも聞いてくれ~。
「シエロ様を困らせてはイケませんよ?また貴女に会いに来ますから…ね?良い子ですから聞き分けて下さい」
《クルル…》
困った僕を見かねたコローレが助け舟を出してくれ、漸く飛竜さんはこっちを向いてくれました。
さっきコローレに叱られた時以上に、しょんぼりと力無く首をだらんと垂らしながら小さく鳴く飛竜さんを見ていると、もう僕このまま此処に残っちゃおうかなって気持ちに「話がまたややこしくなるのでお止め下さい」
………。
はい。
うぅ、心が読める執事って厄介だなぁ…。
その後、何とかルドルフ以外の皆で飛竜さんを宥め、また皆で遊びに来ると言う事でどうにか納得してもらいました。
因みにルドルフは、話しがまとまりかける度に余計な一言を言って何度か台無しにしてくれたので、フロルの出してくれた蔓で体をグルグル巻きにしてそこら辺に放り投げてあります。
「じゃあ、またね?」
《クル、マたね?絶対まタだぉ?絶対また遊んデぉ?》
「うん、約束だよ?また皆で遊びに来るからね?」
「私。自慢ではありませんが、生まれてこのかた約束を違えた事はありませんのよ?」
「フフフ、また直ぐ会いに来ますよ」
「ムー!ムー!!」
テレポートをする為、皆には僕の何処かしらを掴んでもらいながら、飛竜さんに別れの挨拶をしています。
え?縛られたままのルドルフはどうするのかって?
僕がさっきからルドルフの上に座っているから何の問題もありません☆
「じゃあ、行くよ?《空間操作:転移》!」
《クルルル》
クルル、と寂しげな声で彼女がひと鳴きする声を聞きながら、僕はテレポートを発動させました。
一瞬の浮遊感ののち、見えていた景色が灰色一色の岩場から緑溢れる草原エリアへと移って…。
そして、僕達の前には大きな体をキラキラと銀色に輝かせる飛竜さんではなく、その飛竜さんよりもずっとずっと巨大で荘厳な姿を風になびかせる大きな大木が立っています。
「ふぅ、テレポート成功…。皆、もう動いて良いよ?」
「ふぅ…」
「はぁ~」
前よりもテレポートの練度が上がり、今では10人くらいなら一遍に運べるようになった僕ですが、やはり始めての場所からのテレポートは緊張するものがありますね?
僕の緊張感が皆にも伝わってしまった様で、動いて良いと許可を出した途端に座り込んだ皆をの姿を見ると、申し訳ない気持ちと共に、もっと訓練しなきゃなと強く思えてきます。
「は~い、戻ってきたパーティーのリーダーは此方まで報告に来てくださーい!他の生徒達はスクルド先生から昼食を受け取って各自食べて下さいねー!」
おっと、ランスロット先生が木の下で呼んでいますね?
「じゃあ、僕は報告してくるから、皆は先に食べてて?」
「あっ、じゃあシエロ君の分もスクルド先生から頂いておきますわ?」
そう言ってくれたクレアさんに【ありがとう】と返すと、僕は一路ランスロット先生の下へ駆け出しました。
ルドルフは最後までブツブツ言っていましたが、今回の僕らの任務は【下級生の為の下見】なので、別に一匹も獲物が捕れなかったと言っても罰則がある訳ではありません。
寧ろエリア全域を見て回る事が優先される為、僕らの他にも獲物0のパーティーはチラホラ見受けられます。
「B組の【天駆ける獅子】です。探索エリアは草原エリア3の左下側。出現した魔物は…」
僕が並ぶ列の前の方から風にのって、先生に報告している生徒の声が聞こえてきました。
あ~、そうだった報告するには――を言わないと行けなかったんでした…。
いやね?報告するだけなら何にも問題は無いんですよ?
ただ、僕達の【パーティー名】が、ね?
「C組の【魚の尻尾】ですニャ。探索エリアは河原エリア1の辺り全域。遭遇した魔物はラビッスのみでしたニャ。ラビッスは狩猟対象外ニャので、私達の班は獲物0ニャ」
「はい。報告ありがとうございました。では、ミケジャロさんもお昼にして下さいね?」
そうこうしている間に、僕の番が来てしまいました…。
《「そっか、学園でも組んだパーティーに好きな名前を付けて良いんだね?」》
裕翔さんの言葉が不意に頭の中で響き渡ります。
「ありがとうごニャいましたのニャ!お昼楽しみだニャ~」
《「ユート先生がつけてくれよ!本物の勇者様に付けてもらえたら、俺らのパーティー最強じゃね?」》
続けて、浮かれたルドルフの声も響いてきました。
「次の方は…。あぁ、シエロ君達のパーティーでしたか」
僕の前に居た、丸っきり二足歩行の猫!って感じのネコ族の女の子が列から離れ、ランスロット先生と僕との距離がひとつ分縮まりました。
《「良いのかい?じゃあねぇ…。あっ!良い名前を閃いたよ!?」》
裕翔さんの声が頭の中で響き渡る中で、僕はランスロット先生の顔を虚ろな目で見つめます。
「では、報告をお願いしますね?」
《「君達のパーティー名はねぇ?」》
「はい。A組の【桜餅】です。探索エリアは岩場エリア全域。出現した魔物はラビッスのみでしたので、獲物は0。その代わり、クラレンス神父のお友達の飛竜と遭遇しました――――」
そう、僕らのパーティーの名前は【桜餅】。
自分たちのパーティーの名前が【きなこもち】だから、最初は【あべかわもち】になりそうだったのを必死に止めたらこうなった。
せめて餅から離れてもらいたかったんですが、他のメンバー達に【桜餅】の語感が気に入ったと採用されてしまったんです。
まぁ、なっとうもちにならなかっただけ良いか。と考えながら、僕は納豆食べたいな~と思ったのでした。
納豆餅、美味しいですよね…。
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。