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百六十八話目 続々・遠足に浮かれた男が酷い目にあった日



 デジャヴを感じさせる登場をして、僕らの度肝を抜いてくれたのはコローレの友竜でした。


《クルル♪ルル♪ルルル♪》


「これ、くすぐったいですよ?お止めなさっ…。こ~れっ!」


 巨大な岩の丘の上で、コローレに顔をこすりつけながら嬉しそうに鳴く首の長い竜は、微笑ましいながら何とも言えない迫力が…。


 迫力が…。


《ブンッ》


「危ない!」


「うわぁ!?」


 慌てて僕とブロンデは、飛竜からバックステップを使い距離を取る。


《ズドンッ》


 すると数瞬前まで僕とブロンデが立っていた場所に、飛竜の太くて長い尻尾が重い音を立てて叩きつけられました。


 ビックリした~。


 まさか竜種がわんこ宜しく尻尾をブンブン振ってくるとは思わなかっ…。


「ブロンデ!」


「シエロぉ!!」


 僕とブロンデは、今まで自分達が立っていた場所の岩に亀裂が入っているのを見つけ、思わず抱き合ってしまいました。


 あんなに軽く尻尾を振っただけで、こんな堅そうな岩に亀裂が入るなんて…。


 僕は、顔から血の気が引いていくのを感じながら、流石は自然界の食物連鎖ピラミッドの頂点に立つ竜種なだけはあるなと、【飛竜さん】に対する恐怖心を再燃させながら、ひび割れた岩をブロンデと抱き合ったまま見つめていました。


 しかし。


「これ!嬉しいのは分かりますが、尻尾を無闇に振ってはいけません!!」


《クルル~》


 コローレに叱られ、尻尾も翼もしょんぼりと力無く垂れ下がってしまった飛竜さんからは、森の王者の風格は微塵も感じる事は出来ませんでした。


 何だろう。この、寧ろ守って上げたくなっちゃう様なこの感じは…?


「コローレ、僕達は無事だったんだから、そんなに叱らないであげて?」


「そうそう。尻尾の方にはなるべく寄らない様にするからさ?」


 ブロンデも同じ考えだった様で、僕と一緒に飛竜さんの首の方へ移動しながらコローレを宥めます。


 あっ、こらっ!ルドルフ、今僕達が危ない目にあったってのに、何で尻尾の方に行くの!?


「ですが…」


「誰だって間違いはあるさ。飛竜さんはコローレに会えて嬉しかっただけだもんね?」


《クルルル~》


 渋るコローレを横目に、僕がそう飛竜さんに笑いかけると、飛竜さんはとても嬉しそうに僕の顔をその長い舌でベロリと舐め上げました。


 うわっ!?


 今、口がクワッて開いたもんだから、一瞬食べられるかと思っちゃったよ…。


 口の中全部犬歯!みたいなあの鋭い歯列を見たら、やっぱりこの穏やかな飛竜さんも肉食なんだ、と言うのがよく分かります。


 ドキドキ…。


 飛竜の舌は薄い紫色をしていて、猫の舌みたいにザラザラしていて…。


 あっ、後、思ったより舐められたところは臭くなかったですよ!?


《クル♪》


 一瞬食べられちゃう!なんてビビったりもしたけど、こいつ人懐っこくて可愛いなぁ…☆


 楽しそうに目を細めながらクルクル鳴く飛竜さんは愛らしく、僕達を和ませてくれました。


「シエロ様がお優しいから許して頂けたのですからね?もしも人前に出る様な際は、もっと注意するんですよ?」


《クルルルルル》


 飛竜さんは今度は近くにいる僕達を巻き込まない様に、首をゆっくりと縦に振りました。


 どうやら、コローレに【分かった】と言っている様です。


 おぉ~、やっぱり竜種は頭が良いなぁ…。


 どっかの誰かさんとは大違い…。


「なぁ、コローレ。お前いつ飛竜と何て友達になったんだ?なぁ!」


「……。ルドルフさん…」


 その誰かさんは、コローレと飛竜さんが話しているのもお構いなし!とばかりに、しきりにコローレと飛竜さんの話しを強請っていました。


 お前は目を離した隙に何をしてんだよ…?



「ルドルフ。落ち着けって…」


 そんなにグイグイ攻め立てたら、いくらコローレでも答えられ…。


《クルルル!!》


「うわっ!?」


 あ~、遂に怒ったかな?


 しつこいルドルフに怒ったのか、飛竜さんはルドルフを口にくわえ、その長い首を高々と持ち上げて…。


「おわぁ~?」


 なんとそのまま上下にシェイクしたー!?


 飛竜さんは、己の長い首を巧みに使い、しなやかな動きでルドルフをブンブンと振り回しています!


 その威力は、離れている此方にまで圧のある風が吹き荒れる程です。


 その中心にいるルドルフは、言葉にならない声を発しながら上下左右に体を激しく揺さぶられて行って…。


「うぶっ!?」


 おぉっと!ルドルフの顔色が段々と土気色になってきたぞー!?


 大丈夫か?ルドルフ選手!!


「あわわっ!?飛竜さん!ルドルフが死んじゃう~!」


《クルクル?》


 それを見て、脳内実況しながらゲラゲラ笑っていた僕とは対称的に、ブロンデはアワアワしながら飛竜を止めようと近付いていきます。


 飛竜もブロンデが慌てた様子で駆け寄って来たのに気が付くと、今まで振り回していたルドルフを地面にそっと降ろしてくれました。


 ブロンデは本当に良い奴だなぁ~。


 え?僕は何で止めに行かないのかって?


 ルドルフがスライムに突っ込まなくなったら考えますよ☆



「さて、と。そろそろ時間もなくなりそうだし、飛竜さんとはどこで出会ったのか教えて?」


 飛竜さんから何とか解放されて、ヘロヘロとその場に崩れ落ちたルドルフをブロンデとクレアさんが介抱している様子を見ながら、僕はルドルフに変わってコローレに質問してみます。


「そうですねぇ。この方とお友達になったのは、元々はクラレンス神父様なのですが――」


 皆が聞いている為、コローレはそんな前置きを挿みながら、飛竜さんとの出会いの話しをしてくれました。


「イビルリザードが学園裏の山に出現した際の追加捜索でクラレンス神父とブラザー・ランパート…。今は神父様になっておいでなのですが、その方とお2人で山を散策なさっていた時に出会われたんだそうで――」



 コローレはそんな風に、飛竜さんの事を男の子だと思っていたら女の子だった事、何度もシュトアネールの街の外れにある山に遊びに来てくれたと言う事を身ぶり手ぶりを交えながら教えてくれました。


「へぇ~、やっぱりクラレンス神父って人はすげー人だったんだな?」


 クレアさんに回復魔法をかけてもらってすっかり復活したルドルフは、全く懲りた様子もなく、飛竜さんの翼をツンツンと触りながらヘラヘラしています。


 本当にコイツのこの懲りない根性だけは見習いたいですね。


 僕なら、あんなにシェイクされたら心が折れる…。



《ぷぷぷ ぷぷぷ ぷぷぷ》



 あっ、ランスロット先生からの着信…。


 どうやら飛竜さんと遊ぶのに夢中になっている間に思ったより時間が経っていた様で、僕達はひと狩りする事なく、獲物0のままで戻る事になりそうです…。






意外と容赦ない飛竜さんでした。


本日も此処までお読み頂きまして、ありがとうございました。

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