百六十七話目 続・遠足に浮かれた男が酷い目にあった日
「コローレ?どうかした?」
僕の身長クラスの巨石が――誰だ!小石の間違いだろ?何て言ったのは!――ゴロゴロしている岩場エリアを進んでいる途中、コローレが何度も明後日の方角を睨み付ける様に見つめているのに気が付きました。
何事かと不思議に思った僕は、直接コローレに聞いてみる事に…。
「いえ、どうやら私の気のせいだった様です。それよりシエロ様、そろそろお話しになっていたポイントに到着致しますが如何なさいますか?」
「そう?なら良いんだけど…。」
しかし、そんな彼から返ってきたのは否定の言葉でした。
コローレが気のせいかな?なんて言うのは珍しい事でしたが、彼が何でもないと言うのなら本当に問題は無いのでしょう。
僕はそれ以上気にする事を止め、とりあえず辺りが見回せる所まで移動してから考えよう?と皆に提案しました。
「俺はそれで良いぜ?」
「僕も~」
「私も賛成致しますわ?」
「シエロ様の御心のままに…」
若干1名。気持ちの悪い言い方をしている奴の事は放って置くとして、僕達は目の前に見えている小高い丘――と言うか、もしかしてあれは1枚の岩?――まで移動する事にしました。
此処では岩に阻まれて、殆ど見渡す事が出来ませんからね?
そうして丘の上に移動すると、僕はすぐに辺りをぐるりと見回してみました。
岩場エリア一帯は少し粉っぽい風が吹いていましたが、概ね視界は良好。
今まで通ってきた岩の影なんかにも魔物の気配はポツポツ感じられていたけど、どれも雑魚…、と言うかラビッスの気配ばかりでした。
なので、ここからならどうかな?と見回してはみたものの、結果はラビッスを数匹見つけただけに終わりました…。
「ん~、めぼしい魔物はこの辺りには居なさそうだね…?」
僕がそう結果を告げると、ルドルフが
「んじゃあ、もう少し近くを探したら移動してみるとすっか?」
と提案してくれたので、そうだね。と僕もルドルフに返事を返し、もう少しだけ辺りを伺う事にしました。
ん~、偶には丁寧に見てみるか…。
と、いつもは自動的に発動している空間把握魔法を、敢えて任意で発動してみる。
おぉ?
凄い凄い!草の影に潜んでる小さな虫の位置まで把握出来るぞ!?
あっ、でも駄目だ…。
入ってくる情報量が多すぎて、僕の脳みそじゃ処理できない。
おぇっ、気持ち悪~。
「その方が良さそうですわね?私のミスですわ。皆さん申し訳ありません…」
「皆賛成したんだから、シャーロットさんが悪いんじゃないよ~?」
吐き気を堪えながら、なんとか空間把握魔法をOFFに。
OFFにした途端に視界が開け、激しい目眩や吐き気が収まっていきました。
あ~、気持ち悪かった…。
どうやら、いつもは脳に負荷がかからない様に自動的に入ってくる情報をセーブしてくれてたみたいですね?
僕の能力のくせに、何て優秀なんだ…。
「そうそう、クレアさんは何にも悪くないですよ?強いて言うなら、この岩場エリアが異様なだけです。それに、今回は狩る事が目的ではなく、危険はないか見て回るって方が主な目的ですからね?」
目眩は収まったものの、未だにクラクラする頭を振って誤魔化しながら、僕はしょんぼりしてしまったクレアさんを慰めました。
これだけ見てみたのに、小さな虫やラビッスはあんなに居るくせに他の大型の生き物が全然いないんだもんなぁ。
コローレもさっきから何処か落ち着きが無いし、やっぱりこの場所は何かあるとしか思えないけど…?
「やっぱりここは呪われた場所なのかな?」
「ラビッスが普通に暮らしてるんだから、呪われてるって事はないんじゃないかな?」
怖がりなブロンデは顔を真っ青にしながら、僕にぴっとりとくっついて来ました。
このパーティーには感覚が鋭い獣人とハーフ獣人が居るはずなのに、何でどいつもこいつも野生の勘が働かないんだろうか…と少し物思いに耽ってみる。
いや?もしかしてブロンデは働いてるからこそ、ここまで怖がってるのかな?
だとしたら、本当にこの場所は呪われて…。
あぁ、でもそれだとコローレが何も反応しない訳ないしなぁ?
「ん~。ん?」
悩みながら空を見上げた僕の目に、何やら翼を羽ばたかせている生物が映りました。
しかも、それは段々と此方に近付いて来る様な…?
えっ?デジャヴ?
そうこうしている間にも、その生物の姿は大きくなって行って…。
「皆、逃げろーー!!」
僕の声に反応した4人は、まるで示し合わせたかの様にバラバラに散って行きました。
《バサッバサッ、ズズーン》
若干逃げるのが遅れた僕も、影が落ちた場所から滑り込みセーフで何とか離れる事に成功し、鈍重い音を上げながら着地した生き物の方を見やります。
岩をその重みで砕きながら着地したのは…。
その生き物とは…。
「飛竜…?」
僕が必死に離れた位置からおよそ数m先に、陽光に照らされた銀色の鱗をキラキラと輝かせながら、厳かに己の翼を広げた飛竜が立っていたのです。
その瞳には知性の色が宿り、長い首をもたげ、白目の無い真っ青な瞳をパチパチと何度か瞬かせながら、此方の様子を伺っている様にも見えました。
しかし僕は、そんな風に神秘的な感じで僕の目の前に立っている竜のあまり存在感に圧倒され、緊張と恐怖心から喉がヒリつき、声が上手く出せなくなっていました。
パクパクと餌待ちの鯉の様に、何度も口を開けては閉じるを繰り返す。
《クルル…?》
そんな僕を見ながら、飛竜は困ったかの様に小さく鳴きました。
「おや?誰かと思ったら貴方でしたか」
《クルルルルル》
困ったかの様な飛竜のその鳴き声に、真っ先に反応したのはまさかのコローレさんだった。
「ぉしりぁぃで?」
何とか搾り出した僕の声は、恥ずかしいくらいカッスカスに枯れていました。
「シエロ様、そんなに緊張されずとも…。彼女は私の友達です」
「ぉともだち?」
そう言いながら差し出された水筒を受け取ると、僕はコローレに促されるまま、その中身を一気に飲み干した。
あっ、これ、ランスロット先生お気に入りの緑茶だ…。
僕がそう感じたのは、中身を殆ど飲み干した後でした。
もっと味わって飲めば良かったな~。
そんな事を考えられる余裕が生まれる程、魔法瓶のお陰でキンキンに冷やされたお茶は喉の渇きだけでなく、僕の頭まで冷やしてくれました。
「ふぅ、コローレごちそうさま。ごめん、全部飲んじゃった」
「フフフ、ご安心下さい。元々シエロ様の為にご用意させて頂いた物ですから…」
空になってしまった水筒を返しながら謝ると、コローレは何故か嬉しそうに笑います。
マジっすか?
どんだけこの人執事力高いの?
「シエロ!無事か~!?」
あっ、ルドルフ達の事忘れてた。
「大丈夫~。この人(飛竜)コローレの友達だって~」
「はぁ~?」
「えぇ~!?」
「なんですってぇ~!?」
慌てて声をかけると、皆が潜んでいるであろう岩影から、面白いくらいの疑問系の叫びが聞こえてきました。
そして、その様子を見ていた飛竜は、楽しそうに
《クルル♪》
と鳴いたのでした。
この飛竜さんは某ブ○ーアイズホ○イトド○ゴンのトゲトゲ無しバージョンを想像しながら書いています(笑)
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。