百六十五話目 何で僕んち?の日
一流の執事になって参ります。
そう言い残して学園から姿を消したコローレは、なんと僕の実家で執事修行をしていました。
あ~。余り驚き過ぎて頭痛くなって来た…。
「ねぇ、何だって僕んちを選んだのさ?」
ランスロット先生が来てしまった為、一旦休み時間になるまで保留にしていた質問を、僕はコローレにぶつけました。
すると、コローレはお得意のアルカイックな微笑みを浮かべながら答えます。
「色々な方にお伺いしたところ、シエロ様のお宅にお仕えしているバトラー様がこの国で一番優秀だと言うお話しでしたので、それならばとシエロ様のご自宅に伺わせていただいた次第です」
いやいやいやいや。
うちのバトラーさん(36歳)は確かに優秀だけどさ、流石に国一番の執事って事は…。
僕がそう反論すると、コローレにしては珍しく青ざめた顔で
「シエロ様はバトラー様の本質をご存知ないから、その様な事が簡単に仰れるのです」
と意味深な発言をした。
あれ?コローレ何か震えてない…?
バトラーさんとは僕の父さんの幼なじみで、小さな頃から将来はコルト家に仕えると約束してくれていたヒューマン族の男性です。
いつも父さんの斜め左後ろに静かに控えていて、父さんが何かバトラーさんに用事を頼もうと振り返ると既に欲しい物が用意されていたりと、何かとパーフェクトなうちの執事長さんで…。
あれ?考え直してみたら、うちの執事長さん完璧だったな…。
「えぇ。その働きぶりから、王国一の執事だと詠われ、国王からも王城に仕えぬか?とお誘いを受けた事もおありだとか…」
さっきまでガクブルしてたくせに平常運転で僕の心の中を読んでくるコローレの事はスルーしつつ、僕は疑問に思った事をそのまま聞いてみる事にしました。
「バトラーさん、自分の話しなんか一切してくれないから知らなかった…。あれ?王様に誘われたのにバトラーさんまだ家に居るよね?」
「えぇ、国王からのお誘いはお断りになったそうですから」
ごく自然な感じでサラ~ッと言うもんだから、うっかり僕まで流しそうになっちゃったけど、それはサラッと流して良い台詞では無い気がするんだけど…。
「国王御自らお許しあそばしたのですから、宜しいのではないでしょうか?」
「そう言うもの?」
「そう言うものです」
何だか1年見ない間にコローレの悟り度合いが随分上がった様な気がしますが、コルト家に仕えてくれている人達は皆何処かおかし…ゲフンゲフン。
皆優秀過ぎて、興味がバトラーさんに辿り着く前にこの学園に入学してしまったからなぁ…。
そう考えると、僕はバトラーさんの事あんまり知らないのかもしれません。
するとコローレは、浮かべていた微笑みの度合いを強めながら遠くを見…もとい、教室の窓から見える時計台の方を見てこう言いました。
「シエロ様、この世界には知らなくて良い事もあるのです。さっ、そろそろ次の授業のお支度をなさった方が宜しいかと…」
「あっ、うん。ありがとうコローレ」
もうそんな時間だったかと少し焦りながら机の中を漁る。
えっと、次は…。
「次の授業は選択授業で御座います。シエロ様は特別教室棟2階の薬学教室が本日の実習場所になります」
「あっ、はい」
今回の件で、バトラーさんの事にも興味が湧いたのですが…。
それ以上にコローレがこの1年で磨いた執事力がヤバすぎて、僕の側近オーラが爆発している事の方が気になるんですけど!?
「シエロ様、今年度から私も魔法薬学・薬草学を選択させて頂きましたので、私もご一緒させて頂きます」
コローレは、僕が机の中から教科書やノート、筆記用具なんかを出す端からヒョイヒョイ自分の懐に抱えると、恭しくお辞儀をしながら片手を教室の扉の方へ誘う様にスッと伸ばした。
「あっ、はい。宜しくお願いします…」
では参りましょうと言うコローレの前を歩きながら、僕は思いました。
どうしよう。
このコローレ、スッゴい疲れる!!
と…。
――――――
お願いだから、せめて戦闘の時は普通にして!?
と、コローレに泣きついてから数時間が経過しました。
今僕達は遠足前最後の自主トレと、コローレの戦闘力を見る事を兼ねて、学園内ダンジョンの低階層で肩慣らしをしています。
僕らが今いる地下6階は弱いけど群れで襲って来る魔物が多い為、肩慣らしには丁度良いと上級生達から人気の高いスポットなんです。
因みに地下5階から10階までのエリアは洞窟エリアと呼ばれ、蝙蝠やトカゲ系の魔物が良く出て来るのも特徴の1つですね。
「アイシクルランス!」
クレアさんが放った鋭利な氷の礫が、此方に向けて突進してきていたリトルリザードの首に深々と突き刺さる。
《ギョワーー!?》
リトルリザードが断末魔の声を上げながら泡になって消えていく横で、仲間が倒された事に怒ったパイルバット――サンダーボルト等の雷属性の魔法を放ってくる蝙蝠の魔物――がクレアさんに体当たりを仕掛けてきた。
「おっと!行かせないよ?たぁ!!」
そこへ雷属性持ちで耐性を持ったブロンデが、自身の手甲に付いた鍵爪を使ってパイルバットの体を一線!
《!?》
体を三枚に卸されたパイルバットは、声を上げることも出来ずに泡となって消えて行きました。
「ふぅ、これでお終いかな?」
「ちょっと待ってね?……。うん、暫くは大丈夫みたい」
手甲についた汚れを振り払いながらひと息吐いたブロンデに問題がない事を告げながら、僕は倒したリトルリザードやパイルバット達が落としたアイテムを拾い集めていました。
あっ、そうそう。
ダンジョン内で倒した敵は、一部例外を除いて泡になって消えていくんです。
その際、稀にこうしてアイテムやお金を落としていくので、余りお金を得る方法が無い学生達の良いお金稼ぎにもなっています。
《「これがもし学園の外にあるダンジョンなら、倒した魔物の情報がステータスカードにも載っかるから、もっと楽に金が稼げるのになぁ?」》
とは、A組の馬鹿代表アーノルドの言葉です。
あいつは腕っぷしだけなら学年1位の強さなのですが、如何せん馬鹿なので、なかなか成績が上がらない残念な奴です。
あっ、因みに今倒したリトルリザードは【下っ端の牙】、パイルバットは【悪魔の翼】と言うアイテムを落としていきました。
これは魔道具を作る上で、結構役に立つ素材アイテムだったりするので、僕は笑いが止まりません☆
「流石に6階程度では肩慣らしにもなりませんね?シエロ様、そろそろ下の階に向かいませんか?」
僕がホクホク顔でアイテムを拾っていると、コローレがそんな提案をして来ました。
「あ~、そうだね。でもその前に…」
「な~?俺の事忘れてねぇ?誰でも良いから下ろしてくれよ~」
戦闘開始の段階で罠にハマって、天井からぶら下げられてしまったルドルフを何とかしないとね?
1つため息をもらしながら天井を見ると、ロープが片足に引っかかって逆さ吊り状態になったルドルフがブラブラと揺れていました。
「何の為に立派な剣を持ってるのさ?それでロープ切って、下りてくれば良いだろ?」
「あ~、その手があったか…。頭に血が上ってて、考えもつかなかったぜ~」
こいつ大丈夫かな?
とは思ったものの、人の制止も聞かずに魔物――獲物はまたもやスライムでした――に突っ込んで行って、勝手に罠にハマて、勝手に宙吊りになったんだから、放って置く事にしました。
さぁて、次は何階辺りに行ってみる~?
僕のオススメは【悪魔の瞳】を落としてくれる、3つ目の蝙蝠【サーナイト・バット】がいる地下68階かな~☆
サーナイト・バットが落とす【悪魔の瞳】は、闇属性の人工魔石を作る際に水晶の代わりに使うアイテムです!
シエロからしてみたら、質のよいアイテムが手に入りやすいダンジョンの中は文字通り宝の山で御座います☆
本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。