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百六十三話目 怪我をさせたのは誰?な日



 マイケル君が指差した先には誰もいませんでした…。



 あれ?


 これはもしかして、逃げられた?



「大丈夫ッスよ、シエロ部長☆部室内でオイタした奴はあっしがしっかり捕まえてるッスから!」



 マイケル君と僕、そしてルマンドさんが慌て始めた時、スミスさんの声が部室内に高らかと響き渡りました。


「そっ、その声は!?」


「この声は、まさかスミス副部長!」


「一体どこから声が!?」


「フフフ、あっしは此処ッス!」


「「「あぁ!そんな所に!!」」」



 魔道具研究会では、此処までがデフォとなっています☆


 って言うか、毎回毎回スミスさんの姿は丸見えなんですけどね?


 今回彼女は扉の前でバーンと仁王立ちを決めながら、腰に手を当てふんぞり返った状態で立っていました。


 あっ、見学者の子達と、スミスさんが呼んできてくれたアテナ先生、それと宇美彦が一連のこの寸劇にポカンとしちゃってる…。


 スクルド先生はいつもの様に諦めの境地の笑顔を浮かべて…、あれ?スクルド先生いらっしゃったんですか?


 って!いかんいかん、このままだとまた【魔道具研究会は変態の集まりだ!】みたいに思われてしまう!?


 それだけは避けなくては!!


 僕は、何処からか聞こえてきた「もう手遅れだ」と言う言葉を無視しながら、スミスさんに訪ねました。


「それで?スミスさん、この一連の騒ぎを起こした方はどちらに?」


「逃げようとしていた所にあっしらが入って来て鉢合わせしたんスよ。で、驚いてアタフタしていたのをそのまま【お仕置き君4号】のアームで捕まえておいたッス☆」


 彼女が指差した先を見ると、確かにスミスさんの横に並んで立っているデッカいマジックハンドに足が生えたみたいな自立型魔道具、お仕置き君4号の腕の中に、しっかりと誰かが捕まっていました。


 因みにこの【お仕置き君4号】ですが、最初は侵入者を捕まえる為だけに開発された拘束型魔道具だった物を、スミスさんが魔改造してこの形にした代物。


 今では改良に改良を重ね、捕まえた相手を軽い電気ショックで痺れさせる機能も搭載され、更に暴れる相手にはあの手この手の嫌がら…拷も…ゲフンゲフンお仕置きをしてくれるという大変便利な機能も搭載されているのです。



 とまぁ、お仕置き君4号の説明はひとまず置いといて、4号に捕まっているこの子は一体どちら様なんでしょうか?


 何か4号のマジックハンドにガッチリ拘束されながら、もの凄く不機嫌そうな顔をしてますけど…?


 そんな彼は、部長と呼ばれた僕を見るなり


「こっ、こんな事を私にした事、すぐに後悔するぞ!?私の父上に言って、お前らなどすぐ退学させてやるからな!!」



 と、どこかで見た様な馬面を(いなな)かせながら、凄く頭の悪そうな発言をした…。



 はい?


 今何て言った?


「えーと…。君が何を勘違いしてるんだか知らないけれど、学園内では皆平等だよ?親の位は此処では通用しないって、先生から教わらなかったのかい?」


 呆れながら僕がそう言うと、彼はヒヒンと嘲笑うかの様に笑った後にこう言い放ちました。


「そんなものは所詮建て前さ、一歩社会に出れば権力や位が全て!平民は私達貴族に媚びへつらっていれば良いのさ!!」



 あっ、何だろう…。


 反省してるなら2人を仲直りさせて、ハイお終い☆ってやるつもりだったけど、思いっきり絞め殺したくなってきた…。


「シエロ部長、こんな事言ってるけどどうするッスか?お仕置きしとくッス?」


「いえ、スミス副部長、ここは僕に任せて下さい…。失礼ですが、貴方【様】のお名前は?」


 どうしてもお仕置き君4号のスイッチを押したくて仕方が無いスミスさんを宥め、僕は敢えて下手(したて)に出る事にしました。


 僕らの周り――特に見学に来た下級生達――からは、ハラハラした空気が漂ってくる。


 そんな周囲の空気と、僕の態度を見て気を良くしたのか、馬面君はヒヒーンと再度嘶きながら偉そうに名乗りを上げました。


「フンッ、初めからそう言う態度を取っておけば良いのさ!私はキャロデン・ホース男爵家が三男、シュロッテ・ホース!さぁ、平民共、私に跪くが良い!!」


 未だお仕置き君4号の腕の中にいて、自分では身動き取れないくせに素晴らしいドヤ顔を披露しながら言い切った、えっとシュ○ック君には敬意を評したいところではあるけれど…。


「何だ、ホースって事は君、ラディン・ホースの弟か?」


「なっ!?言うに事欠いて私の敬愛する兄様を呼び捨てだと?貴様、もう許さん!絶対に貴様を退学にしてやるからな!!」


 やっぱりか…。


 はぁ…、何でこの兄弟は思い込みが激しいんだろうか?


 一度で良いから親の顔を殴ってみたいよ…。


 僕は、ため息を吐きながらステータスカードを取り出すと、通信機能を呼び出し、通話ボタンをタップした。



「ハイハイ…。《プルルル、プッ》あっ!ラディン?」


 未だにヒヒンヒヒン騒いでいるシュレ○クを軽くいなしながらラディンがカードに出てくれるのを待つ。


 すると


《シエロ様、会員番号1069番ラディン・ホースで御座います。何か私めに御用が御座いましたでしょうか?》


 何やら嬉しそうな声が聞こえてきた。


 毎回言ってくるその会員番号って何なんだよ…。


 一瞬ラディンの明るすぎる挨拶にげんなりしかけたものの、根性で気を取り直した僕はありったけの不満をラディンにぶつけました。


「お前の弟がさ、旧時代の馬鹿げた思想を振りかざしながら、僕の研究会に遊びに来てくれた子に怪我をさせた挙げ句、暴言吐きまくりなんだけど?お前、弟にどういう教育してる訳?」


《なっ!?なんですと?シュロッテがその様に失礼な事をシエロ様に!??すぐに其方へ向かわせて頂きます!!》


《ピッ!!》


 あっ、切れた…。



《ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ…バンッ!》


「シエロ様、大変お待たせ致しました!シュロッテェ、貴様ぁ!我らがシエロ様に対する数々の無礼働き、許されると思うてかぁ…」


「兄様?良かった、見て下さい。平民からこの様な仕打ちを…。兄様?」



 速っ!!


 今通信切れたばっかりだから、僕は少しも待ってないんですけど!?


 ってか今の足音的に、こいつ絶対四足歩行でダッシュして来ただろ?


 いつもは二足歩行以外するのはプライドが許さないからと、スッゴい嫌がるくせに…。


「其処へなおれぇ!貴様は己が何をしたのか、分かっているのかぁ!?」


 そして、ラディンはそのままの勢いでお仕置き君4号に捕まったままのシュロッテを説教し始めました。



 なおるも何も、お前の弟ガッチリ拘束されてるから動けないよ?


 と暫く傍観していたのですが、最初は喧嘩腰で兄のラディンに言い返してたシュロッテも、兄の余りの剣幕に言葉を失っている様です。


「そら…、シエロ。俺には状況がさっぱり飲み込めないんだけど…。あれは誰?、そして何者?」


「あれは捕まっている生徒のお兄さん。五月蠅いけど、慣れれば気の良い奴だよ?」


「いや、そう言う事を聞いてるんじゃなくてだな…?」



「シエロ様!」


 僕と宇美彦がヒソヒソ話していると、ラディンが声をかけてきました。


 声のした方を向くと、ラディンの後ろにお仕置き君4号に捕まっていたはずのシュロッテが、ラディンの持つ荒縄でグルグル巻きに縛られた姿にされているのが見えました…。


 何でそうなった?


 って言うか、その荒縄どこから出した?


「シエロ様、この度は私めの愚弟が大変ご迷惑をお掛けいたしました。両親に成り代わり、謝罪させて頂きます」


「あ~、謝るなら僕じゃなくてこの子にしくれないかな?何とか治せたけど、酷い怪我だったんだ」


 荒縄を握り締めたまま僕に謝りだしたラディンを制し、さっきまで泣いていたせいで目の周りが赤くなってしまった少年を僕達の近くに呼び寄せながら、僕はラディンにそう頼みました。


 いきなり前に出された少年は少し緊張気味な様子でしたが、


「楽しい部活動見学をしていた場所で、怖い思いをさせてすまなかったね?弟に代わって謝ります。申し訳もない事を致しました」


「ぼっ、僕こそ、本物の魔石に興奮して立ち上がっちゃって…。ごめんなさい!」


 ラディンが彼の目線に立って心から謝罪をした事で、すっかり恐怖心からくる緊張からは解放された様です。


 更には自分も悪かったと言ってシュロッテに向かい謝っていました。


 うんうん、あの魔石本物じゃないんだけど、ひとまずこれで解決かな?


 と思ったのですが…。


「フンッ、最初から自分の非を認めれば良いのだ!平民のくせに」


 と荒縄で縛られたまま、シュロッテは少年を睨みつけました。


 うわ~、やっぱりコイツ殴りて~。


「貴様!この期に及んでまだその様な…。恥を知れ!!すまないね?コイツの事は放っておいて構わないから」


「兄様!!何故その様に平民に媚びへつらうのですか!?平民など、我々貴族の為に馬車馬の如く働かせておけば良いのです!」


 うわ~、何だコイツ~。


 怒りの余り、つい手が出そうになった時でした。


「何をお祖父様から吹き込まれたのかは知らんが、良くもその様な…。スタンショック!」


《バリッ》


「うっ!?」


 うわぁ、今火花散ったぞ?


 痛そ~。


 額に青筋を立てたラディンの手により、あっという間にシュロッテの意識は刈り取られていました。


 因みにスタンショックはスタンガンくらいの威力があるショック魔法で、雷か風の属性を持ってる人なら比較的覚えやすい魔法の1つです。


「そのまま暫く寝ておれ!シエロ様、度々お騒がせして面目次第も御座いませぬ…。この愚弟は私がしっかりと躾し直します故…」


「あ~、うん。宜しくね?」



 皆がポカーンとする中、ラディンは皆に向かって1つお辞儀をすると、そのまま気絶したシュロッテをズルズルと引きずりながら部室から出て行きました。


《パタン》


 しっかしあのシュロッテとか言う弟、あそこまで行くといっそ清々しい物があるな…。


 ラディンは静かに扉を閉めてく程、真面目で律儀な奴なのになぁ…。


「はぁ~、貴族は大変だな~?」


 と、此処まで成り行きを見守っていた宇美彦がため息を漏らしました。


 って言うかコイツ、基本空気でしたね?


「勇者一行だって似た様なもんだろ?貴族への挨拶回りとか、根回しとかさ?」


「俺ら、そう言う面目臭いのは裕翔に丸投げだかんな☆」



 うわっ!?素晴らしい笑顔で何という事を…。


 あ~、裕翔さんの苦労が偲ばれるなぁ…。




 こうして、ラディンのおかげで何とか事件は解決?したのですが…。


 後日。


「シエロ様、先日は大変なご迷惑、騒ぎ等を仕出かしまして、誠に申し訳御座いませんでした!先程、B組のヨグルン・タブロにも謝罪の弁を伝え、許しを得てきたところに御座います。私は兄、そしてシエロ様のお陰を持ちまして、すっかり改心致しました。先日までとはこの目に写る景色までが輝き、変わって見えます。この度は本当に申し訳ありませんでした。私はこれから会員番号8028番として、日々精進させて頂く所存に御座います」


 と、キラキラした目を輝かせながら挨拶に来たシュロッテを見て、余りの変わりように思わずドン引いてしまったのは仕方が無いと思う…。


 あっ、ヨグルンはシュロッテが怪我をさせてしまったあの少年の名前だと、シュロッテが教えてくれました。



 そして、何故か会員番号とやらがシュロッテにも付けられ、それがラディンよりも明らかに多い数字になっていたのも気にはなりましたが、僕は敢えてスルーしたのでした…。


 だってそんな得体の知れない秘密組織みたいなのには関わりたく無いじゃないですか!?


 僕悪くない!!





すっかり洗の…躾られたシュロッテでした。


そして、出す気のなかった馬面、デブ、猫の3馬鹿の1人がまさかの再登場です(笑)


本日も此処までお読み頂き、ありがとうございました。



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