百六十二話目 怪我をしたのは誰?な日
3月9日の更新です。
今回更新分には、怪我をした人の描写が少しですが登場致します。
苦手な方はお気をつけ下さい。
本日も宜しくお願い致します。
部活動見学をしに来てくれた生徒が怪我をしました!
そんな連絡をマイケル君からもらった僕は、心良く付いて来てくれた宇美彦と共に、部室の前までテレポートして駆けつけました。
「怪我人は?どういう状況だい?」
部室の扉の前に出た僕はすぐさまその扉を開き、光魔法の【殺菌・消毒】を使って両手を殺菌しながら部屋の中にいるであろう部員達に訊ねます。
「あっ!シエロ部長!!こっちだわさ!!」
「実物の魔石を見せながら説明していたら、前列の子を後列の子が勢い良く突き飛ばしたんです」
部室の中には部員と見学者が入り混じっていましたが、僕の声に気付いた部員②のルマンドさんが僕に手を振りながら呼び寄せ、部員①のマイケル君が事情を簡単に説明してくれました。
そしてその2人の間を見ると、2人に支えられる様にして座っている、左腕の手首と肘の間と右足の太ももに魔石が突き刺さった少年が居たのです。
思いっきり転んだのでしょう、魔石は彼の足や腕に半分以上めり込んでいました。
「痛い、痛いよぉ~」
彼は2人に支えられながらわんわん泣いていましたが、泣けるのは意識がハッキリしている証拠です。
何より幸いだったのは、あまりにも魔石が彼の体にピッタリと食い込んでいた為、出血が最低限に抑えられた事でしょうか。
「大丈夫、すぐに治して上げますからね?」
「ヒッ、ヒック…。うん…」
泣きながらも彼は、素直に僕に返事をしてくれました。
うん、これなら大丈夫そうだ。
とは言ったものの…。
此処まで綺麗に刺さっていると、下手に抜いて魔石が体の中で砕けた場合悲惨な事になりますし、砕けなくても抜いた瞬間に凄い勢いで出血する場合もあります。
えっと、取り敢えず…。
「《情報解析:診察!》あ~…。やっぱり罅が入ってるな…」
「ひび?グスッ…」
「うん。でも骨じゃ無いから安心してね?罅が入ってるのは魔石の方だから。ん~、でもこのままじゃ引っこ抜けないなぁ…。出血も心配だし…」
診察してみた結果、魔石には小さな罅が幾重にもわたって入っていました。
どうやら刺さった時に骨に当たって入った罅の様ですが…。
ん~、どうしようかな…?
さっきも言ったけど、このままだと無闇に引き抜く事が出来ないし、出血も心配…。
え~っと…。
「宙…。シエロ。お前は光系と水系、どちらの回復魔法を使うんだ?」
悩んでいると、今まで黙って様子を見ていた宇美彦が声をかけてきました。
「え…?僕は光系です、が?」
思わず敬語になりながら答えると宇美彦は、
「なら大丈夫だ。お前が魔石を引き抜いたら、俺がこの子の血が噴き出して来ない様に食い止めるから、その間に回復魔法をかければ良い」
と更に返してきました。
???
えっと、待って。
どういう事?
僕が光系だって言ったら、宇美彦は「なら大丈夫だ」って言ったんだから、宇美彦は水系って事だよね?
あぁ、そう言えばさっき見せてもらった偽のステータスカードにも水属性持ちだって記載があったな…。
と言う事は…。
どういう事?
「えっと…。要は俺が血液を水として動かしてこの子の出血を食い止める。だからシエロは上手いことやって魔石を引っこ抜いて、治療をすれば良いって事だ」
なっ、なる程…。
肝心な所は僕に丸投げだって言う事は分かった。
「じゃあ、宇美彦が合図して下さい。それに合わせて何とか砕かずに魔石を引き抜いてみせますから」
「分かった。じゃあそれでやってみよう。先ずは腕からだな」
「分かりました」
「じゃあ君は、この葉っぱを噛んでごらん?痛みが和らぐからな?」
「痛くなくなる?」
僕が準備を始めると、宇美彦は怪我をした少年に不思議な色の葉っぱを手渡しました。
「おう!痛くなくなるってのは保証する。その代わり結構苦いけど、少し我慢してくれな?」
「うん、我慢する…。えいっ!」
あっ、食べた…。
ん~、宇美彦が彼に渡した薬草も気になるけど、それは後で聞くとしよう…。
えっと、出血は宇美彦がどうにかしてくれるみたいだから僕は先ず、魔石を砕かずに引き抜く事だけを考えれば良いんだよね?
とは言え罅が入った魔石を、患部から砕かずに引き抜くにはどうしたら良いんだ?
やってみせる!何て大口叩いたくせに何も思いつかないぞ~?
えーっと、えーっと、どうしようかな…。
「あっ、お兄さん凄い!痛くなくなってきた!!」
「おっ?よしっ!んじゃあ行くぞ?せーの!」
うわわっ!ちょっと待って!?
「えっとえっと…。《空間操作:凝固・対象魔石》うりゃ!」
咄嗟に空間魔法を使った事が上手いこと功を奏した様で、魔石は砕ける事なく、彼の腕から引き抜く事が出来ました。
宇美彦の薬草のお陰か、彼は魔石を引き抜いてもケロッとしています。
すげーな、薬草…。
おっと、そんな事考えてる場合じゃありませんね?
慌てて傷口を見ると、患部にはポッカリと穴が開いていたものの、血は噴き出す事なくプルプルとゼリーの様に固まっていました。
何だかこの前食べたゼリースライムを思い出させるプルプル感です。
「うっし、タイミングバッチリ☆んじゃあ、このまま回復魔法をかけてくれ。お前が魔法を発動したのを見届けたら俺も魔法を解除するから」
「了解!でもその前に《情報解析:診察》うん、砕けた魔石が体に残っていたりはしてないね…。では、《光魔法:消毒。光回復・小》」
僕は宇美彦に指示されるままに回復魔法を患部にかけて行きました。
すると、逆再生動画を見ているかの様に、見る見るうちに傷口が修復されて行きます。
う~ん、いつ見てもこの光景は慣れないなぁ…。
水系の回復魔法と光系の回復魔法の違いは、水系が傷口の自己治癒能力を促すのに対して、光系は傷を負う前に戻す、元に戻すという能力なんです。
だから、傷を負った人が自分の傷を負う前の姿を頭の中に思い描けている内は、【死んでさえいなければ治せる】んだそうです。
まぁ、全部アテナ先生からの受け売りなんですがね?
「おぉ~、流石だな~?んじゃあ次は足だ!」
「了解!」
――――――
「もう痛くない!先輩、お兄さん。ありがとうございました!!」
治ったばかりの足や腕をさすりながら、嬉しそうに御礼を言う少年。
そんな少年の笑顔を見て、宇美彦も嬉しそうに笑っています。
「いやいや、お前さんが頑張ったからだろ?良く耐えたな?偉かったぞ?」
「にゃはは♪」
さて、子供好きな宇美彦に彼を任せ、僕は彼をこんな目に合わせた生徒のお説教と行きますか。
素直に謝れる子なら良いんですけどねぇ…。
僕はマイケル君に向かい、事情を聞く事にしました。
「マイケル君。何でこんな事になったのか、詳しく教えてくれますか?」
「あっ、はい。実は、見学に来てくれた皆に魔道具の説明をする為に、動力源となる魔石を見てもらっていた時でした…」
話しによると、魔石にウッカリでも魔力を通してしまうと危ない為、スミスさんとマイケル君は作業机の上に色々な属性の魔石――自然に出来た魔石は高いので、人工魔石を見せていたそうだ――を並べて見てもらっていたんだそうです。
しかし、その時偶々後ろになった生徒が
「私の前に立つな!平民!!」
とか何だとか喚いて前の方で見ていた生徒を突き飛ばしたらしいんです…。
ハッキリ言って、まだそんな旧態依然とした奴らが居るのかと唖然としましたが、一体どんな奴がそんな事を言ってるのか気になったので、その生徒はどこいるのかとマイケル君に聞いてみました。
すると、
「はい部長、彼はあそこに…あれ?」
マイケル君が指差した先には誰もいませんでした。
犯人逃亡か!
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。