百六十話目 ウミヒコ・モリノの話しを聞いた日
僕に会いたいと言う裕翔さんの仲間とは、行方不明になっていたはずの僕の幼なじみでした。
こっちにいるなら、いくら向こうで探しても見つからない訳だ!
と思う反面、僕の記憶にある姿よりも少し日に焼けて、筋肉もついて逞しくなった様に見える幼なじみの姿に、此方の世界で苦労したんだろうな…とそんな事ばかり考えてしまう僕です。
「何か此処だけ拓けてんだな…。此処はどういう目的で使われる場所なんだい?」
「此処は第二修練場です。第一修練場は何か人気が出ちゃって賑やかなので、人気の無い此方までご案内致しました」
これが亜栖実さんなら、「僕をこんな人気の無い場所に連れ込んでどうする気!?」とかってふざけ出すんだろうな~(笑)
あっ、そうそう。
元々寮の裏手には第三修練場まであるらしいんですけど、屋外実習棟が出来てからは誰も使わなくなって、僕が使い出すまでは第一修練場以外の2ヶ所は荒れ放題だったんですよ?
因みに、兄さんとエルドレッドさんが時々使っていたから、第一修練場だけは辛うじて整備されていたんだそうな。
後から兄さんにその事を聞いて、兄弟揃ってそんな人気の無い所で何やってるんだろうね?って笑い合ったのは良い思い出です(笑)
「へぇ~、流石は王国一の学園なだけはあるな…。こんな風に木を切り拓くだけでも大変だったろうに…」
何か変な所で感心してるみたいだけど、クレイとフロル、それにブリーズにも手伝ってもらいながら2時間くらいの突貫工事で整備した――って言っても木を根っこから引っこ抜いて端っこの方に積み上げた――だけだから、あんまりじっくり見ないで欲しい…。
「そんな事より、此処なら殆ど知られていない場所ですから、どんな話しでも気軽に出来ますよ?」
「おっ?おぉ…。そうなんだ?じゃあ女の子をこき使っちゃうみたいで悪いんだけど、シエロって奴を此処まで呼んできてくれないかな?君より年上の少年だそうなんだけど…」
お前まで女の子扱いすんのかよ…orz
しかも今、サラッとチビ扱いまでしたよな!?
えっ?此処まで僕が事情を説明しなかったから悪いのか?
あんな大量に人がいるところで話せって方が可笑しいから、わざわざこんな所まで連れ出してきたのに…?
せめて察せよ!?
道中それとなくアピールしてたのが、全部無駄になったじゃねーか!
お前、親より長い事僕と一緒にいただろうがよ!!?
「あれ?どうした?どこか具合でも悪いのか?」
「《空間操作:遮音!!》誰が女の子かーーー!!!」
急に大声を出した僕にビックリした様子の宇美彦を余所に、空間魔法まで使って叫んだ僕は、スッゴくスッキリしていました(笑)
あ~、あれだね?
ストレスが溜まったら大きな声を出すに限りますよね?
テヘッ☆
「あ~、スッキリした。あんまり頭キてウッカリ修練場全体に遮音かけちゃった(笑)でもまぁ、丁度良いからこのまま話そうぜ?久しぶり、森野宇美彦」
「なっ!その小賢しい感じは…。お前が宙太だったのか?だったら始めからそう言えば…。いや、結構校門の前に人がいたからな…それは無理か」
誰が小賢しいんじゃい!?
と心の中でツッコミを入れながらも、1人で勝手に自己完結する宇美彦に思わず笑いが込み上げてくる。
そうそう、コイツは自分で言った事に自分でツッコミを入れて、1人で納得しちゃう奴だったっけ…。
「その癖直ってないのな?」
「生まれもった物はそう簡単には直せないもんだろ?しっかし、お前可愛くなったな~?昔のお前も女の子みたいだったけど、今はモロ女の子じゃねぇか。しかも極上の美少女?」
笑いながら何言ってくれてんだコイツ!?
誰が美少女だコラァ!
自分で言うならいざ知らず、他人に言われるとカッチーンとくるんだぞぉ!?(泣)
「あはははは、悪い悪い。いや~、久しぶりにこんなに笑ったわ♪最近は気を張り詰めっぱなしだったからなぁ…」
「なぁ、裕翔さんから聞いたんだけどさ…。今まで魔族領に居たんだろ?大丈夫だったのか?」
笑顔だった宇美彦の顔に、うっすらと陰が落ちる。
積み上げた丸太の1つに腰掛けながら、僕は宇美彦からの返答を待った。
【張り詰めっぱなし】だったって事は、今の魔族領では平穏な暮らしが送れないと言う事なのだろう。
しかし、宇美彦から返ってきたのは以外な返事だった。
「ん~?いや、意外とそこまで王国内と変わらないんだぜ?ヒューマンも普通に暮らしてるしな?ただ、魔王軍がそこかしこに配備されてるし、街に入るにも門番の許可がいるから、下手な動きは取りにくいってだけさ」
宇美彦によると、魔族領の中は比較的長閑な雰囲気が漂っているらしい。
しかし、その裏で急に姿を消す者が後を断たないのも事実な様で…。
やっぱり、今代の魔王は未だに3つ以上の魔法属性を持った者達を呼び寄せたり浚ったりしているって事だよな?
「宇美彦も亜栖実さんと同じくらい魔法属性は持ってるんだろ?よく魔王軍に見つからなかったな?」
「そりゃあ隠してるからな?」
隠してる?
どうやって?
「ん」
僕が首を傾げていると、宇美彦は一枚のステータスカードを取り出しました。
何々?
―――
スカイ・フォレスター
性別:男
年齢:21
level:39
種族:ヒューマン族
魔法属性:水
所属・パーティー:シライシ屋
スキル:魔力操作(Lv.38)、水操作(Lv.37)、ヒューマン言語(Lv.5)
加護:
呪い:
魔力量:A
体力値:5000/5000
魔力値:1500/1500
―――
「……。誰の?」
「俺の」
いや、何でドヤ顔してんの?
それにさ…。
「スカイさんって誰よ?って言うか全体的に能力値低くね?」
「学園に通ってない奴は、大体皆このくらいらしいぜ?外から言わせりゃ、この学園に通ってる奴らが皆おかしいんだと…。んで、魔王軍はステータスカードの情報を頼りに勧誘したり浚ったりしているらしいんで、けっこうこんな簡単な方法でもバレないんだ」
へぇ~、意外と魔王軍穴だらけだな…(笑)
あ~、学園って言えば、ブロンデも最初から学園に来る気じゃなかったみたいな話ししてたし、コローレも急に魔力値が上がったから急遽転入してきたって【設定】だったっけ…。
ん~、やっぱりこの学園って凄いのかも?
「で?スカイさんって誰?まさか森野だからフォレスターってか?」
「あっ、分かった?ウケんだろ?裕翔が真面目な顔して考えたんだぜ?特に名前の方なんて、俺はウミヒコだからもっと安直にオーシャン的な感じでくるのかと思ったら、宇美彦の【宇】は空って意味だ!とか言い出してさ~?」
裕翔さん…(泣)
まぁ、パーティー名を【きなこもち】にしてる人がつけたにしては良い方なのか?
……駄目だ分からん!!
「んじゃあ、この【シライシ屋】ってのは?裕翔さんがつけたにしては度直球過ぎる気がするんだけど?」
「あぁ、そっちは亜栖実がつけた(笑)因みにシライシ屋ってのは、俺達がやってる薬屋の名前な?」
「薬屋?」
「そう。俺達、魔族領で生活する為の隠れ蓑に【薬師】やってるんだよ。ほら、薬師が森の中入ってウロウロしてても目立たないだろ?」
あ~、なる程なぁ…。
確かにそれなら少しくらい遅くなっても採取に手間取っちゃって~☆とか言って門番を騙せもするのか…。
まぁ、それでも多少は動きに制限がかけられるだろうし、完全な免罪符にはならないだろうけど…。
「それより聞いたぜ?お前、こっちでもナンパされてんだって?しかも男から…ぷっ!」
宇美彦はそこまで言った時点で自分の台詞にツボって続けられなくなっていた。
こう言う場合、僕はコイツを絞め殺しても良いのだろうか…?
正当防衛は適応されますかね?
どうなんですかねぇ?
幼なじみ大笑い回(笑)でした。
本日もここまでお読み頂き、ありがとうございます。