百五十八話目 やって来るのは誰?の日
フルスターリとその親衛隊の皆さんと別れ、更に特別教室棟の前で他のパーティーメンバーと別れた僕は、歩き慣れた道を通って【魔道具研究会】の部室兼スクルド先生の自室の扉を開いた。
「あっ、部長お帰りなさい!何かめぼしい材料は手に入りましたか?」
「やぁマイケル君、ただいま。今日は特に何も手に入らなかったよ…。その代わりゼリースライムの肉が手に入ったけど、おやつに食べ――」
「お茶を入れて参ります!」
「あっ、うん…」
僕が異空間リング内の保管庫から取り出した、カラフルな【ゼリースライムの肉】に嬉々として反応したこのマイケル少年は、何とあのマルクル先輩の弟さんで、今年4年生に上がったばかり。
うちのフルスターリは今年3年生なので、学年も違うしそこまで接点はなさそうなんだけど、時々ラウンジとかで2人が話している姿を見かけるんですよね…。
こう言っちゃあ何なんですけど、甘いものと魔道具に目がないオタッキーなマイケル君と、うちの1人○塚な妹様のどこに気が合う要素があったのかが謎過ぎる…。
「ゼリースライムを仕留めて来たって?うわっ!どんだけ取ってきたんだ!?」
お茶を嬉しそうに淹れるマイケル君を見ながらそんな事を考えていると、部屋の奥から顔を出したスクルド先生がテーブルいっぱいに並べられたゼリースライムを見て驚愕+ドン引きしていた。
えっ?どんだけって…。
いっぱい?(笑)
「すぐしまってしまわないと、ダンジョンに吸収されて消えてしまいますからね?魔導袋等に入れてとっておけば、非常食替わりになりますし…」
それに、ダンジョン内の魔物はいくら乱獲しても数時間経てばまた出現するから、ゼリースライムを見つけたら取りあえず狩るのが僕らのお約束になっているんです(笑)
「そうは言うが、いくらなんでもコレは…。ところでシエロ、ブドウ味は取ってきたか?」
「えぇ、此方にありますよ…」
そうそう、今回僕が倒して根こそぎ(笑)回収してきたこの【ゼリースライム】と言う魔物は、赤青黄…など様々な色を個体ごとに持った珍しい種類なんですよ?
しかも色ごとに味も食感も変わる為、一部のマニアからは絶大な人気を誇る魔物と言われています。
とは言えルドルフは【ゼリースライムの群れがいたから突っ込んだ】、と言う訳では無く、ただ【動くスライムの群れがいたから突っ込んだ】と言う、訳の分からない理由でスライムの群れに突っ走って行くので質が悪いと言うか、何と言うか…。
まぁ、おやつに暫く困らなくなった(笑)と言うことで手を打ちますかね?
「じゃあブドウ味のスライムを切り分けますね?マイケルく~ん?君は何味にする~?」
「僕は青リンゴ味でお願いしまーす!」
青リンゴ味とか渋いな…。
まぁ、捕まえた中にいるけどさ…。
――――――
「は~。お腹いっぱいです…。シエロ部長!御馳走様でした!!」
「はい、お粗末様。他の皆は今日は用事があって来られないって言うから、今度は皆居る時にスライムパーティーしようね?」
「はいっ!」
身長はあっさり抜かされちゃったけど、マイケル君は本当に素直で可愛いなぁ☆
あんまり素直過ぎて、マルクル先輩からマイケル君を紹介された時は、他の先輩方と一緒に驚いたっけ(笑)
「そうだ、シエロ…。君の妹君は部活、どこに入るって?」
「あ~、まだ悩んでいるみたいです。騎士道精神が学べる騎士部――妖しいお店じゃないよ?――か、この魔道具研究会かで悩んでいるようで…」
シルヴィアさんみたいに本気で女性騎士を目指してる訳じゃないみたいだけど、騎士の修行に興味があるからって言ってたっけ…。
そして、こっちには僕がいるって言うのもあるんですけど、小さい頃から僕が作った魔道具を弄くり倒して遊んでいたから、魔道具の基本的な構造を熟知しているし、新しい魔道具を作ってみたいって願望もあるんだそうで…。
部活の話しが解禁になった頃からずっと悩んでいるのを知ってるから、何とか助けてあげたいけどコレばっかりは僕が助けてあげられる話しでもなくて―――。
「何だよ、そこは部長として部員の勧誘をして来ないといけないだろうが…」
「いやいやいや、いくらなんでも本気で悩んでいる人捕まえて勧誘もクソもないですよ!」
第一、部員は足りてるでしょうに…。
定員5~6人くらいのこの部屋で、10人前後の部員が毎日わちゃわちゃしてるんだから、これ以上増やそうとしないで下さいよ!?
《ムッムッムッ、ムームー》
僕とスクルド先生がそんな感じで冗談半分に言い争っていると、誰かから通信が入った。
慌てて3人ともステータスカードを確認してみると、どうやら通信が入ったのは僕の様です。
「いい加減、バラバラの通信音にしませんか?せっかく10種類作ったのに、皆一緒じゃ紛らわしくて…」
「そうだな…。後で設定を変えるか…」
「え~?僕はシエロ部長と同じ音が良いです…」
はいはい、懐いてくれてありがとう。
《ピッ》
「はい、シエロで…。もしもし、裕翔さんですか?」
若干雑音が入っていて聞き取り辛いものの、通信してきたのはチームきなこもちのリーダー、白石裕翔さんでした。
《急に―ザザザ―ごめんね?実は、俺達のパーティーメンバーの1人が―ザザ―君に会いたいらしくてさ…》
「いえ、大丈夫ですよ?裕翔さんが【パーティーメンバー】と言うって事は、亜栖実さんではないんですね?」
《うん。別の奴だよ?》
そりゃそうか、亜栖実さんと別れたのが大体半月くらい前。
そんなすぐに、僕に会いたい!何て言う訳ないし、亜栖実さんはそんなタマじゃない(笑)
《明日は確か入学―ザザザ―だったよね?―ザ―明後日の放課後辺りに着くように出て行ったから、悪いけど宜しくね?》
「えぇ、分かりました。それで、どんな方がいらっしゃるかだけお伺いしても宜しいですか?」
僕がカード越しに裕翔さんにそう聞くと、裕翔さんは笑いながらこう言いました。
《ごめんごめん、相手の名前も言ってなかったね?―ザザザ―ヒコって言うんだ。気のいい奴だから、仲良くしてやって?》
ザザザヒコ?
「すいません、もう一度お願い出来ますか?何かノイズが酷くて…」
《何か―ザザ―ここ通信が通りにくいみたいで、ごめんね?もう一度言うよ?―ザザザ―ウミヒコって言うんだ》
辛うじて【ウミヒコ】ってところだけは聞き取れたな…。
あれ?ウミヒコ?
まさか、森野宇美彦?
いやいやいや、いくらなんでもそんな訳ないか…。
「ありがとうございます。ウミヒコさんですね?それでは明後日、校門までお迎えに上がります」
《忙しいところごめんね?頼むよ》
「いえ、裕翔さん達に比べたら暇を持て余している様な物ですから(笑)」
《ありがとう。じゃあ明後日の放課後辺りに着くから》
「はい、了解です。それでは…」
《ピッ》
軽い電子音が鳴り、通信が終了した事を告げた。
「ユート君は何だって?誰か来る様な話しをしていたみたいだが…?」
僕と裕翔さんが話している時からソワソワしていたスクルド先生が、通信を切った途端に質問してきます。
裕翔さんから通信が来ると、スクルド先生はいつもこうなるんですよね~?
興味なさげなポーズ取ってるけど、実はこの人凄いミーハー何です(笑)
「あ~。そうみたいです。何か裕翔さんと同じパーティーの方だそうなんですが、僕に会いたいと言って下さったみたいで」
「何で今頃何ですかね?シエロ部長に会いたかったなら、アスミ先生が居た時の方が良さそうですけど…?」
あ~…。
確かに言われてみればそうだよな~。
何だろう?
まぁ明後日になってから、直接聞いてみれば分かりますよね?
ウミヒコさん、か…。
亜栖実さんみたいに、討伐ランクAAな馬鹿でかい鳥とかに変身して来る様な変人じゃない事を切に願うよ…。
さぁ、シエロに会いに来る人とは一体何者なのでしょうか(シレッ)
此処までお読み頂き、ありがとうございました。