百五十四話目 フロルの異変の日
前回のあらすじ。
何で魔石の中にお花が咲いてんの?
フロルがいつも寝床に使っている魔石の中に、チューリップみたいな花弁の淡いピンク色をした花が咲いていた。
これって、フロルが産まれた時に咲いたのと同じ花、だよね…?
「フロル?フロル~?」
フロルが魔石の中に花を咲かせるなんて初めてだったから、本人にどうしたのかを聞いてみようと思って声を掛ける。
「フロル?」
けど、いくら声を掛けてもフロルから応答は無かった。
「先生!フロルが返事をしてくれません!?」
こんな事、初めてだ…。
いつもなら、フロル~?って呼ぼうと魔石を覗き込んだ瞬間に《『なんでしゅか~?』》って出て来てくれるのに…。
どうしよう?病気だったらどうしよう?
今日は朝から2人とも、僕の用事でスプラウトさんの所に行ってもらっているから、今から呼び戻しても、どうしたって戻ってくるまでのタイムラグが…。
でも、呼び戻さずにはいられなかった。
早く戻ってきて!
フロルがっっ!?
僕は心の中で、【2人】の妖精を呼び続けた。
「シエロ君、落ち着いて下さい。アイレには何か心当たりがある様ですよ?」
狼狽えまくる僕を宥める様に、先生は穏やかな声でアイレさんの話しを聞くようにと言ってくれた。
「アイレさんが…?」
『私も元は妖精ちゃんだったからね~♪これにも覚えがあるわ☆』
大丈夫よ♪と、付け加えながらのアイレさんの言葉に、少し気持ちが落ち着く。
アイレさんは、そのまま魔石を持ったままの僕の両手に着地すると、魔石の様子を確認する様に魔石の周りをぐるぐると回りだした。
ちょっとアイレさんの歩いてる足の感覚が、こしょこしょとこそばゆいけど、何とか耐える。
「アイレさん、どう、ですか?」
「アイレ、何か分かりましたか?」
僕と先生がほぼ同時に同じ質問をした所で、アイレさんは僕達の方を見ながらにっこり笑ってこう言った。
『シエロ君おめでとう♪フロル君が青年期になるわよ?』
はっ?
思いがけない言葉に、思考が止まる。
えっと…、まず【青年期】ってなんぞや?
「シエロ君、妖精は精霊になるまでに2度変化を起こすんですよ。1度目は産まれる時、これを我々は【幼年期】と呼んでいます。そして、次の段階が【青年期】です。今のブリーズさんやクレイさんが青年期にあたりますね」
僕の頭の中が【?】でいっぱいになっていると、すかさずランスロット先生が補足説明をしてくれた。
え?
って事はつまり、フロルがブリーズ達みたいな大きさになるって事?
『そうそう。私達は【幼年期】→【青年期】→【精霊期】→【大精霊期】って成長していく過程で、その都度長めの眠りにつくのよ☆とは言っても、ふつー、幼年期の時から人族と一緒に暮らす子何ていないから、中々知られてないんだけどね~♪』
「確かに、妖精に【幼年期】なる時期がある事は、妖精と契約している者でも知っている方が少ないでしょうね?私はアイレから聞いていたので知識としてはありましたが、こうして目の当たりにする日が来るとは思ってもいませんでしたから…」
そっか…。
普通の妖精はブリーズ達くらいになる――青年期って言ったっけ?――まで、お母さんの下を離れないのか…。
スパーク…もといカグツチ君だって、人里に下りてきたのは兄さんが産まれた時だって言ってたもんね?
それに、ちびっ子から目を離すお母さんがいない様に、妖精達もある程度大きくなるまでは…ってのが精霊の間にもあるのかもしれない。
でもフロルは僕の目の前で産まれてて、言うなれば僕がフロルのお母さんだからその現場に立ち会えたって事なのかな?
ん~…、何か感動的だね?
「ところでアイレさん。この状態になった妖精はどれくらいで出て来るもの何ですか?」
『え~?まずフロル君が幼年期から青年期に移行するまでの期間が極端に短い子だからなぁ~…』
えっ?
『ん?だってふつーは青年期になるのにだって、10数年かかるのよ?それをフロル君は1年と半分くらいでしょ?ちょっとあたしじゃ想像が出来ないわね~』
イカン、ちょっと目眩がしてきた…。
10何年かかるものが1年半って…。
フロル君や、君はマセてるにも程がありゃしないかい?
「アイレ、では普通の妖精ならどのくらいの期間眠っているものなんです?そこから簡単な憶測くらいなら出来るんじゃありませんか?」
『ふつーの妖精ねぇ…。ん~短くて3ヶ月から6ヶ月?んで、長くて10年くらいかな~?』
何その幅の広さ!?
3ヶ月から10年って何!??
ほらっ!先生もポカンとしてんじゃん!!
『だって、こればっかりはね~?個人差ってやつだからね~?シエロ君の魔力を送り続けてたら少しは早く起きるんじゃない?ガンバって!!』
はっ、ははは…。
マジか…。
『あら、本当に寝てるわね?』
『いくら何でも早すぎんべげんじょ…』
「まぁシエロ君が日夜愛情タップリにお育てあそばせているのですから、少々の成長の速さは予想の範疇ではありませんか?」
「うわっ!?」
僕は急に部屋の中に登場人物が増えた事で、思わず悲鳴じみた大声をあげてしまった。
びっくりした~。
何で皆此処に?
『え?貴方私達を呼んだでしょ?』
『フロルが~!!何て泣き声さ聞こえたら、そら飛んでくんべした~?』
「あんなに大きな声で呼ばれたのは初めてでしたので、亜栖実さんに断って駆けつけて参りました」
いや、確かに2人の事は呼んだけどさ…?
「おや?私は不要でしたか?」
「いやっ!?そんな事はないよ?ただ、僕は君と契約を結んだ訳じゃ…って!ここ先生の部屋だよ?マズいんじゃ…?」
余りにもコローレがしょぼくれたので、慌ててフォローしてみたのは良いけどさ…。
ランスロット先生は彼が元神父のクラレンスで、元々光の精霊だって言う事を知らないはずで…。
「シエロ君、コローレ君と【契約】と言うのは?それに、私の部屋だとマズい、と言うのはどういう事でしょうか?」
ほらー!?
ってアレ?
これ、もしかして僕のせいだったりするのかな?




