百五十三話目 攻防戦を繰り広げた日
マドラさんを使ったイペットに襲撃されてから3日が経った。
理事長に引き渡されてからのイペットの消息は未だに不明のままで、ルイスさんには――本当に皆から丸投げされた――ランスロット先生からそれとなく事情を説明されたみたいだったけど…。
僕が見る限りは、普段通りの元気で明るいルイスさんに見えた。
ルイスさんについては色々と相談したい事とかあったんだけど、事情を知ってる亜栖実さんもコローレも、王都周辺に他の魔族が潜伏していないかを調べていて、あの事件の後はなかなか彼らと話す時間も取れずに、まして本人に話すと言う選択肢も取れないまま、僕は1人部室で物作りをしていた。
いや、1人って言っても先輩方は居るし、部活に来るのは凄い楽しいんだけどね?
僕だけこんなに楽してて良いのかな?なんて思うと、何か少しでも役に立ちそうな魔道具を作らなくちゃ!と脅迫観念に駆られるというか、何というか…。
「シエロ君、そこはネジ穴じゃないよ?君は一体何がしたいんだい?」
「えっ?あっ!あれ?すいません」
うわ~、マルクル先輩に指摘されるまで全然気が付かなかった(汗)
って!?何これ、魔道具ですらないじゃん!?
僕は何故か円柱の形をした木の切れ端に、黙々と小さなネジをねじ込みまくっていたらしい…orz
円柱のてっぺんには、見てるだけで正気度がゴリゴリ削られそうなくらいの量のネジがビッシリと刺さっていた。
「うっわっ、気持ち悪~」
「シエロ君、今日はずっとボ~っとしてて元気がないのです。何かあったですか?」
そうイド先輩は優しく慰めてくれたけど、流石に魔王軍関連の話しをする訳にもいかず、僕は曖昧に笑って誤魔化す事しか出来なかった。
《ガチャ》
「すいません。シエロ君はいますか?」
すると、突然部室の扉が開き、廊下からランスロット先生が顔を出した。
「あっ、はい…。僕はここにおりますが…?」
「あぁ、やっぱり此方でしたか…。シエロ君、ちょっと今宜しいですか?」
「はっ、はぁ…?」
宜しいも何も、SANチェックが入りそうな謎の物体Xを作ってただけだからなぁ…。
僕は、急に部室に顔を出したランスロット先生を、他の先輩方同様首を傾げながら見つめていた。
――――――
《「それではスクルド先生。シエロ君をお借りしますね?」》
《「ちゃんと返して下さいよ~?」》
そんな会話が先生同士で行われて部室から連れ出された僕は、そのままランスロット先生の自室に招かれていた。
あれ?
【魔道具研究会】は活動してたのに、【万能薬研究会】は今日はお休みなのかな?
部屋の中に誰もいないや…。
「今日は4年生が遠足で留守なので、部活もお休みになったんですよ。私の研究会に所属している生徒は殆どが4年生ですからね?」
キョロキョロしていた僕に気がついてくれた先生が、そう教えてくれた。
え~と…。
4年生って言うと、前に兄さん達がイビルリザードに襲われてた時に救護班として御世話になったサキ先輩がいる学年だっけね?
サキ先輩はB組だけど、あれだけ回復魔法の威力が高いんだから、きっとどのパーティーからも引っ張りだこなんだろうなぁ~。
あっ!そう言えばサキ先輩も万能薬研究会に所属してるって言ってたよね?
「フフ、4年生の遠足先は海ですからね?今頃楽しく泳いでいるかもしれません」
へぇ~、4年生は海に行ってるのか…。
ラビッスもピッカウも美味しかったけど、海だと何が穫れるのかな~?
あっ!
貝焼き食べたい(笑)
「フフフ、少し気が紛れましたか?さぁ、どうぞ?シエロ君が気に入ってくれたお茶です」
「あっ、ありがとうございます…」
OH…、何という事でしょう…。
まさか先生にまで心配かけてたなんて…orz
顔に出過ぎだろう、自分…。
「も、申し訳ありません。ご心配をお掛けしてしまった様で…。もしかして、お話しと言うのも…?」
「あぁ、いえ?勿論シエロ君の元気がない事も気になってはいましたが、君とお話ししたかったのはアリスさんの事についてです。シエロ君はどこまで彼女の事を聞いていますか?」
あ~、話しってルイスさんの事だったのか。
僕も彼女についてなら誰かと話したかったところだし、丁度良かったかも…。
僕は、ルイスさんについて知っている事を全て――って言っても僕が知ってる情報なんて、彼女が魔族だ~とかお姉さんの事とかイペットの事とかだけなんだけどね?――ランスロット先生に打ち明けた。
「そうでしたか、シエロ君は全てを知っていたんですね…?………。君が危険に晒されていたと言うのに、担任の私は何も出来ませんでした…。本当にすいませんでした」
……え?
うわぁー!?
何でランスロット先生が僕に謝ってんの?
一番面倒くさ…ゲフンゲフン、一番大変な所を皆から押し付けられたのはランスロット先生じゃん!?
こっちが謝るっていうのならいざ知らず、何でランスロット先生が謝ってんのさ!!
「先生、お顔を上げて下さい!!そもそも謝って頂く理由がありません」
「いえ、私は君に何もお伝えしませんでしたから。そのせいで君とアリスさんの2人を危険な目に合わせてしまった。本来なら、謝って済む話しではないのです」
うわ~ん、先生は真面目で優しい人だけど、変なところで頑固過ぎる~(泣)
その後、僕は頭を下げ続けるランスロット先生に対して何とか頭を上げてもらう為に攻防戦を繰り広げる事になった…orz
――――――
「アリスさんの件に関しては、本人からの希望もあって、他のクラスメイト達には黙っている事になりました」
「僕もその方が良いと思います。僕は魔族に対する偏見は持っていないですが、皆が皆そうだとは思えませんし…。彼女には何の非もありませんし、クラスの皆の事も信じていますが、余り口外しない方が良いと…」
ランスロット先生との攻防戦(1時間)を勝ち抜いた僕は、やっと本題に入るってところまでこぎつけた…orz
で、今はクラスメイト達にルイスさんの事を話すか話さないかって話しをしている所です。
ルイスさんは話したくないって言ってる訳だし、彼女は何も悪い事なんかしてないけど、中には【魔族】って聞いただけで怯えたり、逃げ出したり、酷い人になると生かしてはおけない!とか言って問答無用で攻撃してくる人達がいると言う話しを聞いた事があるくらいだから、用心に越したことはないと思うんだ。
現にうちのジュリアさんも、親兄弟親戚って言うか住んでた村人全員を魔族…魔王軍の幹部に殺されてるし、好き勝手やってる魔族がいるのも事実だ。
だからこそ今、魔王が幅を効かせてるこの時期にルイスさんの正体を晒すって事には抵抗があるんだよね?
「シエロ君もそう言ってくれると思っていました。はぁ…、今代の魔王は何を考えているのですかね…」
「魔王ってくらいですから、世界征服、とかじゃないんですか?」
「それならまだ良かったんですが…」
何か奥歯に何か挟まった様な言い方だなぁ…?
先生は何を言いたいんだろう…?
ん?
先生との会話の途中、本当に何の気なしに、首からぶら下げているフロル入りの魔石を見たら、魔石の様子が何かおかしい事に気がついた。
ん~?
今度は手に取り、じっくりと観察してみる。
どこが変わった、って言うかおかしいんだ…?
「シエロ君?どうかしたんですか?」
「えっ?あっ、すいません。何か魔石の様子がいつもと違う様な気がして――あっ!?」
思わず大きな声を出してしまったけど、分かった!
魔石の中に、いつの間にか花が咲いてる!?