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百五十一話目 続々・襲撃の日


2月24日の更新です。


昨日に引き続き、微グロ注意な部分が御座います。

予め、ご注意頂ければと思います。


本日も宜しくお願い致します。



 亜栖実さんにマドラさんの気を引いてもらいながら、僕は彼女に安心して旅立ってもらう為の準備をしています。


 準備するのは教会から――と言うかクラレンス神父から――もらった聖水と、僕がこの前部室で作ってたコレね?


 ジャーン!


 水鉄砲(本体にデッカいタンクが付けられるタイプ)~!!



「邪魔ヲするナぁー!!」


《ガギィン!》


「くっ…」


 うわっ!?何か向こうから鈍い音が聞こえるんですけど…。


 マドラさんはやっぱり物理攻撃も出来る人なんだね?


 うぅ、やっぱり水鉄砲は必要かもしれないな…。


 あっ、何で水鉄砲かって言うとね?


 本当はコレ、ダンジョン攻略する時に出て来るであろうアンデッド系魔物対策用に作ってた代物だったんだ。


 聖水はアンデッド系の魔物には恐ろしく効き目が高いでしょ?


 勿論光魔法でも充分効くし、それだけでも本当は良いんだろうけど、咄嗟に魔力が練れない時とか別の魔法を使用中、何て時の保険にと思って作ってみたんだ。


 まさかこんな所で役立つとは思ってもいなかったけど…。


 とは言え今回は浄化魔法を使うのが目的だから、この水鉄砲はあくまでマドラさんの対象がこっちに向いた場合にしか使わなけどね?


 今からやる魔法を使うと、どうしても彷徨ってる人達が僕に群がって来ちゃうから、もし亜栖実さんのディフェンスをマドラさんがかわした時に、僕の呪文詠唱を中断されない為に構えておこうと思ってさ☆


 おっとと、今こんな事力説してる場合じゃなかったや。


 いつまでも亜栖実さんにマドラさんを引き付けてもらってちゃ駄目だよね?


 よしっ!準備OK、行くぜ~!!



「すぅっ」


 僕は一度深く息を吸ってから、マドラさんに向けて祈りを捧げる構えを取った。


「《彷徨える子の魂よ…》」



 前にクラレンス神父が言ってたんだ。


 浄化の魔法は、相手を思いやりながら使う魔法だって。


「《光を無くした哀れな子らよ…》」


 自分の意思にそぐわない形でしか、存在する事を許されなかった者もいる。


 その者達の気持ちをどれだけ汲んであげられるかが大事な事なんだって…。


「止メ、ろ…」


 だから、祈りを捧げる時は丁寧に丁寧に、自分が出来る限りの思いを込めて…。


 敢えて詠唱を端折らずに…。


「《悪に心染まる前に、月への道開き導こう》」


 どうか、安らかに…。


「止めロ、ヤめテ!イヤだ助ケて!ァりス!帰りタい」


 僕が呪文の詠唱を始めると、マドラさんは黒い煙をその体から噴き出しながらのた打ちだした。


「おぉっ!?」


 マドラさんを挑発してくれていた亜栖実さんから声が漏れる。


 対象者の体から黒い煙が出るって事は成功してる証だから、このまま気にせず続けよう。


 うぅ、このままこっちに突進して来ませんように…。



「《次の貴方の生が、幸せに満ち足りる事を祈って…》」


「うあ゛ーー!!止メろーー!!」


 うわっ!黒い煙を体中から撒き散らしながら、マドラさんがこっちに走って来る!!


 うわわ!?折れてる足が千切れちゃうから、もうちょっとゆっくり歩いても良いのよ?



「おっと!行かせないよ?」


 と思ったら亜栖実さんナイスアシストです!


 それじゃあ亜栖実さんが僕とマドラさんの間で抑えてくれている内に…。


 僕はたっぷり聖水を詰めた水鉄砲を足下に置くと、最後の言葉を紡いだ。



「《光魔法:光の階段》!」



 僕がマドラさんに向けて両手を広げると、どんよりと曇っていた空から一筋の光が柱となって射し、マドラさんの体全体を包みこんだ。


「あぁあ゛ぁあああ!!」


 すると、一層勢いを増した黒い煙がマドラさんの体から噴き出し、空へと吸い上げられて行く。


 やった!成功!!


「あぁあああ!!」


 苦しそうに光の中でのたうち回るマドラさんに、ルイスさんは目を瞑って耳を塞いでいた。


 そうだよね?お姉さんが苦しんでるのは見たくないよね…?


 もう少し、もう少しだから、2人とも、もうちょっとだけ我慢して下さい。




「あぁあぁぁ…。あっ、あれ?ここは…?あたし何やって…?」


「………。マドラさんかな?」


 と、黒い煙が抜けきった所で、光の柱の中にいるマドラさんの様子に変化が起きる。


「え?うん、あたしはマドラだけど…あんたは?」


 さっきまでの狂気性は微塵も感じさせないほどの穏やかさで、そして声を掛けた亜栖実さんに警戒するでもなく、ごく自然な様子で返事を返しながら、キョロキョロと辺りを見回していた。


 良かった、無事に正気に戻ったみたいだね?


 【光の階段】の効果で見た目も生前の姿に戻ったみたいだし、これならルイスさんに会わせても大丈夫そうだ。



「ルイスさん、もう大丈夫ですよ?」


 僕は、耳を塞いでいるルイスさんの肩を揺すりながら声を掛けた。


「本当?もう大丈夫なの?」


 不安そうに僕を見上げるルイスさんに、僕は光の柱の中にいるマドラさんを指差して見せる。


 亜栖実さんと話す、生前と同じ姿のマドラさんがそこにはいるはずだから…。


「あぁっ!シエロ君、ありがとうなの!お姉ちゃん!!」


 そんな見慣れた姿に戻ったマドラさんを見たルイスさんは、目をシパシパと瞬かせた後で、嬉しそうにお姉さんの下へ駆け寄って行った。



「えっ?アリス!?」


「お姉ちゃん!!」


 光の柱の中で、漸く姉妹が再会を果たす事が出来た。


 マドラさんはあの中から出られないけど、ルイスさんが入る分には何の問題もない。



 良かった…、ルイスさん笑ってる…。


 マドラさんも嬉しそうだ。


 僕の力じゃ死者を蘇らせる事までは出来ないけど、2人に最後のお別れをする時間を確保する事くらいは出来た、のかな?


「ふぅ…」


《ドサッ》


 あ~、気が抜けた。


 思わず地面に座り込む。


「お疲れ様」


『シエロ、頑張ったわね♪』


「あっ、亜栖実さん。ありがとうございました。ナイスアシストでした☆」



 座り込んでしまった僕の隣に、亜栖実さんがゆっくりと近付いて来てくれた。


 今までルイスさんを守ってくれてたブリーズも、僕の肩にとまりながらヨシヨシと褒めてくれる。


 それに僕も答えながら、笑顔と会話が尽きない姉妹の様子を暫く見つめていた。



――――――


「そろそろ、お時間です」


 2人を引き裂く様な事をしなくちゃいけないっていうのは凄く心が痛んだけど、当人達は案外冷静に承諾してくれた。


 思いの外穏やかな2人の様子に、少し心が軽くなる。



「そっか…。アリス、元気でね?これからは、いつでも貴方の側に居るから」


「うん。お姉ちゃんこそ、今度こそゆっくり眠ってね?」


 最後に笑顔でお別れの言葉を交わしあった後、マドラさんは光の柱の中に出現した螺旋階段を上り、空へと消えていった。


 途中何度も何度もルイスさんの方を振り返りながら手を振り続けたマドラさんを、ルイスさんもお姉さんが見えなくなるまで手を振りながら見送っていた。



 お互いに【愛してる】と繰り返し繰り返し叫びながら。



◇◆◇◆◇◆


「あれ?マドラに付けた魔道具からの信号が消えたな?なんだ、とうとう死んだか?」


 何か作業をしていたらしき人物は、その手を止めるとぼそりと一人ごちた。


「前に邪魔者を始末した時に壊れた箇所がガタついてたからな~。まっ、しょうがねぇか?」


 ヘラヘラとその大きな口で笑いながら、その人物は小さなリモコンらしき装置をゴミ箱の中に放り投げた。


「あ~あ、またやり直しか…。幸いまだ誰にも気付かれていないし、まだやりようは……」


「残念ながら、やり直しはもうききませんねぇ?」


 椅子の背もたれに寄りかかった人物の首筋に、冷たい金属の感触が触る。


「ひっ!?だっ、誰だ!!」


「私ですよ…。貴方に殺されたクラレンスです…。貴方にお会いするのは確か2度目でしたねぇ?【イペット】さん?」


 【イペット】と呼ばれたカバ種の獣人族の背後から、スミレ色の髪の毛を肩口まで伸ばした初老の男性が姿を現した。


「ひぃっ!?何でお前が此処に?だって、あの時確実に…」


「えぇ、間違い無く私はあの時死にましたよ?おかげで体を1つ、失う羽目になりました」


「体を?お前、なっ何者だ!?だっ、誰か!!」


 死んだはずの人物が目の前に現れる。


 そんな非現実的な現象を前にして、イペットはその大きな体を揺らしながら怯えた様子で大声を上げた。


 しかし、呼べど叫べど誰かが駆けつけてくる気配は無い。



「おや?キチンとお答えしたではありませんか?私はクラレンス・ド・リュミエール。それ以上でも以下でもありません。さぁ、私はお答えしましたよ?貴方は、何者ですか?」



「ひっ!ヒィッ!!止めっ!?」






 【用具部】と書かれた表札がカランと床に落ちた。






やっとグロ注意部分を抜けました~。


もう数話分でほのぼのナンパ系バイオレンス小説(なんだそりゃ!?)に戻れるかと思います。


本日もここまでお読み下さりまして、ありがとうございました。


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