百五十話目 続・襲撃の日
2月23日の更新です。
引き続き、グロ注意な箇所が御座いますのでご注意頂ければと幸いです。
「あんなのお姉ちゃんじゃないの!!」
悲痛なルイスさんの叫び声が、修練場いっぱいに木霊する。
そんなルイスさんの叫び声に、一瞬怯んだ様に動きを止めたマドラさん?だったけれど…。
「ワタしはマドラ!アリす、お姉ちャんよ?迎エに来タノ!一緒に一緒ニ、一緒、に…」
「きゃあああああ!!」
「うわぁああ!!」
次の瞬間、猛ダッシュでバリアに貼りつくと、本当に壊れてしまったかの様に同じ事を言い続けた。
ってか近い!
目蓋見開きながら話さないで怖いからー!!
「ァりス!あリス!アリすぅぅうぅうう!!」
ぎゃー!めちゃくちゃ怖いぃーー!!
マドラさんが話すって言うか吼える度に、口の中から血反吐がビシャビシャとまき散らされて、下手なゾンビ映画よりもグロいよーー!?
《じゅうううう…》
うわああ!バリアについた手まで溶け始めた!?
「ありありありありありありありあり、アリスゥ~」
あれ?手が溶けた?
「いやぁー!こっち来ないでほしいのー!!」
「あぁっ!」
「きゃっ!?えっ?シエロ、君?」
忘れてた…。
このバリア…、【光魔法:祝福の盾】はゾンビやグール等のアンデッド系の魔物が触れたりすると、そこから浄化されて行く攻防一体型の魔法なんだったっけ…。
「アりス、ぉ姉ぢゃんよ゛ぉ~」
《じゅうぅぅ、ビタッ、ビタッじゅうぅぅ》
「いやぁあ~!」
僕が覚えた防御魔法はまだこれだけだったから、普通の防御魔法としてしか考えてなかったや…(照)
あれ?
って事はだよ…?
マドラさん、ガチでゾンビ?
『何でそんな大事な事を忘れてるのよ!』
あっ!ブリーズ、戻ってきてくれたの?
今日はクレイと、この街にいるクレイさんの所に行くって言ってたのに…。
「シエロ君!……シエロ君?」
「あぁ、すいません。僕の妖精が来てくれたみたいで…」
僕に必死にしがみついているルイスさんに答えながら声のした方を振り返ると、頼もしい僕の妖精さんが仁王立ちで宙に浮いていた。
おぉぅ、本当に頼もしい(汗)
『嫌な予感がして、私だけ途中で戻ってきたのよ!正解だったみたい、ね!』
ちょっと怒ってる?な口調のブリーズが、未だバリアにへばりついているマドラさんに向けて牽制用の攻撃を放つ。
《ゴウッ》
すると強烈な突風がマドラさんを襲い、思ったよりも遠くへ彼女の体を吹き飛ばした。
「あリス…?」
《グシャッ》
少しの間空を舞ったマドラさんは、まるで受け身も取らないまま、頭から地面に叩きつけられた。
修練場の地面の一部が赤く染まる。
うわぁ…。
「きゃあ!お姉ちゃん!?」
『うそっ!わっ、私本当に軽く魔法を撃っただけなのよ!?』
牽制するだけのつもりだったブリーズは凄く狼狽えているけど、大丈夫だよ?あれじゃマドラさんは【止まらない】から。
ほら…、見て?
「アリ、ァり、あリス。ぉ姉チゃんといっ、一緒、イッしョに帰り、帰りマシょ、帰リましょう?」
頭から叩きつけられたハズのマドラさんは何事もなかったかの様に立ち上がると、また同じ事を繰り返し呟きながら此方へ歩き始めた。
きゃー!首が変な方向いてますけどーーー!!?
見て!何てブリーズに偉そうに言ったけど、僕が見たくなーーい!!
「お姉ちゃん、もう止めてぇ!!」
はっ!
あんまりなグロ映像にテンパってる場合じゃなかった!!
「ブリーズ、マドラさんは誰かに遺体を操られているみたいなんだ。けど、魔族の体は死語数時間で消えてしまうモノだって聞いたんだけどさ?これってどういう事?」
『えっと…。それはね?』
「首に特殊な魔道具を埋め込んで、魔力の霧散を人工的に防いでいるのさ!」
ん?今どこから声がした…?
《スタッ》
「お待たせ!」
ブリーズから以外の答えに、戸惑いながら声の持ち主を探していると、空から颯爽と亜栖実さんが降ってきた。
いや~、まさか空からのご登場とは…。
流石亜栖実さん、格好良すぎるぜ☆
ところで…。
「首の後ろに魔道具?それに魔力の霧散って?」
「うん。実は魔族って体が消えてるんじゃなくて、肉眼じゃ見えないほど縮んでるだけなんだ。あぁ!風船の空気が抜けて縮むのと同じだと思ってくれたら分かりやすいかも?中身が空気から魔力に変わるだけって感じ?」
「では、その魔力の霧散を食い止める魔道具と言うのは…」
「風船に開いた穴を塞ぐ為の魔道具だと思ってくれたら良いよ。今の魔王はそれを使って自分が集めた優秀な魔導師や、自分に反逆した魔族達の死体を、2度と裏切る事の無い人形兵として操っているんだ。全く、死者への冒涜もいい加減にしろって話さ!」
そう言いながら、亜栖実さんは折れた首をカクカクと揺らしながら近付いてくるマドラさんを睨み付けた。
けどそれは、マドラさんの後ろにいるであろう魔王を睨み付けているのかもしれない。
ここからではその魔道具は見えないけど、自分に逆らった者達を殺して人形兵に仕立て上げるだなんて…。
今までどこか今代の魔王に同情してたけど、これは到底許せる所業じゃないぞ。
「アスミ先生、お姉ちゃんを助けて欲しいの」
「勿論さ☆僕はその為に来たんだからね!シエロ君?アリスちゃんの事はブリーズちゃんに任せて、僕ら2人でマドラを止めるよ?」
「はい、亜栖実さん!!」
そうと分かったら、いつまでもマドラさんをこんな人形にしておくわけにはいかないよね?
亜栖実さんと一緒に、マドラさんを今度こそ安らかに眠らせてあげなくちゃ!
「亜栖実さん、先ずはどうすれば良いですか?それにコローレは?」
さっきの墜落の衝撃で、首以外にも左足が前後逆になってしまったマドラさんは、とても歩きづらそうにしながら、それでもルイスさんを目指して進んできている。
とは言え、足がああなってはさっきみたいなスピードはもう出なさそうだな…。
無理したら今度こそ足が千切れそうだし…。
うぅ、想像しちゃったorz
もう!こんな時に元神父様はどこ行っちゃったのさ!!
しっかり魂の救済してあげてよ!
「コロさんは今別件で動いてるから此処には来れないんだ。さて、シエロ君ならどうやって攻撃するのがベストだと思う?」
別件?
んー、コローレの事だし、何かまた無茶してなきゃいいけど…。
あっ、それより今は目の前のマドラさんだよね?
えーと!首の後ろに魔道具があるって分かってるんだから、そこをピンポイントで狙っても良さそうだけど…。
今のマドラさんは首がねじくれちゃってるから、どこが首の後ろに当たる場所になるのか分からなくなっちゃったし、どうしたら良いんだろう…。
「ウフフ、悩んでるね?じゃあ答えを言うとね?下手に魔道具を取り出そうとすれば、操縦者に警告が行く仕様になってたハズだよ?だから、この際魔道具の取り外しの選択肢は捨てよう!」
おぉ!?そんな機能がついてたのか…。
あっ、危なかった…。
って言うか、あそこまで首がひん曲がってても【魔道具を取り出そうとした】に該当しないもんなんだろうかと、ちょっと不安になるんですが…。
「直接手で魔道具に触れなければ大丈夫だったよ?シエロ君、浄化魔法は得意だったよね?」
【だった】って事は、亜栖実さん試した事があるのか…。
いつ試したんだとか、誰に試した?とかは聞かない方が良いのかな?
あんだけ軽く言われると、返って質問しづらいな…。
えぇい!今はそんな場合じゃない!!
「はい、以前クラレンス神父様からキッチリ叩き込まれましたから、浄化魔法は得意です!」
えっ?そんなのいつ教わったのかって?
女神の神殿で彼と会った日から学園に入学するまでの間、爺さんの目を盗んではクラレンス神父の所へ行って愚痴ってる時に、時間つぶし感覚で教えてもらったんだよ?
僕が怖がりで、アンデッド系の魔物絶対無理!って話しをした時に、じゃあ…ってな感じで対処法と一緒に教えてくれたんだ。
息抜きに行ってたハズが、結局魔法の訓練してるだけになっちゃったけど、爺さんのめちゃくちゃな修行よりクラレンス神父の授業の方が楽しかったなぁ~。
と、言う訳で、浄化魔法は得意です!
因みに回復魔法は姉さんから習いました☆
「じゃあシエロ君!僕がマドラの気を引き付けるから、タイミング見ながら浄化魔法やって!?」
指示が雑!??
「わっ、分かりました!」
とは言えやらない訳にはいかないよね?
よしっ!気を引き締めて行くよ!?
「こっちだマドラ!ファイア!」
亜栖実さんは親指の先程の小さな火球を作ると、いくつもマドラさんに向けて放った。
「邪魔ヲ、スるなァ!」
大したダメージにはならないけど確実に鬱陶しい攻撃に、マドラさんは苛立ちながら応戦し始める。
よしっ!
流石は亜栖実さんだ。
上手いこと僕らからマドラさんを遠ざけてくれた。
「ルイスさん。見えないかもしれませんが、ここら辺に僕の妖精がいます。貴方を守ってくれる様にお願いしましたので、なるべく動かない様にしていて下さい」
「わっ、分かったの。お姉ちゃんの事、宜しくお願いしますなの…。妖精さんも宜しくなの」
と言うわけだから、ルイスさんをお願い。
『任せておきなさい?私は攻撃は苦手だけど、防御魔法は大得意なんだから☆』
頼もしい~!
じゃあ、お願いします。
『うん』
よっしゃ!じゃあクラレンス神父様、もとい光の精霊コローレに変わって、僕シエロ・コルトが魂の救済をしちゃうんだからね!!
すぐ忘れる系主人公、シエロです(笑)
本日もお読み頂き、ありがとうございました。