百四十七話目 修練場にて…な日
此処じゃ話せないと言うルイスさんに連れられて、僕達はラウンジから寮の裏手にあるちょっとした修練場に移動して来ました。
流石に僕が寮の中にいないと亜栖実さん達が心配すると思ったので、ブリーズに連絡を取って亜栖実さんに僕が何処に居るのかを知らせてもらったし、少しくらいなら外に出ても大丈夫だよね?
因みにこの修練場は亜栖実さんと訓練する時にも使ってた場所でね?
実はテレポートの訓練をしたのも此処なんだ。
「それでルイスさん。話しって何かな?」
修練場に横倒しになっていた丸太に腰掛けて、僕はルイスさんに問い掛けた。
「うん…」
僕の隣に同じ様に腰掛けたルイスさんは最初とても言いづらそうにしていたけど、決心した様子で、こう切り出した。
「あのね?シエロ君から、アスミ先生に私のお人形さん達壊すの止めて?って、言ってほしいの…」
ん?
「私をね?守ってもらってるだけなの。誰にもイジワルしないの。だから、止めてほしいの…」
んん?
「えっと、ルイスさん?君のお人形さんって、もしかして、使い魔の事、かな?」
恐る恐る聞いてみると、彼女は【うん】と1つ頷いた。
えっ?
「え?じゃあ、ルイスさんは、人形使いなの?」
「人形使いは私のお姉ちゃんなの。私はまだ見習いなの」
んんん?
「あっ、あのね?シエロ君には教えてあげるの。私ね?」
そう言いながら、混乱しきりの僕の前で、彼女はリボンをシュルシュルと解き、片方の編み込みを解いた。
すると、そこには――。
「【魔族】なの…」
彼女の柔らかそうな薄茶色の髪の毛の下から、ビリジアン色の小さな巻き角が生えていた。
うわ~、ランチャー先輩の妹のミーナ・ロッドさんと、色違いだけどお揃いだね☆
……………。
いやいやいやいや、現実逃避してる場合じゃないよ、僕!?
もしかして亜栖実さんの言ってた通り、ご本人様登場ですか!??
いやいや、落ち着け僕!
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー(混乱)
「えっと、ルイスさんが魔王軍の人、って事はないよね?例えば【人形使いのマドラ】とか…」
良い返事が思いつかなかった僕は、敢えて単刀直入に聞いてみる事にした。
回りくどいのは嫌いだし、何よりクラスメイトの事を信じたかったからね?
すると、今解いたばかりの髪の毛を器用に編み込みし直してリボンでまとめていたルイスさんの表情が急に暗くなる。
あれ?
なっ、何か悪い事聞いちゃったかな?
「私は魔王軍とは無関係なの…。確かに私のお姉ちゃんの名前はマドラだけど、もうお姉ちゃんはこの世界にいないの…。魔王に殺されちゃったの…」
彼女はその真っ青な瞳から、ポロポロと大粒の涙を流しながらそう言った。
【人形使いのマドラ】がお姉ちゃん?
しかも、もうこの世にいない?
その理由が魔王に殺されたからって…。
えっ?えっ?マドラは魔王軍の幹部なんじゃなかったの?
何でそんな人が殺されるのさ!?
「んくっ。お姉ちゃんは【テルツァ(3)】だったの…。新しく来た魔王は、魔法属性を3つ以上持っている人を集めてたの。それである日、お姉ちゃんもお城から呼ばれたんだけど、その日からお姉ちゃんは帰って来なかったの…」
「お城?」
「魔王になった人は皆そのお城にフラッとやって来るの。時々自分で作る人もいるけど、ふつーはそのお城に来るんだって、パパから聞いたの」
へぇ~、やっぱり魔王城あるんだ~(喜)
禍々しい外観なのかな?
調度品はゴージャスなのかな?
見てみて~!
じゃない!
え~と、こほん。
魔王が複数属性持ちを集めてるって亜栖実さんの話しは本当だったのか。
でも呼び出されたその日から帰って来てないんじゃ、やっぱりマドラさんは…。
「お姉ちゃんが帰って来なくなってから10日待ったの。そしたら、魔王城からこれが届いたの…」
ルイスさんは泣きながら、僕に小さな赤い巾着袋を見せてくれた。
大事そうにその巾着袋を抱きながら、更にルイスさんの頬から涙がこぼれ落ちる。
「それは?」
「お姉ちゃんなの…。これの中身はお姉ちゃんの髪の毛なの」
何でも、魔族は死ぬと遺体が残らないんだそうだ。
一説では魔力の高さが関係してるんじゃないか?何て話しもあるけど、死語数時間くらいでその体は完全に消えてしまう為、家族が死に目に会えない場合、その場に居合わせた者は髪の毛を一束切り取り、送り届ける事が慣習となっているらしい。
何故切り離した髪の毛が消えないのかは分かっていないそうなんだけど、
「おかげでお姉ちゃんといつも一緒なの」
と、その巾着袋を本当に大切そうに抱きしめながら、ルイスさんが言ったのを聞いて、なんで髪の毛だけが残るのか?なんて、この際どうでも良い様な気がした。
「じゃあ、ルイスさんはそんな魔王から逃げて此処に?」
「うん。何も魔族全員が魔王に従ってるわけじゃないの。中には他の人族達と普通に暮らしてる人も沢山いるの。私はお姉ちゃんだけしか家族がいなかったから、知り合いのおじちゃんを頼ってこの街まで来たの」
さっきはパパから聞いたっても言ってたけど、今はお姉さんしか家族がいなかったのか…。
しかも、そんなお姉さんまで亡くしてたなんて…。
何か悪い事聞いちゃったかな?
「おっ、おじちゃんって?」
僕が暗くなってしまった話しを誤魔化す為に新たな登場人物の話しを掘り起こすと、ルイスさんは嬉しそうに笑いながら頷いた。
「この学園の用具部にいる、イペットおじちゃんの事なの!!」
イペットさん?
………。
「イペットさんって、カバ族のイペットさん?」
「そうなの!あのおじちゃん、元は私のお隣に住んでたおじちゃんなの!だから、理事長先生にも頼んでくれたの!優しいの!!」
あ~、まだ僕は数回しかイペットさんと話した事はないけど、確かにほんわかしてて癒やし系の人だったよなぁ~?
あの人なら頼って来た人を追い返す事はしなさそうだし、却って必要以上に世話を焼いてくれそう(笑)
「へぇ~、イペットさんか~」
「そうなの!あのお耳が可愛くて大好きなの☆」
うんうん、あの体に似合わない小さなお耳は可愛いよね~?
あれ?そう言えば、ルイスさん何かさっき気になる事を言った様な…?
「あっ!じゃあ、去年僕が遭遇した使い魔もルイスさんのだったの?」
そうだ!
最近亜栖実さんが倒して回っちゃった使い魔達がルイスさんの物だって言うなら、あれも?
「去年?去年はまだ使い魔作ってないの。お姉ちゃんの作った子を理事長先生からもらったから、真似して作り始めたくらいなの」
ん~、理事長先生から【貰った】って事は、去年僕が襲われたのはルイスさんのお姉さんの使い魔で、調べ終わった後理事長先生からルイスさんに渡したって事で良いのかな?
だとしたら、ランスロット先生も彼女が魔族だって知ってたのかな?
じゃなきゃ、あそこまで使い魔の処遇を隠す必要はなさそうだし…。
「シエロ君、黙っててごめんなさいなの。でも、今の魔王から逃げてきたのは本当なの。私はクラスの皆が大好きだから、嫌われたくなくて言い出せなかったの…」
僕が黙り込んだのを何か勘違いしてしまったルイスさんは、再びその大きな瞳からポロポロと涙を流し始めてしまった。
うわわわわ!
泣かせちゃった!?
「ごめんルイスさん!僕は別に怒ってる訳じゃないよ?」
「本当?」
「うん。ちょっと考え事を…」
「あ~、シエロ君が女の子泣かしてる~。イケないんだ~。先生に言っちゃうぞ~?」
またややこしい時に…orz
第一先生は貴方でしょ!?
亜栖実さん!!
シリアスな空気さえも無かった事にする亜栖実マジック…。
本日もお読み頂き、ありがとうございました。