百四十五話目 続々・2度目の遠足の日
邪悪な魔力と共に現れたのは、何と亜栖実さんだった!
ヘラッといつものように笑いながら現れた亜栖実さんに、僕達4人の体から力が抜ける。
「なんだよ、またアスミ先生かよ~?」
「ビックリした~」
「ありゃ?ゴメンね~?あんまり奥まで行っちゃう子達がいない様に見回ってたんだよ」
あれ?
あれだけ粘っこいと言うか、狂気すらはらんでいそうな魔力を感じていたのに、亜栖実さんが茂みの中から姿を現した途端にピタリと消えた?
って言うか見回りしてただけの人が、あんな気持ちの悪い魔力を放出する意味があるのかな?
もしかしたら、また人形使いが現れたんじゃ…。
「また、自分の周りの魔物を威嚇しながら来たんですか?」
僕は、ダメ元と思いながら亜栖実さんに遠回しに聞いてみる事にした。
「おっす、シエロ君!うん、そうだよ?変な魔力放出してれば、一々魔物も近付いて来ないからね?」
「そうですか…」
亜栖実さんはいつもの様にカラカラ笑いながら答えてくれた。
だけど、やっぱり誤魔化されちゃったね…?
そりゃあ勿論さ?亜栖実さんの事だから僕らが本当に危なくない様に見回ってくれていたんだろうって言うのは分かってるんだよ?
でもさ、威嚇したいだけなら亜栖実さんがいつも抑え込んでる魔力をただ放出すれば良いだけで、あそこまで恨み辛みがこもりまくった魔力を出す意味は無いと思うんだ…。
だから…。
はぁ…。
守ってもらってる立場の癖に生意気言ってるのは分かってるんだけど、森の中で本当は何をしていたのかを教えてもらえないんだって事実に、僕は何故か凹んでいたんだ。
◇◆◇◆◇◆
う~ん、やっぱりシエロ君には気付かれたかな~?
咄嗟に誤魔化しちゃったけど、可哀想な事しちゃったよ…。
「使い魔ですか?」
楽しそうにブロンデ君達と話してはいるけど、何だか寂しそうにも見えるシエロ君の後ろについて歩いていると、コロさんが音もなく僕の横に近付いてきた。
それにしてもこんな所で言いづらい話しを、サラッと聞いてくるよね?この精霊さんは…。
「そうそう、って言っても低品質のインスタント使い魔だったけどね?ただ、障気をタップリ付加してある、質の悪~いやつだったから、ある意味手こずったよ…」
じゃなきゃあんなに障気ばらまかれる事もなく、シエロ君に気づかれない様に仕留められたってのにさ~…。
何てブツブツ考えながらも、僕はそう小声で返した。
「それは、不愉快極まりない代物でしたね?それで?土地の浄化はどうなさいましたか?」
うっわっ!?流石は元神父様…。
僕より森の心配かい?
まぁ、汚染箇所はきっちり浄化作業してきたけどさ…。
少しくらい僕の心配してくれても良いのよ?
「それなら良いのです。貴方は頑丈ですから、心配する時間の方が惜しいですよ。それよりシエロ君の事ですが…」
そうだねぇ、僕は頑丈だから~ってコラッ!!
誰が防御力AAのアーマードタートルか!
「誰もそこまで言ってませんよ。で?シエロ君の事、どうなさるおつもりですか?」
「寂しいからちょっとはノッてよ?ん~。シエロ君の事ならそろそろ力も充分身についてきたし、折を見て話そうと思ってるよ。いつまでも、こんな騙すみたいな事はしたくないからね?」
「そうですね。記憶がキチンと戻られてからのシエロ君の観察力は目を見張るものがありますから、騙し通すのもそろそろ限界かと思われます。今も亜栖実さんの異変にお気付きになり、ご自分の力不足を悔いておられる様でしたし…」
あ~、そうだったんだ…。
うーん、僕と比較するから変な感じになるけど、シエロ君だって充分強くなったんだけどねぇ?
それこそ、コロさんと良い勝負が出来そうなくらいにはさ…。
「フフフ、流石はシエロ君です。それでこそ私の【主】に相応しい…」
「あっ、こんなとこで言っちゃって良いの?まだ隠してたいんでしょ?それ?」
おや?コロさんがシマッタ!って顔するとは珍しい。
ふふ、こりゃ良いもの見ちゃったね♪
さて、シエロ君にどうやって伝えたものかなぁ~?
◇◆◇◆◇◆
凹んでいたって始まらない!
モリモリ食べて、ビシバシ訓練して、早く亜栖実さんに認めてもらえる様にならなくちゃ!!
と言う訳で、学食のおばちゃん!お弁当いただきます!!
「なぁ、ちょっと良いかな?」
良くない!!!
僕が今、正にお弁当を食べようとしているのが分からないのかね?
やっとこさ広場に戻ってきて、他のスライムとかラビッスだけならともかく、ランスロット先生にピッカウ――1頭だけだったけど――まで回収されてちょっとご立腹なんだから、更に楽しみにしてたお弁当タイムの邪魔までされたら流石に温厚な僕でも怒るよ?
ブロンデ達をぶっちぎってまでお弁当をもらってきた。
そんな腹ペコな僕を捕まえて、一体全体何だって言うんだ!?
ん?
何この人…。
よく見たら耳まで真っ赤っかな顔して…。
すんごい嫌な予感しかしないんですけど……。
「ご飯中ゴメン!でもさ、どうしても言いたいことがあって!!」
ブロンデと同じ猫族っぽい見た目をした、見覚えのないカワイイ系の男の子が、今、僕に用事があるって何なのよ?
「この前の遠足の時に見かけてからスッゴく好きでした!僕はC組のカールって言います!!僕と付き合って下さい!!!」
彼はそう言いながら、こんがり焼けたラビッスの後ろ足を差し出した。
「「「「「おぉ!」」」」」
いや、周りの奴らも、おぉ~!じゃねぇから!!
まぁ、なんだ?
いい感じの焦げ具合で、まだじゅわじゅわ言ってるから、本当に焼きたての美味しい瞬間に持ってきてくれたのは分かったから、凄い君の誠意は伝わってくるんだけどさ…。
自分もカワイイ系で、言いたかないけど僕と同系統なんだから、分かるだろうよ!?
「あっ、本当に突然でごめんなさい!でも、もう我慢出来なくて…」
僕が怒りで震えているのを何か勘違いした目の前のネコッ子は、更に畳み掛けてきた。
いやいやいや、そこじゃねぇから…。
僕の前で返事を待ちながら、ドキドキのピークって感じの君には本当に悪いんだけどさぁ?
『シエロ、しっかり!』
『ここで怒っちまったら負けだど?』
『あぇ?しえろはおとこのこでしゅよねぇ?』
分かってるよ…。
僕は、こんな所で爆発したりしないんだから…。
そうして、僕が何とか怒りをこらえながら、彼に返事をしようとした時だった。
「ちょっと待てよ!」
「勝手に抜け駆けしてんなっ!!」
何かまた増えたorz
少しポッチャリした気の強そうな少年と、背が高い馬面の少年が、僕とネコッ子の間に割り込んできた。
何なの今日は?厄日?
「突然割り込んできたりして何だよ!」
ネコッ子がそう怒鳴ると、
「お前がこの子に告白しようとしたりするからだ!」
ポッチャリ君が負けじと怒鳴り、
「僕は入学式の時から君が好きだったんだ。付き合うならB組のラディン・ホースにしておかないかい?」
と、どさくさ紛れに馬面君に告られた…。
「あってめ!」
「何やってんの!?」
それに気が付いたネコッ子とポッチャリが馬面に対して喚きちらし始めた。
馬面はそんな事気にも留めずに僕に対する愛の言葉を紡ぎ続けている。
本当に何なの?
告りたい相手そっちのけで、喚いたり騒いだりって何なの?
ただ自分に酔いしれてるだけだろ?
これ、僕が女の子だったとしたってごめんなんだけど…。
って言うか、僕は女の子じゃないし…。
「お前いい加減にしろよ?この子困ってるじゃないか!?」
「困ってるのは君達の言動に対してだろう?僕は君達の様に魔力量の少ない下等な人族ではないんでね?僕に相応しいのは、彼女の様な愛らしい天使なのさ」
「頭沸いてんじゃねぇよ!?てめぇだってB組じゃねぇか?」
頭沸いてんのは、お前ら全員だろ?
人の性別すら見抜けない様な節穴トリオなんざ、誰も相手してくれねぇよ!?
『あっ、これはマズいかも…』
『フロル、水晶の中さ入ってっせ!!ここはあぶねぇがんな?』
『う?あぶにゃいの?』
妖精達が俄かに騒ぎ出したけれど、すっかり頭に血が上った僕の耳には何ひとつ届かなかった。
「お前ら、いい加減にしろーーーーー!!!僕は、男だーーーーーーーーー!!!!!!」
《ドンッ》
その日、練習していた時は1回も出せなかった風の上級魔法、【ウインド・トルネード】――要は巨大な竜巻を生み出す魔法って事ね?――を無詠唱で放った僕は、暫くの間無詠唱魔法の件と、一気に3人斬りをした豪傑って言う事で、伝説となった。
うぅ、全然嬉しくない…orz
凹んでいる所に追い討ちをかけられ爆発したシエロでした。
やった!やっとナンパされる所が出せました!!(笑)
本日もお読み頂き、ありがとうございました。