百四十四話目 続・2度目の遠足の日
只今豚と牛を掛け合わせた様な魔物の、ピッカウ2頭と戦闘中の僕達です!
そして、ピッカウが茂みから飛び出した所を見計らって、コローレにフラッシュの魔法を使ってピッカウ達の目を眩ませてもらったから、今がチャンスなのです!!
「今の内に右は僕とルドルフ、左はコローレとブロンデで攻撃!ピッカウの弱点は鼻!しかし鼻の横の牙にはくれぐれも注意して!!」
おさらいになっちゃうけど、ピッカウの鼻の横には円錐形の鋭くふっっとい牙が生えてるから、もしパワー自慢のピッカウが一度でも頭を振ったら肋骨の2~3本は覚悟しなければならないし、あの馬上槍みたいな牙が刺さりでもしたらシャレにならないんだからね!
うぅう。
よそう、何も戦闘中に考える事じゃない!
「了解だよ!」
「お任せ下さい」
頼もしいブロンデとコローレの返事ももらえたし…。
よしっ!気合い入った!!
周辺の魔物はこの2頭だけだから、とりあえず目の前のピッカウ戦に集中出来るし、一丁やったりますか!
「ルドルフはとにかくピッカウの足を狙ってみて?とにかく愚鈍なピッカウには早さでひっかき回しながら対抗するよ!!」
「おっしゃ!」
と、気合いを入れた所までは良かったんだけど…。
「「ブボォーーー!!」」
コローレの魔法により目が眩んだピッカウ達は、2頭とも首をブンブン振り回しながら僕らの方に突っ込んで来た。
たぶん、とにかく声のする方に突っ込め!的な感じなんだろうけど…。
「うわっ!危なっ!?」
ギリギリの距離で避けながら何とか攻撃しようとする僕達だったけど、ピッカウは目が見えなくなった混乱からか、やたらめったら暴れ回る。
そのまま相討ちしてくれたら凄い楽なんだけど、そんなに上手く行くはずも無く…。
2頭のピッカウ達は、僕らの周りの木々をバシバシなぎ倒しながらランダムに突っ込んでくるから余計にタチが悪い。
「くそっ!これじゃあ狙えないぞ?シエロどうする?」
んー…。
仕方ないな…。
いくら足がそこまで速くないって言っても、ここまで暴れられたら自然破壊も良いとこだし、下手に攻撃してフレンドリーファイアが起きたりしたら目もあてられない。
「皆!ちょっと僕の後ろに下がって!!………《土変形:泥》!」
僕は地面に手をあてると、暴れまわるピッカウ2頭のタイミングを見計らいながら、地面を一気にぬかるませた。
「プギーー!?」
「ボボォ!?」
うっし!
2頭とも泥に足を取られたな?
「おぉ!」
「すげぇ~」
ピッカウ達はある種底無し沼みたいになった地面から這い上がろうともがいてるけど、片方の足に体重をかけるとどんどん体が沈んでいく様で、沈んでしまう!という恐怖心からか更にもがいては沈むと言う悪循環に陥っていた。
もう眩んだ目は見えているみたいで、僕の顔を睨みつけながらもがいているけど一向に抜け出せない事に苛立っているみたい。
「《土変形:岩!》」
そうしてピッカウの動きが鈍った所で、今度は泥んこの地面をカッチカチの一枚岩に変化させる。
「ピギー」
「ブギューー」
すると、足が沈む事はなくなったものの今度は足がビクともしなくなったピッカウ達は、悲痛な声で鳴き叫びながらのた打つ様に暴れ始めた。
フフフ…。
これならいくら馬鹿力なお前らピッカウでも、マトモに動く事は出来ないだろう?
そして、ちょっと可哀想だけど僕はお前らが動ける様になるまで待ってやる気も無いんだよ。
ウフフフフフ♪
君達を美味しく食べてあげるからねぇ?
ピッカウのお肉は高級品だから、骨の髄までしっかり楽しんであげるよ☆
「ぷっぷぎゅ…」
「ぴぎぃ…」
「シエロ君、そのくらいになさって下さい?ピッカウどころかブロンデ君まで怯えていますよ…」
えっ?
振り返ると、コローレの後ろに隠れながら涙目になっているブロンデが居た。
「うわわっ!?ブロンデごめん!!じっ、じゃあ2人とも!今の内にピッカウにトドメをお願い!ただし、動けないのは足だけだから、くれぐれも気をつけてね?」
「おうっ!」
「お任せ下さい」
僕は何とか涙目のブロンデを慰めながら、ルドルフとコローレにトドメを刺すようにお願いした。
ふぅ、悪人面した美少女系魔法少年とか、ただでさえ設定が飽和しててお腹一杯何だから気をつけないと…。
『またメタイ発言して…』
『んだんだ』
『めちゃい?う?』
あっ!出来れば首の後ろから剣か牛刀くらいのナイフで刺してもらえると血抜きがしやすくて肉の臭みが抑えられるんだけど…。
わわわっ!待ってルドルフ!!
それやると体内に血が回っちゃうから!
――――――
「《空間操作:血液吸収》」
「「おぉ~!」」
「お見事でございます。シエロ君」
捌くのは広場でやる事になっているから、ここでは血抜きをするだけ!って事で、前回の遠足の時に僕が試した血抜きのやり方を実演する運びとなった。
まぁ【実演】何て大層な言い方になっちゃったけど、水晶の中に魔力/魔法を封じ込める代わりに血液を閉じ込めるだけだから、比較的簡単に作業は終わる。
あ~、でも本当に亜栖実さんのおかげで空間属性能力全てのレベルが底上げされたから、森に潜んでる魔物や野生動物達の動きを感知できる範囲も広がったし、こうして何かを閉じ込めたり封じ込めたりする作業が凄くやりやすくなったなぁ。
いち早く僕の記憶の綻びにも気が付いてくれたし、本当に亜栖実さんにはいくら感謝してもし足りないよ…。
「シエロ君、血抜きはこれでおしまいでしょ?どうやって持って帰る?」
「あ~、皆の魔導袋の中にはもう他の魔物が詰まってるもんね?じゃあ、僕の異空間リング内の保管庫に入れておくよ」
「保管庫まで異空間の内部にお作りになって居たのですか…」
だって、保管庫あると何かと便利そうだったんだも~ん…。
実は前回の遠足の時にラビッス以上の大物捕れたら困るな~と思ったんで、異空間リング内にリンクさせてある【僕の箱庭】の中に、高さ10m全長10mくらいの大型冷温庫って感じの魔道具を作っておいたんだ☆
2~3mくらいのピッカウ2頭ならそこに余裕で入るし、無理すれば後5頭くらいイケるんじゃないかな?
「また変なの作ったな~?ピッカウが余裕で入るって、俺ら全員入っちまうんじゃね?」
「入れるよ?入ってみる?設定温度間違ったらカチコチに凍るかもしれないけど…」
「いや、遠慮しとく…」
さてと、言ってる間に異空間リング内に収納出来たし、こんだけ狩れればパーティーの評価的にも良いんじゃないかな?
「では、広場へ戻る前にここで本日の反省を…。陣形を交代しながらやってみましたが、どの陣形が一番しっくり来たでしょうか?また、一番ダメな陣形も考えて参りましょう」
ここで?
とは思ったものの、さっきのピッカウ以降この近辺を動く魔物も動物もいないみたいだし大丈夫かな?と、コローレの意見にのってみる事にした。
「ルドルフが司令塔をやった時以外はそこまで悪くなかったんじゃない?」
「うん!ルドルフ以外の時は、まだいい感じだったと思う!!」
「何で俺以外なんだよ!俺だって頑張ったじゃんか!?」
はい?
司令塔のくせして周りはまるで見えていないし、本当に目の前にいる敵にしか気がつけないし、挙げ句の果てに指示も出さずに敵のド真ん中に突っ込んで行ったのは何処の誰だったかな?
確かに頑張ってたのは認めるけど、お前の中に流れているはずの獣人の血はどこに雲隠れしちゃったんだい?
第一、あんなに大きな群れのスライムに突っ込む馬鹿がどこにいるのさ?
おかげで僕ら全員、怒ったスライムから攻撃受けちゃったんだからな?
「うっ…。悪かったよぉ…」
「全く、次はもう少し周りを見る訓練してからにしようね?次回の遠足は10の月でしょ?それまでに、亜栖実さんに気配を読む術を教えてもら――――」
《バッ》
突如、森の奥深くからおぞましいまでの威圧と狂気に満ちた魔力を感じた…。
まるでドロリとしたコールタールみたいに体中にへばりつく様な気持ちの悪い感覚がして、体が酷く重い。
「ルドルフ君、ブロンデ君!私の側から離れないで下さい!シエロ君、貴方も此方へ!」
コローレも異変に気が付き、自分の側へ来いと叫んでる。
2人はまだこの気配に気付いていないみたいでキョトンとしていたけど、コローレと僕のただならぬ感じを察したのか、サッサとコローレの後ろに入った。
僕も地面に縫いつけられたかの様に重くなった足を少しずつ引きずりながら、一歩ずつコローレの側まで後退して行――。
うっ!?
何か気持ち悪い魔力が更に膨れ上がった?
何なの本当に?
《カサッ》
そうこうしている間に、気持ち悪い魔力が少しずつ近づいて来る。
《カサッ、ガサッ、ガサッ》
その魔力を伴った何かは、足音を立てながらゆっくりと、確実に近づいてくる。
まずいまずい…。
コローレと僕、それにブリーズとクレイで何処まで抵抗出来るだろう…?
《ザザッ、ガサササッ》
来た!!
僕達は武器をそれぞれ抜くと、身構えた。
《ガサッ》
「はろ~ん♪亜栖実ちゃんだよん☆あれ?驚かせちゃったかな?」
えっ?亜栖実さん!?
文字通り骨の髄まで食い尽くそうとしているシエロでした(笑)
本日もここまでお読み頂き、ありがとうございました。