百三十七話目 亜栖実さんと人工魔石の日
何か僕のせいで最後がグダグダになっちゃったけど、ジャスミン先生の話しをお聞きしたり、テレポート装置をじっくり間近で見ることが出来て、とっても楽しくて有意義な時間を過ごす事が出来た。
とは言えそれは昨日の話しで、僕は今日からまた、亜栖実さんの元で訓練を再開する、ハズだったんだけど…。
「シエロ君、魔石が作れるって本当?」
放課後、いつもの様に亜栖実さんの部屋を訪ねたら、ご覧の通り壁際まで詰め寄られてしまっています…。
えっ?
まっ、魔石?
魔石ってもしかして人工魔石の事かな?
「こっ、これの事でしたら、作れますよ…?」
亜栖実さんにポケット――に入れてあった異空間リング――から適当な人工魔石を取り出して見せる。
「これだよこれ!え~、本当だったんだ…」
あっ、取られた…。
僕から魔石を奪い取った亜栖実さんは、しげしげと人工魔石を眺め、透かし、ニオイを嗅ぎ、舐め…。
「舐めないで下さいよ!?」
「あっ!ごめんごめん…。何か天然物より真っ赤で美味しそうだったから…、つい…」
てへ☆
じゃないよ…。
あ~、焦った…。
「亜栖実さんの事だから、人工魔石の作り方くらいご存知だと思ってましたよ…」
「ん~、それって【空間属性】の子達の練習過程で出来る副産物みたいなもんでしょ?僕らは女神様から直々に魔法を習ってたから、何かそう言うのに疎いっぽいんだよねぇ…」
「女神様のお住まいになる空間では、様々な事が地上と違いますからねぇ…。魔力濃度も太古の昔から変わりありませんし、魔法の習得を目指すなら存外やりやすい場所ですからね?」
へぇ~。
確かに大気の魔力濃度が高いなら、自分の周りから魔力を吸収する方法さえ知っていればほぼ無限に魔法が撃てるもんなぁ…。
え、僕?
僕もブリーズ達からその方法を習ってたから、赤ん坊の頃とかよく使ってたよ?
赤ん坊の頃は魔力濃度は高いくせに魔力量的には全然少なかったから、よく魔力切れ起こして気絶してたっけなぁ…(笑)
そんなだったから、見かねたブリーズ達に教えてもらったんだよね。
とは言え、女神達のいる月とは違って大気の魔力濃度はそこまで高くないから、無限に魔法を放てる!何て事はなかったけどさ…。
「それにしても亜栖実さん、よく人工魔石を見つけられましたねぇ?ここ最近シエロ君が作り出した物以外には、天然物以上に珍しい代物ですよ?」
「あ~、実は今日さ?高等科の【魔導学】の講師して来たんだけど、その時にプロクスって生徒から人工魔石の付いたブレスレットを見せてもらってさ~?あれはきっと凄い魔道具技師が作ったに違いないよね?うん」
おぅ…orz
兄さん、また貴方ですかい…。
「あれ?シエロ君、どうかしたのかい?君が人工魔石を作って卸してるって聞いたからさ~、プロクス君の持ってるやつと似たような魔道具作ってくれるかどうか、是非とも職人さんに聞いてみたいんだよね?ねぇねぇ、どこに卸してるの?教えておくれよ♪」
全く、誰彼構わず見せびらかしおってぇ~(怒)
はぁ、今に始まった事じゃないか…。
あれでいて、学園内じゃクールな堅物男で通ってるんだから、詐欺も良いとこだよ。
「シエロ君、聞いてるかい?」
「えっ?あっ、すいません…。聞いてませんでした」
しまった、何の話しだったっけ?(汗)
「たくも~、しっかりしておくれよ。プロクスって生徒が人工魔石のブレスレットを持っていたって言っただろ?その子が持ってたのと同じ様な魔道具が欲しくてさ、何処に行ったら買えるかな?って話さ」
亜栖実さんは呆れた様に、でも丁寧にゆっくりとした口調で話しをし直してくれた。
記憶を弄ったばかりの僕を気遣ってくれたのかもしれない。
有り難い話しです、本当に…。
で?何だっけ?(笑)
そうそう、プロクス兄さんのと同じ様なブレスレットが欲しいんだっけ?
「ん~。兄さんに渡したのは、ミスリルのブレスレットの素体が手に入ったから作れたんですよねぇ…。アレと同じのが欲しいんだと、何処かでミスリルを見つけて来ないとなぁ…」
「ちょっとまった!」
露店商のお兄さんにでも聞いてこようかな~?まで考えていたら、亜栖実さんから突然ストップが掛かった。
え?急にどうしたんだろう…?
「今、もしかして【兄さん】って言ったかい?」
「言いましたけど…?プロクスは、転生先の家族で、今の僕の兄にあたる人ですから」
あっ、めちゃくちゃ驚いた顔してる。
いやいやいや、いくらなんでもファミリーネームで気づくだろ~?
なかなか他に【コルト】さんって居ないよ?
「はぁ~、そっか~。コルトかぁ~。そう言えばシエロ君ってコルトさんだったんだっけね?」
おぅ、まさかのそこからだったのか…。
そりゃ気づかない訳だ(笑)
「ん~?プロクス君が君のお兄さんなのは分かったけどさ、ミスリルの素体がどうのって話しはどゆこと?まさかシエロ君が作ったなんて言わな「シエロ君がお作りになったんですよ」OH…、マジdeathカ…」
亜栖実さんにコローレが割り込むようにして話しを進めた。
亜栖実さん、驚きすぎてカタコト?になってますけど、僕が魔道具研究会に行ってるの知ってるでしょうに…。
この間だって、一緒に行ったじゃないですか?
「だって、シエロ君まだ【見習い】だって言ってたから、魔道具何か作れないと思ってたんだもん…。僕はてっきり唯一作れるのが人工魔石だけだとばっかり…」
今度は僕が亜栖実さんに呆れ顔を披露すると、亜栖実さんは語尾を段々と小さくしながらごにょごにょと言い訳を始めた。
「じゃあ今のと、僕が亜栖実さんの話しを聞き漏らしたのはおあいこって事で…。教えて頂いている相手に、何の説明もしなかった僕も悪いですからね」
「ありがとう~☆」
亜栖実さんも大概スキンシップが激しいよなぁ…とか思いつつ、僕は暫く亜栖実さんの好きな様にやらせておいた。
自分が暴れなければ、首を締め落とされるリスクが軽減すると気が付いたからだ(笑)
――――――
「じゃあ、どの魔石をはめ込むのかは考えておいて下さいね?」
「了解☆なるべく早く考えておくよ」
亜栖実さんが少しならミスリル銀の塊を持ってると言うので、はめ込む魔石を決めてもらったらブレスレットに加工するという手筈になった。
とは言え、何の魔石をはめ込むかは亜栖実さんの宿題とするそうなので、今の時間は魔力操作の訓練も兼ねて、人工魔石作りを亜栖実さんの前でやってみせる事となった。
「どうせなら、今まで作った事ないのにしよう?基本の炎の魔石はさっき見せてもらったからさ?」
との亜栖実さんのリクエストで、今は何を作ってみせるか悩んでいるところ。
ん~、今まで作った事が無くて、この部屋の中にいる人が持ってる属性って言うと…。
「亜栖実さんの持ってる、【時空属性】で行きますか?あっ、もしそれが上手くいけば、この前裕翔さんが使ってた女神達との通信用魔道具も作れませんかね?」
「おー!確かにあれも時空属性の魔石から作られてるハズだから、イケるかもだね!?もしアレが増やせるなら僕も大歓迎だよぉ!!自然界に時空属性の魔石なんか出来ないらしいから、ブロナー様から頂いたアレしかなかったんだよねぇ~☆」
なるほど、あれはブロナー作の魔石だったのか…。
あっ!女神が作ったなら【人工】じゃなくて、天然物と同じになるんじゃね?
もしくは【神造】?
ん~、どっちにしても何か強そう(笑)
「まぁ、僕が作った物ではブロナーからもらった物と全く同じ物にはならないかもしれませんが、試しにやってみましょう。え~と、先ずは僕が核となる水晶を作りまして、次に亜栖実さんが時空属性の何か――魔力そのものでも良いんですが――を放出して頂きます。それで、その放出されたモノを僕が水晶に封じ込めたら、人工魔石の完成って言う流れになります。ここまでは大丈夫ですか?」
「なるほど、じゃあ僕は、シエロ君の準備が出来たところに時空属性の何かをぶっ放せば良いって訳だね?了解だよ☆」
うん、まぁ合ってるから良いか…。
んじゃあ、さっきからワクワクしっぱなしのお姉さんの為に、水晶作りから始めましょうかね?
水晶の大きさは、裕翔さんが持っていた奴を参考にして一丁作ってみますか!!
色々と学習したシエロでした(笑)
本日もお読み頂き、ありがとうございました。