百三十二話目 特別強化訓練開始の日
「よっしゃ!後校庭3周!!」
「は、い…」
亜栖実さんが学園に来てから約1週間が経った。
あれから放課後になると、校庭の片隅や寮周辺の森の中等、様々な場所で色々な稽古をつけてもらっている。
今日はたまたま校庭が空いてたんで、初日同様先ずは校庭50周!って事になりましたorz
まぁ、最初は100周!とかって言われたくらいだから、走る距離が半分に減ったと喜ぶべきなんだろうけど…。
因みにこの学園の校庭は1周大体300mくらいで、向こうの世界の校庭よりも約100mくらい長いから、50周もすれば15km走った事になる。
それだけでも体力がガリガリ削られていくのに、ここの構造上学園内全ての建物から校庭が丸見えなもんだから、さっきから1人で走る姿がめちゃくちゃ目立ってて、恥ずかしさから精神力まで削られていく…(汗)
「ほら、ペース落ちてるぞー!」
あー!お願いだからでかい声出さないで~!?
そして皆こっち見んな~!!
うぉー!後3周、早いとこ終わらせてやるーー!!(焦)
――――――
「ハッ!シュッ!たぁ!!」
「ふはははははは、ヌルいヌルい!そんな攻撃では僕を倒すことなど出来ないぞー!」
「それじゃあ、亜栖実さんが、魔王、みたいに、なってますよ!てやっ!」
マラソンした後はストレッチを入念にやってから、組み手の時間。
ストレッチ→走る→ストレッチ→組み手/魔術訓練の流れで、毎回大体2時間ずつ教えてもらっている。
訓練当初は僕が組み手をしている間も僕の周りを飛んでいた妖精達だったけど、亜栖実さんが【時空】属性持ちで妖精達にも物理攻撃が当たっちゃう事が判明してからは、首から提げてる魔石の中、もしくは魔石の中から出られないフロルを残して遊びに行ってもらう様になった。
因みに今日は、エカイユ(エストラ先輩のパパ)さんの所のクレイさんに2人して会いに行くって言ってたっけかな?
勇者一行のメンバーが真横についていてくれてるから、安心して出掛けられるわ!
とはブリーズの言葉。
はぁ、僕って本当に信用ないよなぁ~…。
「ムフン、隙有り!シエロ君、油断は禁物じゃぞぉ~☆」
「うわっ!?はっ、はい!」
うわわわわ!
亜栖実さん、隙をついてセクハラして来ないで!尻揉むのだけは勘弁してぇ~(泣)
――――――
「シエロ君、大丈夫かい?」
「あはは、大丈夫ですよ~…」
本日の訓練が思いがけず早く終わったので、久しぶりに~と部活へ顔を出したら、部屋に入った途端に部員全員から心配されたでござる…orz
ん~、そんなにくたびれた顔してたかな~?
「顔では無く、足が生まれたての小鹿の様だからでは?」
「うわっ!?コローレいつの間に…」
「先程からお声をかけていたのですが…。貴方様がお気づきにならなかっただけですよ」
oh…、マジか…。
「来てくれたのは嬉しいのですが、今日は寮で休んだ方が良くないです?」
「まぁ、先ずはそこに座って一休みしてからにしたら?ほら、果実水。ゆっくりしてきなよ」
テーブルの上で作業をしていた手をわざわざ止めてまで駆け寄ってきてくれたイド先輩に和みつつ、僕はエストラ先輩に促されて手近なイスに腰を下ろした。
あぁ、何だか今日の僕は、先輩方の優しさが身にしみるぜ。
「何か僕がシエロ君をイジメてるみたいじゃないかぁ~!?ブ~ブ~!」
あっ、亜栖実さんも一緒に来てたの忘れてたや(笑)
声のした方を見ると、亜栖実さんは入り口の辺りでブーブー言っていた。
って言うか…。
あれ?何で入ってこないの?
「シエロ君、あれで亜栖実さんは人見知りするんですよ…。シエロ君が中に招き入れてあげて下さい」
中々入ってこない亜栖実さんに困惑していると、コローレがコソッと耳打ちしてくれた。
えぇ~?
だって遠足の時はそんな素振り全然…。
「あの時は、初日だからと無理をしていたようですよ?」
なるほど…。
所謂初日ハイと言うやつか?
「シエロ君!あの方ってもしかして、今年1年間限定で臨時教師を引き受けて下さった勇者様御一行のアスミ・ウエサカ様じゃなくて!?」
近い!
久しぶりに近い!!
亜栖実さんに声を掛けようとして顔を上げた瞬間、目をキラッキラさせたリペア先輩がグイグイ突進しながら聞いてきた…。
くっ!相変わらず強い!!
僕はこの時、余りの剣幕で襲ってきたリペア先輩に圧されて、亜栖実さんの表情の変化に気が付く事が出来なかった…。
まるで此方を睨み付ける様に観察している、亜栖実さんに…。
◇◆◇◆◇◆
「はぁい、裕翔☆愛しの亜栖実ちゃんだよん!」
《やっと連絡してきたと思ったら、何馬鹿な事やってんだよ…。で?どうだった?》
ちぇっ、相変わらずノリが悪いんだからな~。
僕が連絡したのは、ユウト・シライシ。
僕らが所属するパーティーのリーダーだ。
そりゃあ~、一週間も連絡し忘れてはのは悪かったけどさ~?
「うん、可愛い男の子だったよ?それとさ、このテレビ電話を作った子達の1人だった」
《マジか?これ超便利だからな!狙われるのも当然かもしんねぇな?》
「ん~、狙われてるのはまた違う理由だと思うんだけどに~?それより裕翔、ちょっとこっちに来られないかな?」
このまま裕翔と馬鹿談議してても楽しいんだけど、流石に時間が無いからさっさと本題に入る。
すると、此方の意図を汲んでくれた裕翔が真面目な顔を作って聞く体制に入ってくれた。
こういう時、裕翔は話しが早いから好きだよ☆
《どうした?何か厄介事か?そのシエロって子が操られてるとか?》
「いや、流石にそういうんじゃないと思うんだけど、何かチグハグな子でね?僕じゃイマイチ掴めなかったんだけど、何て言うか違和感があってさ…?」
出会った初日から拭えなかった違和感…。
クラさん…――今はコローレ君か――が付き従ってなければもっと分かり易かったのかもしれないけど、とにかく彼を見てると何かがズレている気がして気持ちが悪かった。
だから、あっちから訓練を申し出てくれた時はラッキーとも思ったんだよね?
違和感の正体が掴めるかもっ、てさ…。
「たぶん、裕翔なら何か分かるかもしれないと思ってね…」
僕がそう説明すると、カード越しの裕翔は暫く考えた後、
《分かった。まだ居場所も掴めてない様な状態だ、他のメンバーに連絡したらそっちへ行くよ。明日は太陽の日だから、学園も休みだろ?》
と言ってくれた。
「ありがとう。じゃあ彼にもそれとなく伝えておくから、明日は宜しくね?」
《任せとけって!んじゃ亜栖実、お休み》
「うん、お休み…」
《プツッ》
電話を切って、暫し考える。
まだ消灯には早いから、彼は起きているだろう。
明るくて朗らかな、あの少年が見せる違和感の正体は何なんだろう…。
僕を師と認めてはくれても、前世の話しはもとより自分の名前すら教えてくれない所も違和感と言えば違和感なのだけれど…。
「あ~、難しい事考えるのは苦手なのに!ふぅ、あんなに人懐っこいのに、人に興味がないってのも可笑しな話しなんだよなぁ…」
僕はぼんやり椅子に腰掛けながら、天井の染みを見ていた。
まぁ、明日になれば分かる、のかな?
僕は明日、裕翔が此処へ来る事を彼に報せる為に、学園から与えられた部屋を後にした。
7歳児に15km走れという鬼畜系女子と、1時間以内に15km走る7歳児(笑)
本日もここまでお読み頂き、ありがとうございました。