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百二十四話目 進級後初授業の日



 鼻血は出るわ、鼻に布を突っ込んだ姿を食堂のおばちゃんに見られて笑われるわで、踏んだり蹴ったりなランチタイムを過ごした明くる日。



 いよいよ僕は、2年生になってから初めての授業の日を迎えた。


 初授業は、1年生の時同様【魔術】。


 場所も前回と同じ屋外実習棟だったので、クラスメイト全員でゾロゾロと向かう。


「昨日も思いましたが、私達が通っていた頃よりも綺麗になりましたねぇ…」


 僕の隣を歩くクラレンス…、もとい、コローレがヒソヒソと話しかけてきた。


「そりゃあ、あんた達が通ってた40年前に比べたら建て直しだってするもん。綺麗でしょうよ…」


「シエロ様、気のせいか私に対する扱いが雑になっていませんか?」


「あ?別に変わりゃしないよ?それと、あんまり人前で様付けで呼ばないでくれる?」


「えっ?えぇ…分かりました。シエロ【君】」



 はぁ…。


 そりゃあ雑にもなるだろうさ…。


 こちとら死んだと思って2ヶ月泣き続けてたって言うのに、その死んだ奴がひょっこり同級生になって帰ってくるんだもん。


 気持ちもスレるってもんだよ。


 あ~、その他に雑になる理由がまだあるとするなら、こいつが何処にでもついて来るって事も要因の1つかもしれないな。


 なにせ名前もコローレ・シュバルツcolore・schwarsだから出席番号も僕の次だし、それに準じて席順も僕の後ろ。



 癒やしのデイビッド君は席が1つ分遠ざかるし、休み時間になればコローレはトイレにまで付いて来る――女子か!!――。


 挙げ句の果てに寮の部屋も僕の隣の307号室ときたら、流石にウンザリもするだろ…。



 はぁ。


 昨日までは会いたくてしょうがない人だったはずなのに、たった1日で会いたくない人になりつつあるのが悲しい…。



――――――


「皆さん、新学年になってから初めての授業は魔術です。皆さんにはいつもの様に、目の前にある的を壊して頂きたいと思いますが、先日までよりも少し、的が壊れにくくなっていますので注意して下さい。何故なら今年度から皆さんも先輩方と一緒に遠足へ出掛ける事になるからです」


《ザワッ!》


 入学したての時同様、一列に並んだ人型の的――僕は彼らを的場君と名付けた――の前に僕達は出席番号順に並ばせられている。


 ランスロット先生の口から、的場君の強度の説明が出た後で、今年から始まる屋外遠征実習、略して遠足の話しが出た。



 2年生に上がった時点で皆遠足の話しで持ちきりだったから、否が応でも盛り上がるってもんだよね?


「はい、お静かに!ですので、今年度からの魔術の授業は精密さと攻撃力を重視してお伝えしていきたいと思います。せっかくの毛皮や肉が駄目にならない様な魔法の使い方とかも、お教えしますよ?」


 先生のそんなドヤ顔を余所に、魔物を倒す数を競おうと言い出す者が出る中、去年の6年生の凄惨な現場を知っている僕は違う事を考えていた。


 どうやらクレアさんも僕と同じだったのか、1人下を向いて何事かを考えている様だ。



 【戦場でああなった場合、果たして治しきれるのだろうか】


 僕が考えていたのはこの問題について。


 このクラスに回復役は2人だけ。


 もしかしたら他のクラスにもいるかもしれないけど、前回の騒動の時、僕ら以外の1年生は見つける事が出来なかった。


 もしいないのならば、戦闘もしながら他のクラスの分も合わせて116人、僕とクレアさんを抜かしたとしても、114人の生徒の命が僕ら2人にかかっている事になる…。


 ランスロット先生もいらっしゃるし、やれないことはなさそうだけど、もし、回復役が誰か1人でも欠けたら…。



「シエロ君。何もそう気負わずとも宜しいのですよ…。今年からは私もおります。回復はおまかせ下さい?」


 え?


 思わず隣を見ると、ニヤリと不敵に笑うコローレが居た。


 あっ、そうか…。


 コローレは光の精霊で、しかも神父をやっていたくらいの回復魔法の使い手だったっけ。


 家にはベアードのじっちゃがいるけど、診察料が払えないお家の人は教会を頼る。


 そんな人達の治療を一手に引き受けてきた人が、僕の隣に居てくれるのはとても心強く思えた。


「そっか…」


「そうですとも。それに、貴方様のお作りなられる魔道具を各班に持たせる事が出来れば、回復役の負担も少しは軽くなりましょう」


 回復用魔道具を量産して、各班に配布する?


 そんな事、考えてもつかなかったや…。


 流石はステータスカードを作った張本人!!


「よし。じゃあ早速放課後、スクルド先生に掛け合ってみるよ。ありがとう、コローレ!」


「それでこそシエロ君です。フフフ、私もお手伝い致しますよ♪」


 そう言って、コローレは小さく笑った。


 何だか心が軽くなった気がする。


 あ~、放課後が来るのが楽しみだなんて、久しぶりだなぁ☆



「はい、静かに!!先ずは、前回の授業のおさらいと参りましょう」



◇◆◇◆◇◆


 良かった。


 何とか俯いてしまったシエロ様のやる気に、火を着けることが出来た様ですね。


 昨日久しぶりにお会いした彼は、見る影も無いほどに覇気も気力も欠けていた。


 私のせいだろう、とは自惚れを抜きにしても思った事だ。


 しかし、そんな彼が私の姿を見るなり驚愕に満ちた顔をして、腕や頬をつねりだした時は少し焦った。


 彼は一瞬にして確実に、私の正体を見抜いたのだから…。


 いくらなんでも、バレるのが早すぎる!


 あの時そう思いはしたが、今は寧ろ、あの時バレてくれて良かったとも思っている。


 でなければ、今の様に助言をする事も、彼の心からの笑顔を見る事も出来なかっただろうから。


 フフフ、その為に貴方様に一日中付きまとったのですから、【ウザい】くらい思ってもらわねばこちらも張り合いがありませんよ…。



「次に、この的を壊してみましょう。どれほど強度が上がったのか、実際に試して見て下さい。では、先ずはコローレ君。先に試して見て下さい。貴方の魔力制御力を見てみたいと思います」


 おや、私からですか…?


 普通こう言う場合、他の生徒がお手本を見せてからでしょうに…。


 はぁ、ランスロットもまだまだですねぇ?


 どうやら先入観を無くしたかった様ですが、それにしても、ねぇ?


 まぁ、良いでしょう。


「的を壊せば宜しいのですか?」


「えぇ、先ずは攻撃魔法の威力を見ますので、思いきりどうぞ?」


 思いきり、ねぇ?


 本当に思いきりやったら、この屋外実習棟が壊れますよ…?


 とは言え、あまり弱くても目立ちますし…、加減が難しいですね…。


 えーと、確か2年生の的の防御力は【ラビッス】くらいでしたか?


 あぁ、ラビッスとは全長4~50cmくらいのネズミとウサギの間を取った魔物の事です。


 その皮も肉も更には骨すらも使える為、初心者冒険者達の格好の獲物になっている魔物なのですよ。


 この様に3年生では野生の猪、4年生では熊等、学年を上がる事に的の防御力も比例して上がります。


 6年生は、リトルリザードくらいの防御力でしたかね?


 ふむ。


 まぁ、今回はラビッスの首に穴を開けるくらいの威力があれば充分でしょう。


 あぁ、面倒くさいですが、軽く呪文の詠唱もしておきますか…。


 極力目立たない為に…。



「飛べ、ライトアロー」



◇◆◇◆◇◆


 コローレが一言囁く様に紡ぎ出した言葉は、そのまま光の矢となって、的場君の首辺りを穿った。


《ゴキッ》


 鈍い音を立てて的場君の首が曲がる。


 そして、首に刺さった光の矢が消えるのと同時に的場君の体はガラガラと崩れ落ち、塵となって消えた。



 派手だなぁ~。


 的場君が一発KOされちゃったや。


 周りの生徒達も俄かに騒ぎ出したし、こりゃ~面倒な事に…。


「今のシエロも出来るか?」



 ほらね?


「あ~、僕光属性の攻撃魔法ってまだ覚えてないんだよ…」


 ルドルフを諭すように説明するけど、明らかに信じてませんって顔をしてる…。


 ん~、本当なんだけどなぁ。


 同じ光属性持ちでも、回復特化型の姉さんに攻撃魔法を教えてなんて言えなかったんだもん。


 だから、口をそんなに尖らせたって出来ないもんは出来ないんだってば!!


「コローレ君、ありがとうございました。では、続けて参りましょう。今度からは出席番号順に行きますよ?」



 あっ!ほら!!ルドルフ、今度は僕達の番だってさ!!


 アレックス君が的を壊すよ?


 彼より派手な魔法を撃つんでしょ?






シエロよりも自重が上手い?コローレでした(笑)


本日もお読み頂き、ありがとうございました。



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