閑話 ある日のシエロ君
あれ?シエロ君だ…。
僕が太陽の日に彼を見つけたのは、とあるお茶屋さんの前でだった。
彼はお店の中で真剣な顔をして、幾つかの種類のお茶を手に取って選んでいたんだ。
決して大きなお店じゃないけど、老舗っぽいお店にいるちびっ子はシエロ君だけだったから、凄い目立ってた。
あっ、決まったみたい…。
「シエロ君、お買い物?」
お店から嬉しそうな顔で出て来たシエロ君に、僕はそう声をかけた。
「あっ、デイビッド君。うん、もうすぐ長期休みに入るでしょ?家族にお土産を探してたんだ」
あっ、そっか…。
来月にはお家に帰れるんだったっけ。
あんなに楽しみにしてたはずなのに、いざとなると忘れてるなんておかしいね?
「でも、出歩いてて大丈夫?シエロ君、ここんとこ体の具合が良くなかったでしょ?」
実はこの間、シエロ君は学園内をうろついていた怪しい人に襲われちゃったんだ。
すぐに先生達が助けてくれたからシエロ君に怪我はなかったらしいんだけど、その怪しい人にかけられた魔法のせいで体が思うように動かないんだって、ルドルフ君から教えてもらったんだけど…。
「あぁ、アレね?本当はもう大丈夫なんだよ。平気だって言ってるのに皆大袈裟だからさ~?」
あはは、と笑う彼は、本当に元気そうに見えた。
良かった。
やっぱりシエロ君はこうでなくちゃね?
「あっ、そうだ!デイビッド君。そこに立ってさ、ちょっと笑ってみてよ?」
シエロ君が【そこ】と指さしたのは、お茶屋さんの看板の前。
ここに立って笑う?
不思議に思いながら彼の方を見るけど、シエロ君は早く早くと急かすだけで、何も答えはくれなかった。
まぁ、シエロ君だしなぁ…。
きっとまた何か企んでるんだろうなぁとか思いつつ、彼に言われた通りの場所に立ってみる。
「ほらっ!笑って?」
こうかな?
《パシャ》
僕が軽く笑顔を作ったその時、前方から小さな破裂音が聞こえてきた。
思わず身構えてしまったけど、すぐにシエロ君が持っている魔道具から聞こえてきた音だと言う事に気が付いたんだ。
いつの間にか彼の手の中に握られていた小さな箱。
それは不思議な形をした窓と、下の方に細い穴が開いている、おかしな形の箱だった。
「シエロ君、それなぁに?」
僕がそう訊ねると、シエロ君は
「これはね?【カメラ】って言うんだ。まぁ見ててね?」
とだけ返して、持っていた魔道具を見つめだした。
まぁ、見てろって言うなら見てるけど…。
「あっ!何か出てきた!!」
すると、その【かめら】って箱を見ていたら、下の方に開いた細い穴から紙が1枚出て来たんだ。
ただの紙みたいに見えたけど、渡された紙を見ていたらジワジワ~っと絵が浮かび上がってきてね?
なんかのシミみたいだったのが、段々と僕の顔になっていったんだよ!?
「うわぁ!僕が絵の中にいるよ!?凄いね?これもシエロ君が作ったの?」
「うん。これはこんな風に人や物、風景なんかを自動的に絵にしてくれる魔道具なんだよ?」
「ふ~ん」
僕には難しくて感心する事くらいしか出来なかったけど、シエロ君はこの魔道具の試運転を兼ねて街や学園の中の様子を写していたんだって。
これも家族へのお土産になるかな?って照れ笑いしながら、僕に教えてくれたんだ。
その後、少し話しをしてから彼とは別れたけれど、今頃はどんな場所を写してるのかな…?
考えただけで、何だか僕は楽しくなった♪
◇◆◇◆◇◆
あれ?シエロ君ッス!
実はあっし、寒くなる前にと思って友達と一緒にマフラーを編んでいたんスね?
けど、後ちょっとってところで肝心の毛糸が足りなくなっちまったんで、街に買い出しに来たんスよ。
そしたら偶然同じ手芸店にシエロ君が居たんで、嬉しくなって声をかけてみたんッス。
「あっ、スミスさん。珍しいですね?スミスさんが手芸屋に来るなんて…」
うぐっ、この人は本当に、可愛い顔して痛いところをついてくるッスねぇ…。
確かに手芸は苦手っしたけど、最近は楽しくなって来たんスよ?
「シエロ君と、シャーロットちゃんのおかげで、手芸も楽しくなって来たっスからね?今日は毛糸が足らなくなっちゃったんで来たんスよ」
「あぁ、クレアさんとマジョリンさんと一緒に編み物してるんでしたよね?」
はぁ~。
一度チラッと話しに出ただけの事を良く覚えているもんッスね~?
流石は学年1位の成績の人は違うもんッス…。
いや、そんな事よりもさっきから気になって仕方がない事があるんスよ。
「シエロ君。そんなにいっぱいの布地、一体どうするんスか?」
そうなんッス。
シエロ君ったら、両手に山ほど布地を抱えていて、一瞬布地のお化けが歩いてくるのかと思ったくらいなんスよ。
「あ~、驚きますよね~?よいしょっと。王都でしか見つからないような布地がいっぱいあったんで、母様達にお土産をと思いましてね?それと、妹に新しいスカートでも作ってあげようかなって」
スカート!?
そんなの、素人が作れるもの何スか?
うわ~、やっぱりシエロ君はあっしよりも女の子力が高いッスね~…。
あっそうそう、前に見せてもらった妖精ちゃん向けのお洋服もめちゃくちゃ可愛かったスもんね?
あんな可愛い服が着られるんスから、シエロ君の妖精ちゃん達は本当に幸せ者ッスよ…うんうん。
「あっ!シエロ君、あっしにも作って欲しいッス!!」
「マジっすか…。あぁ、でもスミスさんが好きな反物買って、持ってきてくれるなら作りますよ?あんまり動き回るなって言われてて、毎日暇してるんで…」
あれ?
絶対断られると思ってお願いしたのに、あっさり許可されちゃったッスよ!?
あっしが言い出したくせに何なんスけど、シエロ君にはまだ安静にしてて欲しいッス!!
「じゃあ、シエロ君が元気になったらお願いするッス。今シエロ君にそんな事頼んだら、部長に殺されるかもしれないッスからね!!」
「マルクル先輩に黙っとけば大丈夫じゃないですか?」
全然だいじょばないッス!
「アハハハハ」
いや、あははじゃないッスから!!
◇◆◇◆◇◆
朝、比較的早い時間に出て行ったはずのシエロと、露店街でバッタリ出会った。
「あっ、ルドルフ。こりゃまた珍しい所で会ったね?何か買い物?掘り出し物でもあった?」
脳天気そうな顔してヘラヘラ笑ってたけど、ちょっと膝を痛そうに引きずっているのが気になった。
「お前病み上がりのくせしてどんだけ歩いたんだ?こっち来い!せめて座ってろ!!」
体がまだダルいくせして、こっちに気ばっかり使ってるシエロに何だか無性に腹が立って、俺は近くにあったベンチに半ば無理やりシエロを座らせた。
「ちょっ、ちょっとルドルフ!?僕は大丈夫だってば…」
「嘘つけ!さっき片足引きずってたじゃねぇか!?体、しんどくなってたんだろ?」
「……………」
ほ~ら、図星って顔してるじゃねぇか…。
シエロはすぐに顔に出るから、すげぇ分かりやすいんだ。
「ったく…。お前どんだけの時間街ん中歩き回ってたんだ?」
「うっ…。怒らない?」
「それは、お前の答え次第だな」
「………」
はぁ…。
そんな怯えた様な顔しなくても、別に怒りゃしないんだけどなぁ…。
それとも、そんだけ長い時間歩き回ってたって事か?
一体どれくらい彷徨いて…。
「4時間…」
ん?
「よっ、4時間…」
「はぁ?4時間!?お前ぇ~~」
4時間って事は、朝飯食ってから今まで歩き通しって事じゃねぇか…。
こいつは色んな事に頓着しない奴だけど、何で自分の体調にすら無関心でいられるんだ…。
思わず頭を抱えた俺を見て心配そうな顔で覗き込んできたけど、せめてその何分の1でいいから、その優しさを自分に向けてくれよ…。
「あ~!もう!!」
ちょっとイラッとした俺は、シエロの柔らかい髪の毛をわしゃわしゃかき乱してやった。
「うわわ!?ルドルフ何すんの?」
「うっせ!無茶ばっかりしやがって!!ほら、次は何処行くんだ?俺が止めたって動き回るんだろうから、俺がおぶって連れて行ってやるよ!」
俺の唐突な提案にシエロがキョトンとした隙をついて、さっと背負ってやった。
「あっ!?ちょっとルドルフ!僕1人で歩けるったら!!」
嘘つけ…。
シエロの体はこっちがビックリするくらい軽くて、いつもあんだけ食べてる物がどこに消えてるんだろうと思える程だった。
全く、本当にこいつは無茶ばっかりだ…。
「本当に歩ける奴は、こんなにぐったりしてね~よ!ほらっ、次は何処へ行きたいんだ?俺が何処へでも連れて行ってやるから」
仕方ねぇから、こいつが無茶ばっかりしないように側に居てやるか!
◇◆◇◆◇◆
あら?
あれはシエロ君と、お友達のルドルフ・エルリック君ね?
あら?
あらららら?
あら~♪
仲良さげに話していたと思ったら、今度は強引にベンチに引っ張って行って何か言ってるわね?
えっ?
うわわわわ♪
今度はおんぶしちゃうの?
うふ、うふふふふふふふ。
こいつは良いものを見させて頂いたわねぇ♪
さっ、早く家へ帰ってノートに今の感動を綴らなくちゃ!!
私ことサキ・ウェッジストーンは足取りも軽く、ルナー寮へと帰って行ったのでした☆
休日のシエロを見かけたクラスメイトの反応色々とそれを見かけた腐女子でした(笑)
さて、これにて閑話もお終いです。
次からは新章が始まりますので、またお楽しみ頂けたら嬉しいです。
本日もお読み頂き、ありがとうございました。