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閑話 乙女心と秋の空



「そこは、そうして毛糸を潜らせるのです…。そうそう、お上手ですわよ♪」


「む~、編み物は難しいッスね~…。これが金属ならもっと上手く扱えるんスけ…ど!あぁ!?編み棒が抜けちゃったッス!!」


「まだ大丈夫、修復可能域ですわ。頑張って!」



 あら?これは申し遅れました、私は聖ホルド学園所属のシャーロット・クレアと申します。


 以後、お見知りおき頂けたら嬉しいですわ?


 今私は、クラスメイトのゾーイさん、ルーナスさんとご一緒に編み物に勤しんでいる所でしたの。


 これから寒い季節になりますから、その為に自分用の――。


「キシシ、本当に自分用なのかい?」


「え?えぇ、はい。これは確かに自分用ですわ?でも何故です?この毛糸は3人で買いに行った物ではありませんか…」


 ルーナスさんは、時々掴み所のない事を仰っては私達を煙に巻くことが御座います。


 今のお言葉も、どういう意図がお有りになっての発言なのか、伺ってみないと分からない…。


「あたいはてっきり、シエロっちに渡すのかと践んでいたんだがねぇ?キシシシシ」



 シエロ様に?


 私が編んだマフラーを?


「フフ、イヤですわルーナスさん。シエロ君は私などよりも、ずっと編み物がお上手じゃありませんか?その様な方にお渡しするなんて、此方が恥をかくだけですわよ?」


 シエロ様は私のクラスメイトで、私のお父様のご友人の息子さんです。


 そのシエロ様は手先が本当に器用でらして、魔道具作りからドレス作りまでなさる素晴らしいお方なのですわ。


 その様な方に、私が編んだ不恰好なマフラーをお渡しするなんて、想像もつきません。


 ですから、その発言をなさった時のルーナスさんのしたり顔があんまり可笑しくて笑っていると、ルーナスさんとゾーイさんに揃ってため息をつかれてしまいました。


 あら?


 私、何か可笑しな事を言いましたかしら…?


「シャーロットさん。いくら鈍いあっしでも今のは分かったッスよ?ルーナスさんは、シャーロットさんがシエロ君の事が好きなんでしょ?って聞いてるんスよ!!」


「真っ正面から聞いてみたつもりだったんだけどねぇ?まさかこれでも気付かないとは…。いやはや恐れ入ったよ…」


 呆れ顔をしながらも、お2人はそう私に教えて下さいました。


 と、言いますか…。


 今、何と…?


 私が、シエロ様を、すっ、好き?


「えぇ!?」


「おや?違ったかい?あんだけ好き好きオーラが出ていたから、てっきり好きなんだと思っていたけどねぇ?キシシ」


 顔が急速に熱くなるのを感じます。


 もう10月も半ばだと言うのに、顔が火照って仕方がありません。


 もう、お2人してニヤニヤと笑うだなんて!


 私をからかっておいでなんですね?


 あぁ、でもどうしましょう!


 顔の火照りが止まりませんわ!?


「ちっ、ちょっと私、外の空気を吸って参りますわ!!」


 一刻も早く、頭を冷やさなければ!


 私は慌ててお部屋から飛び出しました。



「あ~あ、シャーロットさん行っちゃったッスよ?」


「キシシシシ、うぶだねぇ?」


 お部屋の中からお2人の声が漏れ聞こえて来ますが、私はそれに構う事なく廊下を歩いていきました。


 出来るだけ私のお部屋がある、3階から離れたかったのです。


――――――


 あぁ、まだ顔が熱い…。


 顔の火照りが無くなるまでと歩いていたら、いつの間にか1階のラウンジの近くまで歩いてきていました。


 はぁ…。


 どうせ此処まで出てきてしまいましたし、このまま寮の外まで出て、本当に外の空気を吸っていきましょうか…。



「あれ?クレアさんじゃないですか?こんな時間にラウンジに来るなんて珍しいですね?」


 シエロ様!?


 あぁあぁあ、何という時にお会いするんでしょう…。


 もう少し平常心の時にお会いしたいものですわ!!


 何故こんな、消灯前のちょっとした空き時間にこんな所にいるんですの!??


「ち、ちょっと外の空気が吸いたくなりましたの…。シエロ君こそ、どうして此方に?」



 声が裏返りましたわーーーーー!!


 あー!恥ずかしくて死にそうですのーー!!


「僕も、外の空気が吸いたくて…。と言いますか、今僕の部屋に妖精が遊びに来てましてね?あんまり姦しいので、男2人で逃げてきたんですよ」


 私の声の裏返りに気付かなかったのか、庇って下さっているだけなのかは分かりませんでしたが、暗にご自分の部屋の中が五月蝿いと苦笑気味に語ったシエロ様の胸元に、この頃いつも首からぶら下げている樹花属性の魔石がありました。


 そう言えば、シエロ様のこの魔石の中には、小さな妖精さんが住んでいらっしゃるんでしたわね?


 確かお名前は…、そう!フロル君ですわ。


「こんばんは、フロル君。良い月夜ですわね?」


 私には彼の姿も、お声を聞く事も出来ませんが、以前魔道具をお借りした時の愛らしい姿を思い浮かべながらご挨拶をしました。


 すると、フロル君も私にお返事を返して下さっているかの様に、魔石がポウッ、ポウッと2回程淡い光を点滅させたのです。


「フロル、クレアさんに会えて良かったな~?」


 そうフロル君に向かって穏やかに笑うシエロ様は、いつもよりも大人っぽく感じられました。


 普段の活発なシエロ様も素敵ですが、こんな風に穏やかに微笑まれているシエロ様も本当に素敵です。


 はぁ…。


 本当にこの方はお綺麗なお顔をしておいでですわね?


 私はシエロ様のお顔を見ると、いつも胸がドキドキして失敗ばかりしてしまいます。



 この感情が、殿方に対する感情なのか、シエロ様が綺麗すぎて目を奪われているだけなのかは、私にはまだ分かりません。


 しかし、この様に穏やかでゆったりとした時間を過ごされているシエロ様のお隣に座っていられる事は、幸せな事だと思えてならないのです。


「あっ、そうだ。先日外へ出た時ご一緒した際に見つけたペンダントトップ、あれ魔石だって言ってたじゃないですか?」


「えぇ、ですが小さ過ぎて魔道具には向かないと…」


「スクルド先生にお伺いしてみたんです。そしたら、上手いことやれば魔道具に転化できるかもしれないと仰られていて――」


 楽しそうに魔道具についてお語りになるシエロ様。


 まだ胸のドキドキは治まりませんが、部屋から出て来た時の様な顔と頭の火照りは、いつの間にか治まっていました。



 消灯まで後ちょっと…。


 本当に時間が止まってしまえば良いのに…。





消灯前の短い自由時間での一幕でした。


ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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