百二十話目 信じられない事が起きた日
1月22日の更新です。
今回ちょっと鬱回となっております。
苦手な方はご注意下さい。
たぶん、何かあったら呼べ!的な事を女神達に言われてから1月半くらいが経った。
休みって言うと、時の流れが早まるのは何故だろう…?
その間に僕の誕生日があったり、両親にねだられてポラロイドカメラを作ったり、妖精の姿を映すモノクルを作ったり、妖精達にせがまれて新しい洋服を沢山作ったり…。
あれ?
僕あんまり休んでなくね?
………………。
まっ、まぁ、そうやって楽しく冬休みを満喫していた時だった。
「シエロ様、面に教会から使者がいらしております。旦那様、奥方様もご一緒に教会へお越し下さる様にとの事ですが…。如何なさいますか?」
「教会から?何かあったのかもしれないね…。良し、分かった。リーベを呼んできてくれるかい?シエロ、君を御指名の様だから行くよ?」
いつも突然スッと現れるジュリアさんが、珍しく息を切らせながら伝言を持ってきた。
何故父さんでは無く、僕の名前を先に出したんだろう?
あっ、また何か悪巧みでも思い付いたのかな?
何て、教会から呼び出された事を僕は軽く考えていた。
この時、までは…。
――――――
「嘘、ですよね?」
僕達が教会へ到着すると、いつも何処か明るく和やかな雰囲気のこの場所が、どんよりと暗く、重々しく静まり返っていた。
馬車の止まる音に気が付いたのか、慌てた様子のランパートさんが表に飛び出して来て、僕を見つけた途端にその場で泣き崩れた。
ただ事ではない彼の様子に、慌てて駆け寄った僕の体にしがみつきながら、ランパートさんはこう言った…。
「シエロ様、クラレンスが亡くなりました」
と…。
え?
目の前が急速に暗くなるのを感じる。
えっ?
だって、この前会ったばかりだよね?
え?
精霊って、【死ぬ】の…?
えっ?
だってさ、ブロナーは大丈夫だって言ったよね?
僕は余りの衝撃に、ランパートさんに引きずられる様にその場へへたり込んだ。
――――――
そこからどうやって礼拝堂に入ったのかは覚えていない。
気が付いた時には真っ白な棺の前に立たされていて、両脇に立っていた両親に促され、棺の中を覗いていた。
先ず最初に、腕が見えた…。
続いていつも着ていたカソック、そして…顔。
クラレンス神父の顔は、殆どの部分が包帯で隠れていたけど、閉じられた目と薄い唇を見て、コレが彼なのだ、と言う事が分かった。
ランパートさんが教えてくれたんだけど、クラレンス神父が亡くなったのは昨日、街の外れにある森の中でだったそうだ。
ちょっと薬草を摘みに行くと言って出掛けた神父様がいつまで経っても戻って来ず、それを心配したランパートさんが森へ様子を見に行った。
そしたら彼が…。
ボロ雑巾の様な状態になったクラレンス神父が、森の奥深くで倒れていたらしい。
ランパートさんはすぐに駆け寄り、声を掛けながら懸命に回復魔法を掛けたそうなのだけれど、クラレンス神父の意識が戻る事はなかった…。
何度も何度も回復魔法を唱えたけれど、魂が無くなった身体では決して傷は癒えず、そこで神父様はもう戻って来ないのだ、と悟ったのだそうだ…。
最初こそ僕の腕の中で泣いていたランパートさんだったけど、気丈にクラレンス神父のお葬式を仕切っていた。
時折聖書を握る指が強ばったり、聖句を唱える唇が震えていたりしたけれど、彼は立派に式をやり遂げてみせたんだよ?
それに対して僕ときたら…。
クラレンス神父の眠る棺をボーッと見つめながら、めそめそ泣いていただけ…。
情けない奴…。
頭は意外な程ハッキリとしていて、何処か他人事でそんな冷めた様な事ばかり考えていた。
けれど、とにかく胸が痛くて痛くて、無理矢理体の一部が引きちぎられる様な痛みを感じて苦しくて…、涙が後から後から止まらなかった。
フフフ…。
今考えれば可笑しな話しだよね?
クラレンス神父とは大して仲が良かった訳でもないし、長い付き合いがあった訳でもなくて、むしろ此処に来られなかったランスロット先生や、アーサー祖父さんの方がこの場に相応しいのに…。
そう思ったらまた涙が零れそうになって、でも誰にも涙を見られたくなくて、ベッドの上に突っ伏して声を殺してまた泣いた。
さっきから妖精達が心配そうに僕の周りをぐるぐると飛び回っているし、早く泣きやまなくちゃいけないのに…。
そう思えば思う程、何故か涙が止まらなくて、自分自身が情けなくてどうしようもなかった。
シルビアーナ、スカーレット、ブロナー!!
何かあったよ?
大変な事があったんだ!
またそっちへ呼んでよ?
今、どうしても話したい事があるんだ!!
――――――
何かあったら私達を呼ぶと良い、何て言ってたくせに…。
いくら僕が呼びかけても、待てど暮らせど彼女達の住まう場所への扉は開かず、イタズラに時間だけが過ぎていった。
そして、いつの間にか始めての長期休みも終わってしまい、僕は気持ちの整理もつかず、どこかぼんやりした気持ちのまま学園へ帰る事に…。
あれだけ楽しみにしていたテレポート装置の話しも、ジャスミン先生のお話も聞く気が起きなかった。
テレポート装置で帰ってきた僕達兄弟を迎えてくれたジャスミン先生への挨拶もそこそこに、寮へ戻る途中でランスロット先生の顔を見たらまた泣けてしまった。
突然泣き出した僕を見て、始めは狼狽えていたランスロット先生だったけど、僕の話しや隣に居た兄姉の話しを聞いているうちに顔が強張り、顔色がドンドンと悪くなっていった。
その後、ランスロット先生は僕達と別れた後で、その日の内にクラレンス神父の眠る教会を訪ね、最後の別れを済ませてきたそうだ。
そこでうちの祖父さんと鉢合わせして、一晩クラレンス神父との思い出を語り明かしたと教えてくれた。
別れは寂しいものですが、彼が生きた世界を彼の分も楽しまなければいけませんね?
と付け加えながら…。
そうして、彼の周りの仲間達が次々と立ち直り、前に進んでいく中で、僕だけが同じ場所に取り残されたまま、2年目の春を迎える事になった。
ほのぼのタグ詐欺な回ですいません。
そして、これにてこの章はお終いです。
また閑話を1~2話投稿させて頂いた後で、新章開始となります。
本日も、ここまでお読み頂きありがとうございました。




