百十四話目 寮に戻ってからと、初めての帰宅の日
「はぁ?そんな事があったのか!?」
「何だってそんな所に1人で居たんだい?」
「怪我は?シエロ君、怪我はしてない?」
いや、そんな事言われても…。
先生達から逃げていたらくせ者に襲われました。
なんて、本人を前にしてはいくら無神経な僕でも流石に言えないでしょ…。
あの後、僕は保健室で体がちゃんと動くようになるまで寝かせてもらってから、先生に送られて寮へと帰って来た…んだけど…。
下校時刻よりも遥かに遅くなってしまっているわ、先生に送られて帰ってくるわで、何事かと心配した同室の3人から詰め寄られています。
しかもその時、たまたま妖精達が誰も側にいなかったもんだから、その事で3体の妖精達からも泣きつかれる始末。
「僕はすぐクラレンス神父様に助けて頂いたので、ご覧の通り怪我も無く無事ですから。ね?」
『私、ヒック。もうシエロから離れない~。シエロごめんねぇ~?』
『わだしもだぁ~。ごめんよぉ~!』
『ふろくんもでしゅ~。しえろしんだらいやらも~ん。あ゛~、あ゛~』
いや、だから大丈夫だってば…。
神父様とか先生にすぐ助けてもらえたんだから、ね?ね?
だから離れなくても良いから、せめて泣き止んでよぉ~。
「でも、この時間まで体が動かなかった訳ですよね?ランスロット先生、シエロ君は一体どんな魔法を?」
「えぇ、私も直接診た訳ではないのですが、クラレンス神父とアテナ先生によると神経を麻痺させる類の魔法のようです。」
「何でシエロはそんな奴に襲われたんです?入学して半年くらいの奴が恨みを買う訳ねぇでしょうし…」
「それが…。本当はクラレンス神父が持っていた魔道具を狙っていた様なのです。ですが、たまたま私達と一緒に居たシエロ君の方が狙われてしまって…」
あっ、妖精達を体中にくっつけたまま宥めてたら、いつの間にか今度は先生がマルクル先輩とランチャー先輩から問い詰められてる。
「無事で、んっく。良かったよ~」
えっ?ブロンデまで何で泣いてるの?
よしよし、泣くなよぉ~(困)
ん~、しかしクラレンス神父から大体の話は聞いたけど、あれって何者だったんだろう…。
さっきから一所懸命顔を思いだそうとしてるんだけど、ひょろりとした細長い体にスキンヘッド頭、これしか思い出せない…。
あの時、確かに何か思いつきそうだったかんだけどなぁ…。
《ムー、ムー、ムー》
とその時、ステータスカードの呼び出し音が部屋中に響き渡った。
その呼び出しに心当たりがあったのか、ランスロット先生が慌ててカードを取り出す。
「はい、フェザーです」
あぁ、なんだ今日は電話モードだけだったのか…。
スカ○プモードなら相手の顔を覗いてやろうと思ってたのに(悪)
「えぇ、はい、はい。あぁ良かった。はい、ありがとうございました。はい、失礼致します」
《プッ》
あっ、電話終わったみたい。
「皆さん、安心して下さい。シエロ君を襲い、クラレンス神父から魔道具を奪い取ろうとした犯人が捕まったそうです」
「本当ですか?」
「えぇ、理事長自らが動いて下さったので、すぐ捕まったそうです。その時、プロクス君の精霊様が助けて下さったそうで―――」
《コンコン》
あれ?
犯人逮捕の報告に、308号室の面々が歓喜の声を今あげようとした時、不意に部屋の扉がノックされた。
《コンコン》
今頃誰だろ?
「どうぞ~?」
マルクル先輩も少し疑問に思ったのか、首を傾げながら入室の許可を出した。
《ガチャ》
「マルクル、シエロは無事?」
「シエロ!?」
なんと部屋になだれ込んで来たのは、我が兄姉達でした。
えっ?さっきの今で、何処から話しを聞いてくる訳?
と思っていたら兄さん達の後ろから、そーっと部屋の中をスパーク君改めカグツチ君が覗いていた。
あぁ、そう言えばさっき、ランスロット先生がプロクス兄さんの精霊がどうとか言いかけてたっけな~、とか納得しつつも少し和まされていると、両脇から兄姉2人に抱きつかれた。
「心配したんだよ?」
「無事で良かった…。兄様からお話しをお聞きした時、生きた心地がしなかったのよ?」
心配させちゃってすいませんでした、な気持ちでいっぱいなんだけどさ…。
どうして我が兄姉は人の首を絞め……きゅう…。
――――――
僕が兄姉達に絞め落とされてから、早いもので2ヶ月と半月が経った。
あれから特に何も起きることは無く、明日からいよいよ冬休みで…。
えっ?急展開過ぎるって?
しょうがないじゃん、あの後朝まで気絶コースだったし、その後も安静にしてなさいって言われて大人しくしてたんだからさ~。
しかも先生からは、
《「学園に忍び込んだくせ者に関しては、理事長がどうにかするのでシエロ君は心配しないで下さいね?」》
と言われただけで、その後進展したとも、忍び込んだあいつがどうなったのかと言う事も教えてもらえなかったんだしさ…。
って言うか、聞いてもはぐらかされたんだもん!
と言う訳で、疑問ばかりが残って気持ちの悪い事件だったけど、教えてもらえないのは僕の力不足だと諦める事にした。
あ~、それにしても漸く家に帰れるんだなぁ~。
意外と1年って長かったね(笑)
「いやいやいやいや、シエロ。家に帰るのは良いとしてさ、何でテレポート装置を使わないのさ?」
「そうよ、せっかく使わせて頂けるのよ?それに貴方、やっと体が治ったばかりじゃないの…。」
え~、そう言われてもなぁ…。
確かにここんとこ体の調子は良くなかったけどさ、それは回復魔法を使いまくった反動じゃないかしら?ってアテナ先生も言ってたし、襲われた事とは関係ないと思うんだけどなぁ…。
「そうだよ。ゴードンさんからテレポートの練習をしておけって言われた件だったら、ゴードンさんから君が無理しない様に見張っておけって言付けられてるから、今回はやらなくて良いんだ。むしろやっちゃ駄目!」
えっ?あれ?マルクル先輩いつの間に?
此処は教室棟のラウンジだから、何時、誰が通りかかったって不思議じゃないし、この2人は凄い目立つから、見つけやすいっちゃ~見つけやすいんだけどさ、あんまりタイミングが良くて驚いちゃったよ。
「僕が連れてきたんだ。シエロ君はすぐ無理するからね。マルクル君の言葉なら聞いてくれると思ったんだよ」
おっふ、カグツチ君…。
うわぁ~、僕って信用ないんだなぁ~。
「凹んでるところ悪いけど、そんな訳だから、明日はちゃんとテレポート装置を使って兄弟仲良くお家へお帰り?もうテレポート装置を管理してらっしゃる先生には話しをつけてあるから、明日は朝一番で帰れるよ?」
「そんな事までさせてしまったのかい?マルクルありがとう」
「マルクル先輩のお手を煩わせてしまい、申し訳御座いませんでした。おかげで助かりましたわ?シエロは私達の言う事など聞いてはくれないのですもの…」
うぅ、兄さん達の視線が痛い…。
どさくさに紛れて妖精達まで僕の事睨んでるし…。
そこまでされなくても、ちゃんと説明されれば大人しくテレポート装置で帰るよぉ~(泣)
え?信用出来ないって?
うわ~ん!!
シエロがすぐ締め落とされるのは、チビだから丁度首の位置に手がいきやすい為です。
しかし、シエロはその事に気がついていません(笑)
本日もここまでお読み頂き、ありがとうございました。