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百十二話目 クラレンス神父と特殊な眼鏡の日



 遠足騒動から3日が経った。


 あれから大きな騒ぎはなかったけれど、事後調査としてランスロット先生が裏山に行ってしまったから今日の授業は担任不在で行われた。


 代わりに副担任のスクルド先生――あの人副担任だったのか――が来てくれたから授業自体は滞りなく進んでいったんだけど…。



「何でクラレンス神父が此処にいるんですか?」


 何故か僕の目の前には裏山へ調査に行ったはずのランスロット先生と、何時ものカソックを着たクラレンス神父が立っていた。


 一応放課後だし、ランスロット先生の方は調査が終わったのかな?で良いとしてもさ、何であんたが此処にいんのよ…。



 え?此処って何処だって?


 ん…と、教室棟のラウンジ?

 喉渇いたから何か飲んでから寮に戻ろうかと思ってさ?



「久しぶりにお会いした第一声がそれですか…。私は学園側から頼まれて、ランスロットと共に裏山の調査をしていたのですよ」


「クラレンスは探査技能が高いので、理事長から私の補佐をする様に依頼されたそうなんです。で、その調査報告をしに此処までご足労頂いたんですよ」


 心底楽しそうに笑うクラレンス神父の言葉に、苦笑気味のランスロット先生がそう被せて補足してくれる。


 ふむ、確かにいくら親しい人だからと言っても、挨拶も無しにいきなりそんな事言ったら失礼だよね?

 担任のランスロット先生的に、苦笑もするってもんだ…。



「そうでしたか。それとご挨拶が遅れて失礼致しました。クラレンス神父様、お久しぶりに御座います。それからランスロット先生、お帰りなさいませ」


「いえいえ、私とシエロ君の仲じゃないですか。気遣いは不要ですよ?」


「まさかドラゴンに襲われるとは思いませんでしたが、何とか無事に帰ってこられました。そうだ、シエロ君この後お暇ですか?」


 はい?


 今ドラゴンに襲われたとかサラッと言わなかった?


 まぁクラレンス神父がいるし、ドラゴンくらいすぐ倒せたんだろうけど、それとこれからの僕の用事の有無が何処で繋がってくるんでしょう…。


「ランスロットは【これ】について聞きたいんだそうですよ?」


 クラレンス神父は自分がかけている黒縁眼鏡を右手の人差し指でトントンと指差した。


 あ~、目が悪い訳でもないクラレンス神父が急に眼鏡をかけて現れたらそりゃ気になる、か…。


「なるほど。あの騒ぎで今週は部活動もお休みになりましたし、ちょうど暇を持て余していたんです。今から飲み物を買って寮へ戻るところでして…」


「そうですか!では私の部屋へ行きましょう!!」


 えっ?今すぐ?


 あれ?理事長への報告は?


 って言うかせめて最後まで言わせ…。


 えっ?ちょっ、ちょっと…。

 自分で歩くから!


 いや、ちょっと押さないで下さいよ!!


――――――


《コポポポポ》


「さぁ、どうぞ?お茶が入りましたよ?」


「あっ、僕の分までスイマセン。いただきます…」


 自分の部屋まで僕を引きずり込んだランスロット先生は、ご機嫌にお茶の準備を始めた。


 んで、いつかご馳走になったものと同じお茶を出してもらって、緑茶好きの僕はご機嫌にほっこりしています(笑)



 でも、良いんですか?


 仮にも神父様が教会を離れてこんなところまで来ていて。


 人間の足なら、2日は掛かる距離ですよ?


「良いんですよ。僕が飛行術を使えるのはランスロットも知っていますからね。空を飛べれば此処まで二時(ふたとき)も掛かりません…」


 ランスロット先生がお湯を取りに行った隙に僕らは小声でくだらない話しをし始める。


 何だかんだ神父様も僕の正体…、と言うか前世の記憶があるとか色々知っている人なので、気兼ねなく話せる数少ない人だ。



「なるほど、光の魔法を使って飛んでいるとか何とか言って誤魔化してたんですね?」


「おや?誤魔化すとは人聞きの悪い…。あくまでそう言う魔法が使えると説明したまでですよ…」


 またそんな事言ってごまかして…、おっと。



「お待たせしました。何のお話しですか?」


「神父様に眼鏡の具合をお聞きしていたんです。新しい試みでしたので、不具合があってはいけませんから」


「貴方も人の事は言えないじゃありませんか…(ボソッ)」


 あはははは~。


 聞こえませんなぁ~(笑)


 でも、不具合無く撮れたでしょ?


「えぇ、バッチリでしたとも(小声)」



「あぁ、なるほど。誰しも新たな試みは不安になるものです。それが更に新しい技術なら納得出来るものでしょう。して、クラレンスのこの眼鏡には一体、どんな機能がついているのですか?彼に聞いても詳しくは教えてくれないのです」


「シエロ様に特別に作って頂いた代物でしたからね?シエロ様の許可を頂いてから説明するのが妥当かと思いまして」


 別に僕を気にする必要なないんだけど…。


 単に神父様が説明するの面倒くさかっただけでしょ?



「……………」


 あっ、さっきまで僕の心の声が聞こえてたはずなのに無視してる!


 やっぱり面倒くさかったんだな?


 ったくも~…。


「そんな大層な代物ではありません…。先生【肖像画撮影機】をご存知ですか?」


「えぇ、昔とある魔道具技師が作った素晴らしい魔道具の事ですね?ただ大きすぎて持ち運びしづらく、3~4台作られただけのハズです。確かアーサーが持っていましたね?」


 え?


 あれって世界に3台くらいしかない代物だったの!?


 実家のガラクタ置き場に置いてあったから――しかも壊れてたし――そんなに大層な物だとは思ってもいなかったよ?



 それならそうと早く言っといて下さいよ!クラレンス神父!!


 貴方、うちにある【肖像画撮影機】を小型化出来ませんかね~?って言ってただけじゃんか!?


 せめてレア物ってくらい言って…。



「………」


 あっ!くそっ、また無視してるし…。


 くっそ!涼しい顔しやがって…!!



 そう、あの眼鏡に隠された機能とはカメラモードになるって事。


 あの眼鏡を掛けたままウインクするとシャッターが切られる様になってて、センサーがウインクを感知すると、まず空間魔法で撮影したい空間を特定、次に光魔法で眼鏡のフレーム横に取り付けられた小さな空間属性の魔石に焼き付けるって仕組みになってる。


 とは言えメモリーカードとなる魔石自体は小さいから、撮れても30枚くらいが限度。


 その度に魔石を交換しなくちゃいけないしちょっと面倒だけど、その場で現像しない分、かさばらなくて良いかな~?


 何て軽く思ってたから油断してた…。


 説明する度にランスロット先生の目の中の輝きが増していって、終いにはクラレンス神父から眼鏡を奪って観察し始めた。


「神父様、撮影した魔石はどちらに?」


「先に外しておいて正解でした…。此方がその撮影し終わった魔石です。理事長には先程見て頂きましたが、やはり紙等に転写して頂けますか?」


 了解です。


 と撮影済みの魔石をクラレンス神父から受け取ると、異空間リングから紙の束を取り出す。


 これは、以前師匠に頼んで作ってもらった写真用紙。


 こんな紙が欲しいんだと簡単に説明したら次の日にはこの紙を作って来てくれた。


 まだあの時はステータスカードを作っていた時だったのに、快く作ってくれた師匠には本当にいくら感謝してもし足りない。


 まぁ、その分後で神父様に作ったのとは別の形のカメラを作る羽目にはなったんだけどね?


 因みにそっちはポラロイドカメラ型。


 神父様の希望が、手放しでも撮影出来るカメラだったからそうしただけで、本当ならこの形にしたかったという趣味の産物(笑)


 では早速…。


「《光操作:転写!!》」



 この魔法も、カメラと共に作り出したオリジナル。


 だけどやり方を覚えれば意外と簡単だから、神父様には是非とも覚えて欲しいところだね。


 何せこの人、魔石3つ分撮り切ってるから数が多くて凄く面倒くさい!


 何だよ、使用初日に90枚って!!


 あ~、前の世界で写真の現像を一気に500枚とか出してた自分を叱りつけてやりたい!


 90枚だって大変だったんだぞ!?


 …………ってあれ?


「神父様、この方はどなたですか?」


「どれですか?あぁ、一枚目に写っている青年ですね?彼はブラザー・ランパート。私の後を継いで、神父になる青年です。実は先程まで一緒だったのですが、ランスロットがこうなるのが分かりきっていたので、先に帰したのですよ…」


 へぇ~。


 この人がクラレンス神父の後継者か…。


 写真の中には、驚いた様な顔をしたプラチナブロンドでエメラルドグリーンの瞳の青年が森の中で立っていた。


 あぁ、言われてみれば神父様と同じカソック着てたね?



 あっ、次の写真ではそのランパートさんが苦笑してる。


 次のではランスロット先生と楽しそうに話してるし、次の写真では難しい顔をして正面を見つめているし、次のはまた笑顔のランパートさん…。



 ってどんだけランパートさん撮ってんだよ!?


 初孫の写真を撮りまくる爺さんかあんたは!!!






初孫にデレデレする爺さんの如く、写真を撮りまくるクラレンス神父でした(笑)


本日もここまでお読み頂きありがとうございました。



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