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百十一話目 お帰りなさいの日



 続いて帰ってきた第2陣は、第1陣とは比べ物にならないほどに重傷者の数が多かった。



「怪我人に回復を!もしくは回復薬を飲ませてくれ!自分で飲めない様な奴には直接ぶっかけても構わない!!」


 6年B組の担任だと言う女の人が、体育館に転がり込んで来るなりそう叫ぶ。


 慌ててランスロット先生とアテナ先生がその女の人に近づく。


 よく見るとその先生の背中には力無くグッタリとしたヒューマン族の小柄な女の子が背負われていて、見た目からも危険度が高いのが分かる。


 何故なら女の子を下ろした先生の背中がその子の血で真っ赤に染まっていたから。



 オナカカラアンナニチガデテル…。



 その姿は否応なく死の恐怖を思い出させ、足が勝手に震え出す。


『しっかりしなさい!貴方は今、助ける側なのよ?』


「はっ!」


 ありがとうブリーズ…。


 そうだよね?


 戦いの場にも行ってないくせに、回復役がこんなんじゃ情けない。


《パンッ》



 両手で頬を挟むように叩いて気合いを入れ直す。


 昔からよく使われる、ベタな方法だけど、本当に狭まっていた視界が広がった様に感じられるから不思議だ。


 って事で、よっしゃ!気合い入った!!


 あの先輩はアテナ先生にお任せするとして、他の奴ら!ジャンジャン回復してやるから僕の前に並べー!!!


『並べー!!』


――――――


「悪い、次はこっちを頼む」


「はいっ!今向かいます」



 第2陣の回復を始めてから、かれこれ1時間は経っただろうか?


 第1陣の分と合わせると、大体2時間強回復魔法を使いっぱなしだ。



 まだ感覚的に魔力には余裕がありそうだけど、後どれくらい続くのだろう…。


 第2陣は重傷者の方が多くて、軽傷者の治療をあっという間に終えた僕達は、今は先輩と2人体制で重傷者の治療に回っている。


 彼女の名前はサキ・ウェッジストーン。


 3年B組の生徒で、ランスロット先生が顧問を務める【万能薬研究会】のメンバーなんだって。


 あっ、因みにクレアさんはもう1人の男の先輩にくっついて反対側を回っているよ?


「シエロ君、そっちの足を支えていて!」


「了解ですウェッジストーン先輩!スイマセン、痛いでしょうがもう少し我慢してて下さいね?」


「あっ、あぁ…」


 今、僕の目の前には左足が千切れた猫族の男の子が力無く横たわっている。


 痛みに眉をひそめ、呼吸も多少荒いものの、彼は意識もハッキリしていて、此方の質問に対する受け答えもしっかり出来ていた。


 だから、もう少しだけ頑張ってくれよ~?


 幸い千切れた足は手元にあるし、繋げる事は可能なんだからな~?


 それに、ウェッジストーン先輩は3年生ながら魔力操作が抜群に上手で、魔力量はそれなりながら高度な回復魔法もお手の物。


 現に今も僕は千切れた足を元の位置に戻し、怪我人の体を支えているだけだ。



「我が力の下に命ずる。彼の者の傷を癒やし、離れた身体を元に戻したまえ。メガヒール!!」


 メガヒールは名前のまま、メガなヒール(笑)


 ヒールは比較的軽傷な怪我を治す魔法で、ハイヒールは骨折までくらいの重い傷を治す魔法。


 その上がメガヒールです、はい。


 嘘です。


 いや嘘ではないけど、ちゃんと説明するとね?


 【死んでなければ大体治せる】と言うのがメガヒール。


 でもその分、魔力の消費が激しいから流石の先輩もガス欠気味だ。


「はぁ、はぁ。治療完了…。先輩、意識はありますか?」


「あぁ…、ありがとう…。おかげで楽になったよ…」


 失った血液までは戻らない為、まだフワフワしているみたいだけど、土気色だった顔に赤みも戻ってきているし、どうやら大丈夫みたいだね?


「あっ。増血剤と、先輩の分の魔力回復薬を先生から頂いてきますね?」


「増血剤と、魔力回復薬ですね?どうぞ?」


 え?


 体を支えていた先輩を床にそっと寝かせ、先生のところへ薬を貰いに行こうと立ち上がりかけた時、僕の後ろからニョキッと手が伸びてきた。


 伸びてきた手はそのままウェッジストーン先輩に魔力回復薬を手渡し、僕ごと猫族の先輩を抱き込み薬を飲ませ始める。


 いや、流石に重いんですが…。


「フフ、マルコ君で怪我人の治療はとりあえずお終いです。2人ともよく頑張りましたね?」


 振り返るとにこやかなランスロット先生の顔が目に入る。


 あぁ、良かった~。


 もう怪我をしている人はいないんだ…。


 ………。


 って違うよ!何で僕先生に抱っこされてんの!?


 そんで何でウェッジストーン先輩はニヤニヤしてんの?



「うひひっ、ショタ萌えのランスロット先生も有りだわ…」


 ひぃっ!!何か怖いこと言ってる!!??



「アハハ、元気そうで良かった。特にシエロ君は魔力回復薬を一度も飲んでいないので心配だったんですよ?」


「えっ!?シエロ君って1年生ですよね?大丈夫?無理してない?」


 あれ?そうだったっけ…。


 あぁ~、そう言えばウェッジストーン先輩の為に何回か魔力回復薬を貰いに行ったけど、自分では飲んでなかったっけか。


「えと、大丈夫そうです。特に体調の変化はみられません」


「いや、そうじゃなくて…。あっ!ステータスカード見ても良い?疑ってる訳じゃないけど確認したいの」


 ステータスカードか…。


 そういやあれって魔力値確認出来るんだっけね?


 すっかり忘れてた(笑)


「えっと…。はい、ウェッジストーン先輩」


「ありがとね?んーと…!!!?」


 あれ?デジャヴ?


 先輩は驚愕の表情を浮かべながらカードと僕の顔を交互に見つめている。


 何か今年に入ってから何回かこの光景を見ている気がするんですけど…。


「んー。サキさんが驚くのも無理はありませんね…。サキさん、私にも見せて頂けますか?」


「はっ、はい!」


 先生は僕にも見やすいようにカードを下げてくれた。


 えーと、どれどれ…。


体力値:200/350

魔力値:600/1600


 あ~、前回見た時は体力値が300で魔力値が1000だったはずだから、少しは上がったんだなぁ~。


 でも一気に600上がったのは普通に嬉しいかも(笑)


「シエロ君…。貴方どんな修行をしたらこんな短期間に魔力値が600も上がるんですか…」


 えっ?


 これってそんな呆れられる様な事だったの?


 ランスロット先生の呆れ顔っぷりが半端ないんですけど!?



「えっ…と。ゴードン師匠に教えていただいたやり方で修行をしただけですが…」


 オドオドしながらランスロット先生に正直に話すと、ランスロット先生の呆れ顔がさらに深くなる。


 ギョヒィ!!


 イケメンの顔が崩れてますよ!?


「あぁ、もしかして先日頂いた魔導袋もそれの一環でしたか?」


「はっはい…。そうで――」


『しえろ~、ほのおのしぇいれいしってう?』


 あれ?フロル起きたの?


 って言うか炎の精霊って何の話し?


『んちょね?ぷろくしゅにぃたのとなりに、ほのおのしぇいれいがいうれしょ?』


 ???


 え?兄さんの隣に炎の精霊って何言って…。


 炎の精霊!?


『山の中からドデカい炎の気さ感じるだよ。もしかしたら…』


 フロルを魔石の中で見ていてくれていたクレイも顔を出して、僕が一番欲しかった情報をくれる。


 炎の精霊が、兄さんの隣に居るって!?


 帰ってきた?


 マジで?


「先生!」


「えぇ、たった今私の方にも連絡が入りました。皆無事だそうです。すぐに戻って来ますよ?」


 先生の穏やかな笑みを見て、僕はたまらず外へ飛び出した。


――――――


 暮れなずむ学園の中を、僕は校門目掛けて全力で走る。


 巨大な校門が見えてきた頃、山側から歩いてくる一団の影が見えた。


「兄様ーー!!」


 思わず大声で叫ぶと、一団の中から2つの影が飛び出し、此方に向けて走って来た。


「シエロ!」


「兄様、無事で良かった…。あれ?」


 兄さんの無事をあちこち触りながら確認していると、急に僕達の周りだけ明るくなる。


 そう言えば飛び出してきた影は2つあったなと兄さんの隣を見れば、メラメラと燃え上がる髪の毛を持つ少年が、ニコニコと笑いながら僕らを見つめていた。


 着ている物はこの学園の制服を模した様な物だし、背丈も僕が知っている高さではなかったけど、彼の事を間違えるハズがない。


「隣の人ってもしかして、すっ、スパーク君!??」


「ただいま♪」


 ニカッと彼が笑うと、チラリと八重歯が見えた。


 あぁ~、本当にスパーク君だ~。


「お帰り~。兄様を助けてくれてありがとう~」


「アハハ、兄弟揃っておんなじ反応だぁ~♪」


 スパーク君に抱きつくと、何故だか笑われた。


 何か知らんが楽しそうだな…。


 あっ、そうそう。


「スパーク君名前は?何て名前を貰ったの?」


「【カグツチ】だよ~?シエロ君が考えてくれたんでしょ?」


 えっ?まさかの【カグツチ】採用されたの?


 まぁ、今のスパーク…、カグツチ君の姿を見たら納得な気もするか…。


「2人ばかり話しててズルいよ…。シエロ!よく見たら血だらけじゃないか!?」


 え?あぁ、そう言えば途中からブレザー脱いで回復役してたもんだから、Yシャツが血だらけになってたねぇ…(笑)


「僕の血じゃありませんから、ご心配なく。今日は5年生がいなかったので、1年生の僕も治療のお手伝いをしていたんです」


 急にオロオロしだした本日の英雄2人に笑いをかみ殺しながら、そう説明する。


 ルーメン姉さん率いる【回復魔法の当たり年】な5年生は、朝から隣町の落盤事故現場へ行っていて留守なんだよね?


 1年生が10人に1人、人数が多い6年生でも7人に1人くらいしか回復魔法の使い手がいない中で、5年生は3人に1人が回復魔法を使えるって言うんだから、その多さが分かるはず。


「えっ?じゃあルーメン達学園にいないの?」


 姉さん達が出て行ったのは兄さん達の後だったから、兄さん達6年生は知らないはずだよね。


「はい。何でも隣町の鉱山で落盤事故があったそうで、応援として呼ばれたんです」


「そうなんだ…。じゃあ4年生から下の学年の子達だけで6年全員の治療を行っていたんだね?大変だったろうに…」


「アテナ先生やランスロット先生がいらっしゃいましたから、先輩方と力を合わせて何とか乗り切る事が出来ました。さぁ、それよりお疲れでしょうから学園の中へ入りましょう?お腹も空いてらっしゃるでしょ?」



「おぅ、腹減った~」


「疲れた~。あっ、シエロ君、プロクスに回復用の魔道具ありがとね?おかげで助かったよ…」



 わっ!ゾンビ!?


 と思ったらなんだ、エルドレッド先輩とマルクル先輩か(笑)


 回復用の魔道具って事は、昨日兄さんに渡したアレだよね?


 使わないに越したことはなかったけど、役にたてたなら本当に良かった。


 うん、兄さんの眼鏡以外は無事みたいだし、ね?(笑)



 はぁ、さっきまで重傷患者を沢山見ていたからか、知り合いや身内の無事を確認したら安心して力が抜けちゃった…。


 あ~、僕もお腹すいた!!


 早くご飯食べよう?



 僕達が笑いながら学園に戻って行く姿を、東の空から顔を出した星が見つめていた。







腐女子系女子のサキ先輩でした(笑)


本日もお読み頂きありがとうございました。



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